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熱波、干ばつ、大雨…スイス気象台、厳しい未来予測

エンゲルベルクのスキー場
スイスは世界平均のほぼ2倍の速さで温暖化が進む Keystone / Urs Flueeler

スイスは今後、気温上昇と乾燥傾向が強まり、予測しづらい気候に直目するとの最新気候予測が、国の科学機関によって公表された。降雪量が減る一方で、降水は強まると見られている。

スイスは世界平均のほぼ2倍の速さで温暖化が進む。スイス気象台(メテオ・スイス)と連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)が4日発表した報告書「Climate CH2025」外部リンクは、スイスの厳しい将来像を描き出した。

2倍のスピードで気温が上昇

産業革命以前と比べて、世界の気温はすでに1.3~1.4℃上昇した。スイスは2024年までに2.9℃上昇している。

研究者によると、地球温暖化に歯止めがかからないまま世界の気温が3℃上昇すれば、スイスの気温は4.9℃上昇する可能性があるという。温室効果ガスの排出削減が進まなければ、2065年にもこうしたシナリオが現実になるとした。

猛暑の増加

報告書が示す主な4つの影響の1つは、熱波と熱帯夜の増加だ。特にルガーノ、チューリヒ、ジュネーブ、バーゼルなどの都市部で顕著になると予測している。

気温が3℃上昇した場合、バーゼルの夏の最高気温は1991~2020年の基準値である34.4℃から38.8℃に上昇する可能性がある。現在は50年に1度の極端な猛暑日は、最大17倍の頻度で発生する恐れがある。チューリヒ市では、年間平均で熱帯夜が約5倍になると予想されている。

年間30℃以上の日数の予想変化を示したグラフ
年間30℃以上の日数の予想変化を示したグラフ Swiss Federal Office of Meteorology and Climatology MeteoSwiss, ETH Zurich,

平野・都市部では負担が最も大きくなると見込まれるが、高地やアルプスでも、長期にわたる暑さが続く可能性がある。

夏の干ばつ

ほかにも研究者らは、冬の降水量が増える一方で、夏は著しく乾燥すると警告している。

気温の上昇による蒸発量の増加、夏の降水量の減少により、スイスの土壌は乾燥が進むと予想されている。夏の干ばつは過去40年間で既に増加している。以前は10年に1回の頻度で発生していた干ばつが、今後は3倍に増え、その強度も44%増す可能性があるという。森林火災のリスクも急激に高まる。

ヴァレー(ヴァリス)州の州都シオンにおける森林火災リスクの高い日数
ヴァレー(ヴァリス)州の州都シオンにおける森林火災リスクの高い日数。期待値(全シミュレーションの中央値)と範囲(シミュレーションのばらつき)が示されている Swiss Federal Office of Meteorology and Climatology MeteoSwiss, ETH Zurich,

大雨の増加

専門家によると、スイスでは季節を問わず大雨が増えると予想されている。気温の上昇に伴い、短時間で激しく降る雨の頻度と強度が増すとされている。

こうした現象は最大30%強まる可能性がある。これにより、土石流や土砂崩れ、地滑りの危険性が高まる。

スイスにおける平均降水量と大雨の今後を予測したグラフ
スイスにおける平均降水量と大雨の今後を予測したグラフ Swiss Federal Office of Meteorology and Climatology MeteoSwiss, ETH Zurich,

降雪量は減少

スイスアルプスの雪線(一年中雪が消えない高度の下限)は急速に後退している。雨が雪に変わる雪線は、20世紀初頭から数百メートル上昇しており、今世紀末までにさらに550m上昇し、約1450mに達すると予測されている。

これは、冬の降雪が減り、降水が増えることを意味している。気温が3℃上昇すると、降雪量は約25%減少し、降雨量はほぼ倍増する。低地では自然の雪がほとんど消え、スキー観光に深刻な影響を与える可能性がある。

スイスアルプスにおける冬季(下)と夏季(上)の雪線高度の平均を予測したグラフ。期待値(全シミュレーションの中央値)と可能な範囲(シミュレーションのばらつき)を示した
スイスアルプスにおける冬季(下)と夏季(上)の雪線高度の平均を予測したグラフ。期待値(全シミュレーションの中央値)と可能な範囲(シミュレーションのばらつき)を示した Swiss Federal Office of Meteorology and Climatology MeteoSwiss, ETH Zurich,

回避できる可能性は?

「2050年までに積極的な気候変動対策と世界規模での温室効果ガスの排出ゼロを実現すれば、将来の長期的な気温上昇の大半と、その結果生じる影響の多くを回避できる可能性がある」とETHZの気候研究者、レト・クヌッティ氏は述べた。

スイスは2017年にパリ協定を批准し、2030年までに温室効果ガスの排出量を半減させ、2050年までに実質ゼロを達成する方針だ。

連邦政府は、2035年までに排出量を1990年比で少なくとも65%削減、2031年から2035年の平均で59%削減する最新の中間目標を今年1月に発表した。

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しかし研究者らは報告書で、「地球温暖化を最小限に抑えることはできても、元に戻すことはできない」とし、社会が適応する重要性を強調している。

「Climate CH2025(スイス気候予測2025年版)」は、連邦政府の委託を受け、スイス気象庁、連邦工科大学チューリヒ校、気候システムモデリングセンター(C2SM)が、国立気候サービスセンター(NCCS)傘下のベルン大学エシュガー気候変動研究センター ( OCCR )とローザンヌ大学からの情報提供を受けて作成した。

2007年、2011年、そして2018年の予測を更新したもので、スイスの気候の将来について最も詳細な見通しを示している。2018年版で特定された主要な傾向(温暖化の継続、熱波の頻発、降水量の増加、夏の干ばつの増加、降雪量の減少)は変わらないが、予測される気温上昇の幅はさらに大きくなった。

「新たな気候予測は、今後数十年にわたるスイスの気候変化をより明確に示している。環境、都市、農業を守るための対策を立てる上で役立つ」(エリザベート・ボーム・シュナイダー内相)

編集:ヴィルジニー・マンジャン/ts、英語からのDeepL翻訳:大野瑠衣子

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