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スイス上院、スイスインフォへの拠出廃止案を否決 存続の可能性開く 

緊縮財政策を審議する直前の各国理事会メンバー。
緊縮財政策を審議する直前の各国理事会メンバー。 Keystone / Peter Schneider

スイス全州議会(上院)は17日、2027年以降のスイスインフォへの拠出金を廃止する政府案を僅差で否決した。主にフランス語圏やイタリア語圏出身の議員が反対論を唱えた。来春国民議会(下院)で審議・採決される。 

スイス全州議会(上院)は17日、2027年以降のスイスインフォへの拠出金を廃止する政府案を僅差で否決した。主にフランス語圏やイタリア語圏出身の議員が反対論を唱えた。来春国民議会(下院)で審議・採決される。 

スイス連邦政府は現在、スイス公共放送協会(SRG SSR)の国際放送・配信業務に年間1900万フラン(約37億2000万円)を拠出する。この資金はスイスインフォとスイス・イタリア語圏のオンラインポータル「tvsvizzera.it」の運営や国際テレビ局「3Sat」「TV5Monde」との提携事業に充てられる。スイスインフォはスイス公共放送協会の国際事業の中核といえる。 

上院は17日、この拠出金を2027年から廃止する案をめぐり採決を行った。拠出廃止は約60項目に及ぶ連邦政府の緊縮財政案外部リンクの一環だ。 

緊縮財政案が原案通り連邦議会で可決されれば、連邦政府は年24億フランを節約し、年金や軍事費強化の財源に充てることができる。 

フランス語・イタリア語圏議員が結託 

上院の小委員会は、スイスインフォへの拠出削減を可決するよう本会議に勧告していた。だが17日の上院本会議では、複数の議員が原案に反対した。採決では賛成19票、反対22票の僅差で拠出金廃止は否決された。フランス語圏やイタリア語圏を代表する議員が結託して国際報道業務の維持を訴えたためだ。 

中央党(Die Mitte/Le Centre)のイザベル・シャソ議員は「私たちの現実、私たちの文化、私たちの連邦主義、そして特に私たちの文化的・言語的多様性を説明するプラットフォームを奪うことが許されるほど、世界にスイスの友人は存在しない」と主張した。拠出金を廃止すれば、スイスインフォは現在の10言語配信を4言語に減らさざるを得なくなると述べた。 

「スイスのイメージを強化する必要がある」 

シャソ氏は、スイスインフォが210を超える国・地域の4億3000万世帯に情報を届けていると述べ、「在外スイス人のスイスとの結びつきを強化し、海外におけるスイスの名声を高める」のは、スイス連邦政府がスイス公共放送協会に委託している業務(フォーリン・マンデート)である点を強調した。 

スイス公共放送協会(SRG SSR、以下「協会」)のフォーリン・マンデート(Auslandmandat外部リンク/Mandat pour l’étranger外部リンク)は、スイス政府とメディア企業である協会との間で締結された、国際社会向けの情報サービス提供に関する委託契約。委託内容は、協会が①国外在住のスイス人向け②スイスに関心のある全世界の読者向けのメディアサービス、の2点を提供すること。

委託の目的は、在外スイス人の政治的権利を支援すること、また国外における偽情報に対抗することだ。例えばスイスインフォの報道は、スイスに関する誤解やフェイクニュースを是正し、根拠のある情報の提供に貢献している。

委託業務にかかる費用、つまりスイスインフォの予算は①連邦政府の拠出金②全世帯から強制徴収されるラジオ・テレビ受信料を原資とする協会予算が半分ずつ賄っている。

連邦政府の現在の拠出額(スイスインフォ以外の国際報道サービスも含む)は年間約1900万フランで、協会もほぼ同額を支出している。

カリン・ケラー・ズッター財務相
カリン・ケラー・ズッター財務相は「補助金の事例を探していた」と述べた Keystone / Peter Schneider

他の上院議員はテレビ局「TV5 Monde」や「3Sat」、「tvsvizzera.it」の重要性を訴えた。社会民主党(SP/PS)のピエール・イヴ・マイラール議員は「TV5 Mondeを通じてこそ、私たちは世界に向けて発信できる」と述べた。 

同氏は「世界におけるスイスのイメージを強化する必要がある。世界のフランス語圏はそれを実現する手段の一つだ」と語り、そのための費用としては政府負担は小さいとの見解を示した。 

カリン・ケラー・ズッター財務相は緊縮財政案を擁護した。国際報道の予算の半分は連邦政府の拠出金が充てられているものの、もう半分はスイス公共放送協会自身の予算(主に受信料収入)で賄われていることを説明した。連邦政府が拠出金を廃止しても財源が完全に消えるわけではなく、また国外でもスイスに関連する情報をかつてより簡単に入手できると述べた。 

スイスインフォ存続を求める署名1万7000筆 

ケラー・ズッター氏は「もちろん、この拠出金を維持できるならその方が望ましい。だが私たちは、議論の余地がある助成金を探してきた」と述べ、拠出廃止は「完全に正当化できる」と強調した。 

上院小委員会も以前、財務相と同様の主張をしていた。上院財務委員会の委員を務める国民党(SVP/UDC)のヤコブ・シュタルク議員は、本会議の審議冒頭で「情報は今や世界中でアクセス可能であり、たとえ痛みを伴うとしても、この古い習慣を断ち切る時が来ている」と議論の冒頭で述べた。 

上院で審議が開かれる数時間前、メディア業界の労働組合SSMは連邦内閣事務局にマンデートの維持を求める嘆願書を提出した。 

日・スイス友好議連の議長も務めるエリザベス・シュナイダー・シュナイター氏は17日、嘆願運動「スイスインフォと国際報道委託を救え!」を代表して演説した
日・スイス友好議連の議長も務めるエリザベス・シュナイダー・シュナイター氏は17日、嘆願運動「スイスインフォと国際報道委託を救え!」を代表して演説した swissinfo

スイスインフォ救済を求める嘆願運動には、開始から3カ月足らずで1万7000筆の署名が集まった。在外スイス人協会(ASO)や移住支援組織Soliswiss、在外教育支援組織Educationsuisseのほか、各種メディア団体も運動に加わった。 

連邦政府の緊縮財政案は来春に国民議会(下院)で審議される予定だ。 

編集:Mark Livingston、独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子 

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