戦闘機の爆音、もう限界 観光と基地の町マイリンゲン

静かなアルプスの空を取り戻そうと、スイスの市民団体が観光区域での戦闘機の飛行差し止めを求めて署名運動を始めた。
スイス中部のマイリンゲンは、観光地であるとともに、空軍基地がある。近隣の町ブリエンツも含め、戦闘機の騒音をめぐる地元の住民と空軍との溝は深まるばかりだ。
ブリエンツに住む環境活動家のフランツ・ヴェーバーさんを中心に、地元の住民が「静かな空を」と全国に呼びかける。ヴェーバーさんは2005年11月までに10万人の署名を集めて、戦闘機の騒音問題を国民投票に持ち込む構えだ。基地との共存が問われている。
悪化する騒音
「騒音が激しい場所にわざわざ休暇を取りにやってくるバカがどこにいる」。アルプスが間近に迫るブリエンツでホテルを経営するハンスイェルク・イムホフさんは、吐き捨てるように言う。「毎年泊まりにきてくれる客から言われたんだ。昼夜の別なく爆音が続くようだったら、来年は別のところに行くよって」。
悲鳴のようなエンジン音がイムホフさんの声をかき消す。
住民と空軍との摩擦は強まるばかりだ。空軍が巨額の予算で購入した米国製のF/A-18戦闘機が、従来の戦闘機より出力が高く、エンジンの爆音もはるかにすさまじいためだ。軍事演習は今後、さらに強化される予定だ。
一方、F/A-18戦闘機を操縦するペーター・スーター大佐は「地元の観光業者の懸念を深刻に受け止めている」と話す。しかし、マイリンゲンにある空軍基地を新戦闘機配備の中核にすえる計画に変更はないという。
「F/A-18はただの軍用機じゃないんだ。最高の兵器を兼ね備えている。僕達の任務は上空での偵察だが、従来の戦闘機では確認できなかった谷間の奥深くまでレーザーで識別できるんだ」とスーター大佐は自慢げに話す。
だが、住民の反応はつれない。「本当にそんな戦闘機が必要なのかね。今どき国家の安全を脅かす脅威って一体何なの」と山岳ガイドで環境活動家のエミル・フォイツさんは問いかける。
フォイツさんが率いる市民団体は、マイリンゲン基地での離着陸は2005年には17分おきに起こるとした上で、戦闘機の騒音も従来の4倍に増大すると見込んでいる。
ホテル経営者のイムホフさんはそれでも、こう訴える。「基地そのものを否定しているんじゃないんだ。あんなひどい爆音を出す戦闘機が許せないんだよ。観光業と基地は共存できるはず。その接点を見つけなくては」。
スイス国際放送 デイル・ベヒテル 安達聡子(あだちさとこ)意訳
スイス空軍は米国製のF/A-18戦闘機を34機購入した。
戦闘機の購入費は総額35億フラン(約3,040億円)と、装備の単独購入では過去最高を記録する。

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