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初冬の華やぎ

ビエンヌ市クリスマスマーケットの起点・Centrale(サントラル)広場にそびえ立つもみの木。 swissinfo.ch

 クリスマスマーケットの季節である。早いところでは、大規模なマーケットで知られるモントルーのように、クリスマスの一ヶ月前から始まっている。小さな町や村でも、一週末だけ、というように短期間のみ開催されるところが多い。冬の行事を大切にし、身の丈に応じた規模で自分達の共同体を彩るスイスの人々がいとおしく思える。

 ジュラ州で最も人気のあるクリスマスマーケットは、谷間の中世都市・St-Ursanne(サンチュルサンヌ)のものである。人口500人余りの小さな古都(旧市街があると、小さくても町と呼ぶそうである)で、十二月の第一週末だけの開催であるが、寒さに関わらず、毎年、大勢の人々が中世の町並やコレジアル教会と絶妙に溶け合った小さな店々を訪ね回る。

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 さて、今年は少し遠出をして他の州のクリスマスマーケットも覗いてみたいとインターネット検索をしてみた。そして、バイリンガルの町として有名な、ベルン州・Bienne(ビエンヌ・フランス語表記/Biel(ビール・ドイツ語表記)のクリスマスマーケットに興味を持った私は、スイス各地に被害をもたらした大嵐「Joachim」(フランス語読みでジョアキム)が去った翌日、雪がちらつくこの町に降り立った。

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 「Nidau(フランス語読みでニドー、ドイツ語読みはニダウ)通り協会」によって運営されているビエンヌ市クリスマスマーケットは、1993年から続いている。数々のブティック、カフェなどが立ち並ぶこの通りは、特に週末は買い物客で賑わうが、クリスマスマーケットでお馴染みの木造の小屋が立ち並ぶと、一層華やかさを増す。主催者によれば、毎年70もの出店があるそうだ。また、マーケットの訪問客は50万人以上というから、5万3千人あまりのビエンヌ市の人口はこの週末だけ10倍近くに膨れ上がることになる。駅から徒歩で行ける上、普段の買い物やブティック巡りも同時に済ませられるという、抜群の立地条件も集客力に影響しているのであろう。

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 各屋台はクリスマスらしい飾りつけも個性的なら、売っている品物もバラエティに富み、ホームメイドの品も多い。食べ物、飲み物は勿論のこと、キャンドルやお香を含めたクリスマス用の装飾品、暖かそうな衣料品などなど。「ビエンヌ市有産階級」(日本語に直訳するとなんと高慢に聞こえることか)が、Nidau通りとDufour(デュフォー)通りが交わる場所に大きなテントを張っていた。ここでは寒い時期の祭りでは欠かせないホットワインや、森の幸を使った名物料理(茸のリゾットなど)を楽しむことができる。話は少しそれるが、有産階級=ブルジョワジーとは、元来、都市における裕福な商工業者を意味するが、現在、特にスイスに於いては「中世から続く姓を持ち、ある種の特権を持つ人間である」ことにとどまり、それ以外は普通の住民と何ら変わらない。例えば、私の夫はジュラのある小村の「ブルジョワ」であるが、実家は謙遜抜きでも裕福であるとは言えず、村に定住していればいくつかの特権(例えば、ブルジョワでない人間より多く薪が支給される……何と実用的!)があるというだけだ。

 私が訪れたのは昼間だった。夕刻からはきっとイルミネーションの輝きが眩く、さらに活気を増すことだろう。天候が悪いこの季節、賑やかかつ温かなマーケットがごくごく限られた期間内だけ、というのは少々淋しい気がする。ちなみに今年、ビエンヌのクリスマスマーケットは12月8日から24日まで。右記リンクによると、スイス・フランス語圏で一番遅くまでマーケットが開いている町はヴォー州Vevey(ヴヴェイ)市で、31日まで。 

 長い冬はまだ始まったばかり。皆さんも、お近くの市町村で小さな幸せを見つけてみてはいかがでしょうか?

マルキ明子

大阪生まれ。イギリス語学留学を経て1993年よりスイス・ジュラ州ポラントリュイ市に在住。スイス人の夫と二人の娘の、四人家族。ポラントリュイガイド協会所属。2003年以降、「ラ・ヴィ・アン・ローズ」など、ジュラを舞台にした小説三作を発表し、執筆活動を始める。趣味は読書、音楽鑑賞。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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