スイスのツークにあったクリプト社製の暗号機は、「永世中立国スイス製」の看板で世界100カ国以上に売られていた
Keystone / Ennio Leanza
米独がスイスの暗号機メーカー「クリプト」を利用したスパイ疑惑(クリプト事件)を、政府の諜報機関は当時から認識しており、さらにその恩恵を受けていた――スイス連邦議会の調査により、こんな事実が明らかになった。
このコンテンツが公開されたのは、
今年2月に明るみに出たこの事件について、スイス連邦議会の事業監査代表団外部リンク(団長・アルフレッド・ヘール上院議員)が9カ月にわたり調査。11日に報告書外部リンクが発表された。それによるとスイス政府の諜報活動を担う連邦情報機関(NDB/SRC)は、米中央情報局(CIA)がスイス中部ツークにあったクリプト社に1993年まで関わっていたことを把握していた。NDB/SRCはまた、クリプト社らと協力して外国の機密情報を集めていたという。
クリプト社の製造した暗号機は、永世中立国スイスに対する信頼を背景に100カ国以上が購入した。だが実際には、クリプト社を買収した米CIAや独連邦情報局(BND)が自由に暗号を解読することができた。クリプト社は2018年に分社し、一部事業と名前はスウェーデンのクリプト・インターナショナルに買収された。
報告書によると、スイス当局はクリプト社の暗号機自体を入手したことはなかったものの、暗号機によって盗聴された情報を利用した。議会代表団のフィリップ・バウアー上院議員は、特にスイスがリビアの人質事件で情報を収集するのに役に立ったと説明した。
調査では、スイス政府内ではスパイ事件を誰がいつ把握したかを特定しようとした。政治的に重要な事件であるのに、NDB/SRCやCIA、BNDがスイスにある企業をどうやって連邦議会に気づかれずに利用したかも調査した。
報告書は「この協力関係が長い間、連邦内閣から隠されていたかもしれないという事実は、連邦内閣が果たすべき管理・監督責任が欠如していることも浮き彫りにしている」と指摘した。この点において、スイスの最高意思決定機関である連邦政府もクリプト事件に責任があるとする。
現在の連邦閣僚らは、スイス公共放送(SRF)らが2月に報道する数カ月前の2019年秋にクリプト事件を認識したとされる。
報告書を受けて、スイスの政界からはNDB/SRCやクリプト社、CIAとの関係を完全な解明を求める声が多く挙がった。連邦国防省が2011~14年に関連文書を破棄したという事実も問題視されている。
議会代表団は政府に対し、当局への報告や軍の暗号機調達、情報文書などに関して12項目の是正勧告を発した。
輸出禁止に疑問符
報告書はまた、連邦経済省経済管轄局(SECO)がクリプト・インターナショナル社の輸出許可を取り消したことを批判した。同社は外国の諜報機関とは無関係とされるが、輸出禁止によりスイスでのビジネス縮小を余儀なくされた。
スイス連邦検察庁は6月、クリプト・インターナショナルが輸出申請において虚偽・不完全情報をSECOに提出したとして同社を刑事訴追した。戦争資材の輸出許可を管轄するSECOは、クリプト社が暗号機の輸出を申請した際に虚偽を働いたとみている。
議会代表団は、刑事告訴には法的根拠がないと結論付けた。政府に輸出許可の一時停止を見直し、刑事告訴を取り下げるよう推奨している。
おすすめの記事
スイス・ニトヴァルデン準州の小学校、スマホ禁止へ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス中部ニトヴァルデン準州は5日、スマートフォンをはじめとするIT機器の小学校での使用禁止を発表した。授業目的や緊急時などを除き、全面的に学校でスマホが使えなくなる。
もっと読む スイス・ニトヴァルデン準州の小学校、スマホ禁止へ
おすすめの記事
ジュネーブ国連職員約500人が予算削減に反対するデモ
このコンテンツが公開されたのは、
メーデーの1日、ジュネーブで国連欧州本部職員500人近くが国連の緊縮財政に反対する異例のデモ活動を実施した。
もっと読む ジュネーブ国連職員約500人が予算削減に反対するデモ
おすすめの記事
バーゼルで「カラオケ路面電車」走行 欧州歌合戦に合わせ
このコンテンツが公開されたのは、
5月11~17日の欧州国別対抗の音楽祭「ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト(ESC)」開催中、バーゼルでは「カラオケ・トラム(路面電車)」が運行する。ビンテージ車両で90分間かけて街を走る間、乗客は無料で歌い踊ることができる。
もっと読む バーゼルで「カラオケ路面電車」走行 欧州歌合戦に合わせ
おすすめの記事
ジャッキー・チェンさんに名誉豹賞 ロカルノ映画祭
このコンテンツが公開されたのは、
第78回ロカルノ国際映画祭で、香港出身の俳優ジャッキー・チェンさん(71)に生涯功労賞である「名誉豹賞」が贈られることが決まった。
もっと読む ジャッキー・チェンさんに名誉豹賞 ロカルノ映画祭
おすすめの記事
グミベアが躍る「ロボケーキ」大阪・関西万博スイス館で展示
このコンテンツが公開されたのは、
動くクマのグミ、チョコレート味の電池――大阪・関西万博のスイス館では、ロボット工学者とパティシエ、ホテリエが合作した「ロボケーキ」が展示されている。
もっと読む グミベアが躍る「ロボケーキ」大阪・関西万博スイス館で展示
おすすめの記事
スイス外相、大阪・関西万博で結束と対話をアピール
このコンテンツが公開されたのは、
日本を公式訪問中のスイスのイグナツィオ・カシス外相は22日、2025年大阪・関西万博のスイス・ナショナルデーのオープニングセレモニーに出席し、結束と対話を呼びかけた。
もっと読む スイス外相、大阪・関西万博で結束と対話をアピール
おすすめの記事
フランシスコ教皇死去、スイス大統領が哀悼
このコンテンツが公開されたのは、
スイスのカリン・ケラー・ズッター連邦大統領は、21日死去したローマ教皇フランシスコに哀悼の意を表した。
もっと読む フランシスコ教皇死去、スイス大統領が哀悼
おすすめの記事
WEFのクラウス・シュワブ会長が辞任
このコンテンツが公開されたのは、
世界経済フォーラム(WEF)は21日、創設者で会長のクラウス・シュワブ氏が同日付で辞任したと発表した。
もっと読む WEFのクラウス・シュワブ会長が辞任
おすすめの記事
スイス外相、日本と中国を訪問
このコンテンツが公開されたのは、
イグナツィオ・カシス外相は日本と中国を公式訪問する。
もっと読む スイス外相、日本と中国を訪問
おすすめの記事
TIME誌、スイス人弁護士を「最も影響力のある100人」に選出
このコンテンツが公開されたのは、
米誌タイムズの「2025年最も影響力のある100人」に、弁護士コーデリア・ベール氏がスイス人女性では唯一ランクインした。ベール氏は気候訴訟で異例の勝訴判決を勝ち取った人物だ。
もっと読む TIME誌、スイス人弁護士を「最も影響力のある100人」に選出
続きを読む
おすすめの記事
スイスの暗号化企業、CIAのスパイ活動に関与
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの通信暗号化企業クリプト(本社・ツーク)が半世紀近くスパイ活動を行っていたとの疑惑で、スイス政府が調査に着手したことが明らかになった。
もっと読む スイスの暗号化企業、CIAのスパイ活動に関与
おすすめの記事
スパイ疑惑はスイスの中立性を汚すのか
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの暗号化企業クリプト社をめぐるスパイ疑惑は、永世中立国家スイスのアイデンティティを揺るがしている。スイスの政治家、歴史家、メディアの間ではスイス製の不正デバイスが国の信用に与える悪影響について議論がかまびすしい。
もっと読む スパイ疑惑はスイスの中立性を汚すのか
おすすめの記事
スイスのスパイ疑惑でまたも文書隠ぺい問題が浮上
このコンテンツが公開されたのは、
軍の核シェルターで保管された文書、消えたり現れたりする書類――スイスの暗号化企業が米独の諜報活動に関わっていた過去が発覚したのを受け、スイスでは公文書の保管が民主主義にとっていかに重要か、再び議論になっている。
もっと読む スイスのスパイ疑惑でまたも文書隠ぺい問題が浮上
おすすめの記事
スイス政府がクリプト社を告訴 米独スパイ問題で
このコンテンツが公開されたのは、
米独の情報機関がスイスの暗号機器メーカー、クリプト社を秘密裏に長年所有し、同社のデバイスを使って世界各国の機密情報を収集していたとされる問題で、スイス連邦経済省経済管轄局(SECO)はクリプト社を刑事告訴した。ドイツ語圏の日曜紙ゾンタークス・ツァイトゥングが報じた。
もっと読む スイス政府がクリプト社を告訴 米独スパイ問題で
おすすめの記事
スイス製暗号機で通信傍受されていた国々
このコンテンツが公開されたのは、
危機が起こるたび、そのスイス製の暗号機は「信頼できる」と誤認され多くの国が購入した――スイス・ドイツ語圏の日刊紙NZZは、1997~2019年にスイス経済省が発行した輸出許可証を詳細に調べ、こんな結論を導き出した。
もっと読む スイス製暗号機で通信傍受されていた国々
おすすめの記事
クリプトとCIAの関係 スイス政界に余波
このコンテンツが公開されたのは、
米独の情報機関が1970年にスイスの暗号機器メーカーを秘密裏に買収し、数十年間にわたって同社デバイスを使い世界各国の機密情報を収集していた問題で、スイスメディアでは、両者の関係を認識していたという元閣僚や連邦議会議員の名前が複数挙がっている。
もっと読む クリプトとCIAの関係 スイス政界に余波
おすすめの記事
スイス製暗号機と米CIAの関係 元国防相は「知らなかった」
このコンテンツが公開されたのは、
米独の情報機関がスイスの暗号機器メーカー、クリプト社を秘密裏に長年所有し、同社のデバイスを使って世界各国の機密情報を収集していたとされる問題で、スイスのカスパー・フィリガー元国防相はクリプト社と米中央情報局(CIA)の関係は「知らなかった」と否定した。
もっと読む スイス製暗号機と米CIAの関係 元国防相は「知らなかった」
おすすめの記事
スパイ疑惑、永世中立国スイスに激震
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの企業によるスパイ疑惑がスイス全土を震撼させている。スイス公共放送(SRF)などの国際合同報道で、ツーク州の株式会社クリプトが2018年まで米中央情報局(CIA)のスパイ活動に加担していたことが明らかになった。
もっと読む スパイ疑惑、永世中立国スイスに激震
おすすめの記事
スイス関与のスパイ疑惑、どう解明していく?
このコンテンツが公開されたのは、
「ルビコン作戦」がスイス中を揺るがしている。スイスの暗号機メーカー、株式会社クリプトをめぐるスパイ疑惑の真相を解き明かすため、スイス史上5番目の議会調査委員会(PUK)が立ち上がる可能性がある。危機的な事件が発生した時のみ設立される機関だ。
もっと読む スイス関与のスパイ疑惑、どう解明していく?
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。