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日本の幽霊を探して スイス人の映画監督

ワルッヒさんの溜まり場、京都の喫茶店ほんやら洞の前で swissinfo.ch

「妖しい世界が好き」と語るのは京都在住のスイス人映画監督、ロジャー・ワルッヒ(41歳/Roger Walch)さん。透明な音を出すジャズピアニスト、作曲家であり、写真家でもあるが「映画は僕の趣味を総合したもの」。最近出した、尺八(松本太郎)とジャズピアノの絶妙なライブCDはワルッヒさんのマルチアーチストぶりをうかがわせる。それでも、映画のことを話し出したら止まるところを知らない。

 チューリヒ大学で日本学を専攻したのは、もちろん邦画や侍の世界に憧れたから。日本の映画のほかにない建築、服装、美学、語り方などに魅了された。崇拝する作品は寺山修二の『田園に死す』や鈴木清純の『ツィゴイネルワイゼン』など。アングラ的な世界に惹かれるらしい。故郷のザンクト・ガレンでは2年間、名画上映館を経営していたこともある。98年の来日前はスイスの月刊文化誌「ザイテン」の編集長も勤めていた。

 最近、撮った短編映画、『誘惑』三部作の『誘惑1』は日本の幽霊や霊魂がテーマ。神社で撮影する前にロケ班と毎回、お参りをした。カルチャーショックだったのはせっかく、はまり役の俳優を見つけたところ、その奥さんが「彼には霊感があり過ぎるから危ない」と反対し、直前にキャンセルしたこと。「スイスでは有り得ない出来事」という。日本人は誰でも幽霊の話ができるので驚いた。撮るときに日本の幽霊は靴を履いていないと初めて知った。この映画は「日本人より日本的」と評された。

 合理主義の発達で世界から幽霊が姿を消している。そんななか、「日本の素晴らしいところはまだ、迷信や幽霊が信じられているところ」。「ここは祖先の魂を大切にしている文化」と切実に感じる。それでも、最近の京都では多くの長屋が崩され、昔のように古い木と畳の匂いがしなくなった。「観光地だけを保存して、ディズニーランド的になった」と危ぐする。ずっと恋してきた京都だからこそ「形だけを残して魂がなくなってしまうと想い、心が泣く」。日本文化にしても同じ。「お寺のお坊さん自身のお葬式に邦楽でなく、クラシック音楽が流れたのには驚がくした」。好きだからこそ、心配の種は尽きない。


swissinfo 聞き手 屋山明乃(ややまあけの)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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