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地唄舞の夕べ「人類が共に分かち合う安らぎと平和の場」

, ジュネーブにて

古道成寺を舞う家元吉村輝章氏と吉村三鈴氏

東日本大震災に対する各国からの支援に謝意を表するために11月3日、国連ジュネーブ欧州本部で「人類が共に分かち合う安らぎと平和の場」と題した地唄舞の公演が行われた。

この「地唄舞の夕べ」に出演したのは、吉村流家元6世の吉村輝章氏、門弟の吉村静氏、吉村三鈴氏の3人。国連総会議場の観客は優雅な舞に魅了された。

大盛況

 今回の公演は、ジュネーブ日本文化月間参加公演の一つとして、日本・スイス協会のロマンド支部と、日本舞踊教室の「アトリエ日本舞踊ジュネーブ」の共催、そして日本政府代表部と出張駐在官事務所の後援で開催された。

 2008年から吉村流地唄舞の公演実現にむけて働きかけてきた「アトリエ日本舞踊ジュネーブ」代表の菅原恵子氏は、「日本の伝統舞踊の中でも奥の深いといわれる地唄舞を世界中の人々にもっと親しんでもらうために、現在最高の踊り手を通して紹介するのが自分たちの役目です」と言う。また、心を癒す家元の舞は、東日本大震災の支援を提供してくれた各国に対する感謝として最もふさわしいと語った。           

 地唄舞の観賞のためにジュネーブの国連本部までやってきたスイス人とスイス在住の日本人は1000人を超え、そこに多数の国連職員が加わった。国連の担当者は、「国連でこうした文化的な催しが行われて以来の大盛況」と驚きを語った。

抑制の美学

 家元の輝章氏のヨーロッパにおける公演はこれが3回目だ。これまでもベルギー、オランダ、ポーランドなどの都市で好評を博してきた。2年前に心臓の手術を受けた家元は、東日本大震災の支援に対する返礼として渡欧費用一切を自己負担し「思い切ってやってきた」と言う。

 家元は、婉曲な表現と感情を抑え無駄を一切省いた動きが地唄舞の特徴だと語る。「例えば月を見る動作は、地唄舞では月を直接見上げるのではなく、下を向いて水に映った月を見るというように少々分かりにくいところがあります。そして地唄舞は、悲しみや喜びをあまり表に出さずに伝えます。泣くといっても派手に泣くのではなく、そっと目をおさえるだけです」

 上演されたのは、「古道成寺」、「雪」、「善知鳥(うとう)」の3曲だ。第2曲目の「雪」は、雪が降り積もる静かな夜につれない男を恋い慕い、思い出にふけり眠れぬ夜を過ごす女が、その煩悩を断ち切るために髪を切り、出家を決意するという話だ。

 広い舞台の中央で踊りに使われるスペースは、畳一畳ほどの空間のみ。水平方向への動きの広がりは限られているが、手、脚、肩、頭そして目線は上下方向へゆっくりと静かに流れ、かすかな動きに切々とした女心が表現される。

 今回の公演の広報を担当したアトリエ日本舞踊ジュネーブのヌスボメル綾子氏は、17年の日本舞踊歴がある。「私が地唄舞についてしみじみと思うことは、静的な姿とたおやかな動きの美しさ。しっとりとして、感情の激しい動きはまったく見せません。ところがこの静けさの中に、かなりのエネルギーを感じさせます」

 さらに、ヌスボメル氏は、地唄舞の特徴と日本文化について「感情を抑制するということは、自分を鏡に映してもう一度見るということ。他人という鏡を通して自分を見る、そして他人の感情を受け止め理解するということだと思います。それができる信頼関係を築けるのが日本文化ではないでしょうか。他者に対する思いやりが根底にあるのです」と語る。

心の平和

 日本・スイス協会ロマンド支部会長の猪又忠徳(いのまたただのり)氏も、他者の尊重が平和の基盤としてあるという日本人の考えを表現することが、東日本大震災の支援に対する返礼になると考え、それを象徴する地唄舞を選んだと説明した。

 そして国際理解と平和の構築を目指す国連という場で地唄舞を披露できたのは適切だったと語る。

 「人間は、自分の心の中に平和を持っていなければ相手とうまく交渉することはできない。一人一人が自分の心の中に平和を確立することが世界平和につながる。今日は地唄舞が作り出す平和の空間を世界中から来た人々に体験してもらえたと思う」

地唄舞(じうたまい)

19世紀前半から末期にかけて発展した日本舞踊の一つ。17世紀に上方(京都、大阪)で発生した地唄に合せて踊ることから地唄舞とよばれるが、上方で発展したことから上方舞ともよばれる。また、大舞台で上演される歌舞伎と異なり、本来は座敷で少数の観客を対象とする舞踊だったことから「座敷舞」ともよばれる。明治以降各派に名手が輩出し、昭和期には東京でも舞台芸術として発展した。

地唄舞の特徴は、喜怒哀楽などの感情を、抽象的かつ象徴的な一連の動きで表現する点にある。踊り手は、激しい心の葛藤、情念などの感情を内面に抑え込んだ微妙な動きをすることによって、心の動きのエッセンスを踊りに滲み出させ詩的な世界を演じる。

地唄舞には、能楽から借用した格調高く重厚な作品の「本行物(ほんぎょうもの)」、女舞の色香と情緒ある作品の「艶物(つやもの)」、歌舞伎を取り入れた「芝居物」、軽妙でしゃれた味のあるおどけた作品の「作物(さくもの)」の四つの主要なジャンルがある。

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吉村流

地唄舞には多数の流派があるが、そのうち吉村流、山村流、楳茂都(うめもと)流、井上流を特に「上方四流」と呼ぶ。

吉村流は、京都御所の御殿舞師匠山之内ふくを流祖とし、幕末に開祖。明治初期に初世の吉村ふじによって大阪で発展、戦後に東京へ進出した。御殿舞に能や人形浄瑠璃の要素を加え、座敷風のまったりとした艶物の女舞を伝統としている。伝統を継承しつつ斬新な振り付けで新境地を開拓した四世家元の故吉村雄輝(よしむらゆうき)は、人間国宝と文化功労者。

現世家元(六世)の吉村輝章(よしむらきしょう)氏は、1946年生まれ。幼少より地唄舞を始め、1964年から四世家元の吉村雄輝に内弟子として師事。2001年に六世家元を襲名。

輝章氏は微妙な感情の機微を表現する繊細な女舞いと重厚な男舞いの両方を得意とする。東京国立劇場での定期公演を中心に日本全国で公演活動のほか、全国各地の吉村流一門の弟子の指導を行っている。

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