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ロシア元政府高官の身柄拘束で、米ロに火花

アダモフ氏の運命はスイスで決まる Keystone Archive

ロシアの元原子力相、エフゲニー・アダモフ氏がスイス当局に身柄を拘束された。米国政府とロシア政府は、共に身柄引き取りを主張して譲らない。

このコンテンツは 2005/05/19 15:44

ロシアの原子力兵器の情報を握るこの人物をどちらの国に引き渡すか、スイス当局は近いうちに決定しなければならない。

アダモフ氏は、5月2日、米国政府の要請によりスイスの首都ベルンで逮捕された。米国は、アダモフ氏がロシアの原子力相を務めていた1998年から2001年の間に、「米国がロシアの原子力施設の安全性向上のために援助した資金から900万ドル(約9億7千万円)を騙し取った」と主張している。

しかし、複数の関係者は「米国はアダモフ氏の容疑を公金横領ではなく、マネーロンダリング(資金洗浄)や脱税など立件理由を比較的軽くして、ロシアの核兵器の情報を得ようとしている」と米国の思惑を指摘する。

「アダモフ氏が国際援助資金を着服したかどうかは、実は大きな問題ではない。米国が欲しいのは、彼の持っているロシアの核兵器プログラムに関する情報だ」ジュネーブ高等国際問題研究所の中東欧専門家、アンドレ・リービッヒ氏は分析する。

米ロ対立の真ん中に放り込まれたスイス

「米国は、ロシアが持つ核兵器の能力を縮小することに力を注いできました。そしてこれを実現するためのプロセスに莫大な援助をしてきたのです」リービッヒ氏はスイスインフォのインタビューに答える。

「アダモフ元原子力相は、当然このプロセスの1番中心にいました。ところが米国は今になって、援助の割りには核軍縮のプロセスが進んでいないことに気づき、怒ったわけです」リービッヒ氏によると、今回のアダモフ氏の逮捕は、米国がロシア政府に核軍縮を早く進めるよう、圧力をかけていることを示している。

ロシア政府も黙ってはいない。自国の防衛機密の中心にいた人物がかつての敵国に渡ることは許されない。モスクワの裁判所はアダモフ氏の汚職容疑に関しすばやく逮捕状を出し、5月17日、身柄引き渡しをスイス当局に正式に要求した。この逮捕劇によって2つの核大国の亀裂が表面化し、悪いことに、スイスはこの対立の真ん中に放り込まれたというわけだ。

難しい選択

米国当局も、6月30日までには正式なアダモフ氏の身柄引き渡し要求を出せるよう、司法手続きを急いでいる。米国からの正式要求が来れば、スイスはどちらの国の要求に応えるか決定しなければならない。スイス政府は両国と容疑者身柄引き渡しの協定を結んでいるが、このような状況では「全ての事情をかんがみて」決定がなされるようだ。

チューリヒ大学国際法のヘレン・ケラー教授は、スイスインフォのインタビューに答えて「今回の司法手続きは迅速にはいかないかもしれません」と話す。「今のところ米国政府は打診のみで、正式な身柄引き取り要求はしていないのです。スイス当局は、米国の正式な身柄引き取り要求を受けてから、要求と罪状が合致しているか調査に入ります」

「その後は裁判になりますが、当然アダモフ氏は上訴する権利があります」ケラー教授は続ける。「例えば彼は、この全ての状況は政治的思惑によるものであって自分は無罪だ、と主張するかもしれません。こうなってくると、スイス当局はさらに綿密な調査を進めなければなりません」

ケラー教授によると、最初に身柄引き取りを正式に要請したのはロシアの方であり、アダモフ氏がロシア国籍だということも含め、現在は米国よりロシアの方が有利な状況だ。しかし、ケラー教授は「一方で、アダモフ氏がロシアで公平な裁判を受けることができるか、という点で懸念が残り、それもスイスの司法判断に影響するかもしれません」とも語る。「現在話題になっている石油大手ユコス社長が、プーチン大統領の怒りを買い会社を解体されて懲役刑を受けたのを見ても分かるように、ロシアには三権分立などありませんからね」

しかし、もしスイスがアダモフ氏をロシアに帰国させない可能性を探った場合、ロシアは様々な形でスイスに圧力をかけてくる可能性もある。「ロシアに住んでいるスイス人がとばっちりを受けることもおおいに考えられます」前出の中東欧専門家、アンドレ・リービッヒ氏は語る。手っ取り早い標的は、ロシアで業務を行っているスイス政府機関や民間企業だ。ロシア当局は彼らに対し、違法行為を犯していると主張するかもしれない。「ロシアの法律はそれぞれが矛盾していて、全ての法律を守るということは不可能なのです」。

swissinfo デール・ベヒテル、 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

補足情報

- アダモフ氏は、5月2日、米国政府の要請によりスイスの首都ベルンで逮捕された。

- 米国は同氏について「ロシアの原子力施設の安全性向上のために援助した資金から900万ドル(約9億7,000万円)を騙し取った」と主張している。

- モスクワの裁判所はアダモフ氏の汚職に対してすばやく逮捕状を出し、5月17日に身柄引き取りを正式に要求した。

- 米国も6月30日までには正式に引き取りを要求する予定。

- スイスがどちらの国にアダモフ氏を引き渡すかは、まだ流動的である。

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