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失業問題は職業訓練で解決

労働者は経済危機を乗り切るため授業を受けに戻るべき?

景気後退がすぐそこまで来ている中、スイスの専門家は、社会・金融面における失業の影響に対する最善の方策を模索中だ。

迫りくる不況への対策

 近年までスイス経済は成長期にあった。2001年以来、国内総生産 ( GDP ) は毎年上昇し、30万人の雇用が創出された。しかし非政府組織 ( NGO ) の「カリタス ( Caritas ) 」は、高度成長期にあっても、失業率や補助金が経済成長率に応じて縮小しなかったと言う。
「スイスはこれから数年間の景気後退に対する準備ができていません」
 とカリタス代表のフルヴィオ・カシア氏は語った。

 カリタスは若者と非熟練労働者の失業率の上昇、そして福祉と補助に対する財政的な影響を憂慮している。景気後退の始まりを示す兆候はすでに出ている。ヨーロッパの平均値よりもかなり低いとはいえ、今年1月のスイスの失業率は3.3 %に上昇し、過去2年間で最高となった。

 スイスの首都ベルンでカリタスが主催した最近のシンポジウムにおいて、過去の失敗を避けたければスイスは今までと異なる行動を取るべきだと専門家の意見が一致した。

教育、教育、そしてまた教育

 「失業のような経済問題に対処しているときは、構造的な解決策に走らないことが重要です。以前に起きた危機の際、ヨーロッパでは早期退職者の募集や傷病者に対する補助金の支給を行った国がありましたが、経済が回復するとそうした人々は労働市場に戻れなくなりました」
 とローザンヌの「スイス公共行政学大学院 ( The Swiss Graduate School of Public Administration ) 」のジュリアーノ・ボノリ教授は会議で述べた。

 技術や自尊心の喪失など、失業者がダメージを受けることが無いよう、スイスは全力を注ぐべきだとボノリ氏は考える。そのためには、とにかくすぐに仕事を見つけなければならないというプレッシャーを減らし、その代りに職業訓練促進の方策を推し進めるといった変化が必要だとボノリ氏は付け加えた。
「この危機を乗り越える間に、職業訓練によって労働人口の質を平均的に向上させることができれば、経済が回復を始めたときスイスは優位に立つことができるでしょう」

デンマークの例

 デンマークは興味深い例だとボノリ氏は言う。1990年代に起きた前回の景気後退では、デンマークの失業率は12.8%だった。
「デンマーク政府は職のある人に対して、1年間仕事を休んでスキルアップのための職業教育を受けるように促し、その代りに雇用者には失業者を雇い入れるよう奨励しました。その結果、訓練を受けた労働者のレベルは上昇し、失業者は職場とのつながりを保つことができました」
 とボノリ氏は説明する。

 スイスのシンクタンク「アヴェニール・スイス ( Avenir Suisse ) 」のエコノミスト、ボリス・ツルヒャー氏もまた教育が将来大きな役割を果たすと考えている。
「資格の上で劣っている労働者に対する需要が減少する一方、職業訓練を受けた労働者に対する需要は高まるでしょう」

健康と福祉

 ツルヒャー氏は、ここに健康、教育そして福祉産業の可能性を見出している。金融、保険、テレコミュニケーション、運送など既に生産が拡大したセクターは今後停滞する可能性がある。

 しかし外国人を含む、基本的な資格しか持っていない大多数の労働者はどうなるのだろう? 中道左派の社会民主党 ( SP/PS ) 議員のパスカル・ブルンデラー氏は職業訓練を、「学習をチャレンジと考える若者に対して、資格を取得するチャンスという実質面を備えるよう」拡大するべきであると考える。

 またブルンデラー氏は、均等な雇用機会の早期促進がなされるべきとも言う。
「子供たちにきちんと語学を取得させ、確かな社会的基盤を与えることによって、将来社会は責任感と自立性のある若者を迎えられるようになります」

外国人

 カリタスは、援助が必要なのは低所得者層の子どもで、その中には外国人も含まれると言う。また無資格者が失業する確率は、有資格者の約3倍に達するのではないかと指摘する。

 アヴェニール・スイスのツルヒャー氏は、移民の統合レベルが高く失業率の低いスイスでは、移民の労働力の可能性をもっと有効に利用できるはずだと語る。
「移民のおかげで24時間営業している店舗があるアメリカのように、仕事をしたいと望む人がいるならば、それができるようにするべきです」

 財団法人「すべての人の融合 ( Integrateion for All) 」の代表フィリップ・アムビュール氏は、社会的なスキルはあるものの、十分な資格がない人には、病院などでの特別な仕事を与えられるべきであると言う。
「しかし、こうしたタイプの変化に対して投資をする準備が社会にできているかどうか、われわれはまず自分自身に尋ねてみなければなりません」
 とアムビュール氏は注意を促した。

swissinfo、ルイジ・ジョリオ 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳

スイスの失業率
2001年1.7%
2004年3.9%
2008年2.6%
2009年1月3.3%

国内総生産 ( GDP ) 成長率
2001年1.2%
2004年2.5%
2008年1.9% ( 推計 )
2009年マイナス0.8% ( 予想 )

補助金受給者数
2004年21万8147人 ( 人口比3% )
2006年24万5156人 (人口比3.3% )

( 出典:連邦統計局 )

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