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コロナ危機 大学生のメンタルヘルスに大きな影響

過去18カ月はスイスの多くの学生にとって厳しいものだった
過去18カ月はスイスの多くの学生にとって厳しいものだった Mauritius Images / Fabio And Simona

学生たちが大学へ戻る準備をする中、過去18カ月の間で学生たちのメンタルヘルスにいかに影響を及ぼしたかを示す複数の調査が発表された。その中には、政府の支援強化を求める意見もある。

ベルン大学で数学を専攻する大学生クレール・デコンブさんは今年1月、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)のせいで、新学期がまたリモート授業になると知った。デコンブさんは、全国の学生がパンデミックによる苦しみや不安を匿名で共有できるようにと、「Anxiétudes Supérieures Suisse(直訳でスイス高等不安機関、の意)」というページをインスタグラムに立ち上げた。

これまでに寄せられた100件以上の体験談の中で、学生たちは摂食障害や、決まったスケジュールがなくなったことでそれが悪化したこと、パンデミックの圧力が高まる中で試験を受けることへの不安など、日々の苦しみを明かした。また多くの学生は、社会的孤立を感じると訴えた。

デコンブさんは「コロナ危機の真っただ中で他の学生に会えない状況では、苦しいのは自分だけと考えるのは仕方のないことだった」と話す。

スイスに限らず、新型コロナウイルスは過去18カ月間の大半を自宅で過ごした学生たちの日常生活を混乱させただけでなく、メンタルヘルスに害を及ぼしたケースも多かった。

この秋、大学ではマスク着用を条件に対面授業が再び解禁される。しかし、連邦政府と州政府が頻繁に規制を変更している現状では、また新しい規則が施行される可能性もある。

学生のメンタルヘルス調査の1つは、チューリヒ応用科学大学(ZHAW)によるものだ。昨年3月から、同大の学生を対象に複数回、パンデミックとそれに伴う規制がどのように自身の心身の健康に影響を与えたかを調べた。全学生の半数以上が1回以上調査に協力した。

調査を率いたジュリア・ドラトヴァ教授は、特に驚くべき結果の1つとして、学生の間でのうつ病の有病率が国内のそれ以外の3倍だった点を挙げる。「パンデミック中に複数の時点でうつ病の調査をしたが、数字は下がっていかなかった」と同氏は話す。

クレール・デコンブさんは
クレール・デコンブさんは学生の苦境を強調してきた Claire Descombes

うつ病の学生

それに比べ、パンデミック初期に学生の間で高かった不安感は、時間の経過と共に和らいだ。公衆衛生が専門のドラトヴァ氏は、ウイルスの当初の新奇性が減ったためだと考える。同氏は「しかし、うつ病は一般的な恐怖感よりも、孤立や支援の欠如、構造や生活の変化といったものに大きく関わる」とし「これらの要素は明らかに残存している」と説明する。

図書館が再開し、スイスの学生たちは9月からキャンパスに戻ることが予定されているが、学生たちの健康がコロナ以前のレベルに戻るまでにはしばらくかかりそうだ。同氏は「メンタルヘルスに強い影響を受けた学生たちにとって、すぐに克服できるようなものではない」と話す。

大学時代は新たな章の幕開けであり、大人の世界と独立に向けて移行する時期でもある。この1年、大学の学部生はロックダウン(都市封鎖)やオンライン授業などで友人付き合いや課外活動、アルバイトなどがなくなったためこの移行が遅れた。多くの学生が実家暮らしに戻ったことも影響している。

パンデミックによる劇的な変化はすべての学生に影響を与えたが、スイス学生連合のゾエ・ビビシディス共同会長は、最も影響を受けたのは初年度の学生だったと話す。「大学に入ったばかりでほとんど知り合いがおらず、大学生活を軌道に乗せるのがより難しくなった」

行動を要請

今年、スイス学生連合はパンデミックが学生のメンタルヘルスに「甚大な」影響が及んだことを強く訴え、政治がこの問題に取り組むよう求める運動を展開した。同団体は多くの学生のメンタルヘルスが限界に達し、また経済的な不安に直面しているとし、コロナに関連した中退者が増加する懸念につながっていると述べ、援助を要請した。政界への要請には、学生への経済的支援、図書館の開館、試験の際に明確な条件を設けることなどを盛り込んだ。

援助の要請にはまた、全国の25万人以上の学生のためにカウンセリングサービスを無料かつ簡単に受けられるようにすることも含まれていた。これは青少年のメンタルヘルスに関する要求に取り上げられ、スイス議会の院の1つで可決された。

ビビシディスさんは、パンデミックによって劇的な変化があったのは学生だけでなく講師も同じだと認める。「大学側も非常に努力した。大学にとっても新しい状況だったからだ」

多くの大学は、オンラインを活用して大学生活をできるだけ再現し、パンデミックの精神的な影響を軽減する方法を模索した。しかし大学側の努力にもかかわらず、多くの学生はそれが十分ではないと感じた。

デコンブさんによると、立ち上げたインスタグラムのページは予想より大きな支持を得た。それによって若者が自分の経験を共有し、ひとりではないと感じられる場所の必要性が明らかになったという。

デコンブさんが「Anxiétudes Supérieures Suisse」を思いついたのは、「Etudiants Fantômes(直訳すると幽霊学生の意味)」という運動がきっかけだった。「この危機の中で学生たちが無視されている事実について声を上げ始めている」人々がいることに刺激を受けたという。パンデミック中にフランスで始まった「幽霊学生」運動は、コロナ危機下の学生たちの苦境に光を当て、より多くの資源と援助の必要性を強調することを目的としていた。

良い面も?

しかし、学生たちが直面した数えきれない難題の影に、良い面もあるかもしれない。

ドラトヴァ氏は、コロナウイルスによって学業が妨げられた学生たちの将来について楽観的だと語る。「今の学生たちはこの経験から多くを学び、多くの困難を克服するだろう。素晴らしい世代になるはずだ」

困難の大半は過ぎ去ったように見えるものの、多くの学生は、新年度の始まりに一抹の不安を感じている。デコンブさんは、大勢の学生がキャンパスに戻ってきた時に大学生活が実際にどんな風になるのか、まだ不確かだと話す。

しかし、現実(世界での)のイベントが再び可能になり、より典型的な学生生活を送ることができそうだということにはとても満足しているという。デコンブさんは「私たちは、できるだけ普通の生活を取り戻したい」と話している。

(英語からの翻訳・西田英恵)

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