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エキスパートが足りない!

例えば時計業界。高級時計の需要が高まり、2000人の時計職人が不足しているという Keystone

スイスの労働市場でのエキスパート不足は深刻だ。企業は優秀な人材を外国に求めており、雇用市場はグローバル化している。

人材派遣会社マンパワーによると、企業の半数以上がリクルート問題を抱えているという。特に金融と重工業業界では人材の取り合い状態だ。

 「工業や金融など1部の業種では、去年あたりからエキスパート不足が深刻になりました」とマンパワーのチャールズ・ベラス氏は語る。スイス工業業界は昨年10月、1500人のエキスパートが不足し、全体的には5000の人員不足だと訴えた。景気が上昇し続ける限り、有能な人材を確保することは企業にとって常に難しい問題となるだろう。

国外まで進出して求人

 景気の上昇による求人増のほか、スイスは少子化問題も抱える。少子化により若者の人口が減少すれば、有能な人材もおのずから減る。また、昨年下半期の失業率は前期比で0.5%下がり、3.3%だった。スイスは失業率が伝統的に低く、企業にとっては今すぐにでも欲しい人材を得るためには不利だ。

 ベラス氏によると、スイス企業はすでに隣国のフランス、ドイツ、イタリアまで進出してリクルートをし始めたという。しかし、こういった市場はその国の企業の需要も高く、短期間で枯渇してしまうだろうと指摘する。

エキスパートの取り合い

 同じく人材派遣会社アデコのミヒャエル・アゴラス氏によると、人員派遣会社もインターネットを利用し、ヨーロッパ全土にわたって有能な人材をリクルートするようになった。「需要が高いのは金融のエキスパートとリサーチ、開発部門のスペシャリストのほか時計技師ですが、こうした状態は今年いっぱい続くでしょう」と言う。また単純労働者ではなくホワイトカラーを求めるようになり、この5年間でスイスの雇用市場は変化したと指摘する。

 ジュネーブの金融界ではすでに、専門職の人員不足に悩んでいるという。ジュネーブ・ファイナンシャルセンターのスティーブ・ベルナール氏は「ジュネーブの銀行はロンドン、ニューヨーク、シンガポールと競争していますが、過去2年間、金融業界は急速に拡大しました。このため、トレーダーと資産運用の両方のエキスパートが求められています」と語り、金融商品部門を例として挙げ、外国に従業員を求めるケースが多くなったと指摘した。

 フランス語圏の日刊紙ルタン ( Le Temps ) によると、クレディ・スイス、UBS銀行などスイス大手銀行は、現在それぞれ600〜700人の人材を募集しているという。

工業部門でも深刻

 重工業界も危機感を抱いている。中国とインドまで出かけ100人を新しく雇用したABBのほか、スルツァーやゲオルク・フィッシャーも求人には苦労しているという。また、高級時計の需要の高まりから時計業界では、2000人のさらなる雇用が必要だという。時計職人、技術者、その他専門家と幅広い職種で人材不足で、国外へ人材を求め、特別なトレーニング授業を行い、退職年齢に達した人にも引き続き働くよう要請している。

 「現在企業は、雇用市場の変化に直面しています。退職年齢を引き上げたり、女性を雇用したり、職業教育を提供することに積極的にならねばなりません」とマンパワーのベラス氏は企業の対応の必要性を指摘する。

swissinfo、アダム・ボーモント、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 意訳

1990年代はスイスも不景気で失業率が上昇し、実質的な失業者はいないとされてきたスイスでも1997年には5.7%を記録した。その後景気はゆっくりと上昇し、2001年の失業率は1.7%まで回復した後、2006年は3.3%まで再び上昇した。

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