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環境を観光で守る

欧州では唯一、原始林がまだ残るウクライナ西部トランスカルパチア swissinfo.ch

観光旅行者が環境を破壊していく。これまでも散々指摘されてきたことである。しかし一方で、観光が環境を守ることもある。

ウクライナ最西部、カルパチア山脈に続くトランスカルパチアでは、森の伐採による環境破壊が深刻だ。これまで材木に頼ってきた住民の生活を観光を興すことで確保し、しかも、環境破壊を防ごうというスイスとウクライナの共同計画「FORZA」がいま、始まった。

 ウクライナ最西部、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアに国境を接し、カルパチア山脈につながるトランスカルパチアは、欧州唯一の原生林が生い茂り、9000ヘクタールが自然保護地域になっている。樹齢100年はあると思われるトウヒの間から、うっすらと太陽の光が差し、メルヘンのような雰囲気に包まれている。ウクライナとスイスが原生林を利用し観光業を興そうという計画が進んでいるというので、現地を訪れた。

まずはインフラの整備

 オーストリア・ハンガリー二重帝国時代(1867年から第一次世界大戦終結まで)からこの地方は、自然保護地域に指定されている。「スイス政府の協力のおかげで、森林を保護するためのノウハウを得ることができました」と自然保護計画に携わるワシーリー・ポクンチェレダ氏は語る。

 1998年と2001年の2回にわたる洪水で大きな被害があって以来、ウクライナでは森林の利用について討論されてきた。洪水は、森林の伐採がなければ避けられたはずであるという前提で、森林の伐採に代わる産業が模索されている。

 スイスの開発協力局(DEZA/DDC)は洪水の被害があった直後、緊急援助の手を差し伸べた。緊急援助とは、インフラの整備である。まず、堤防の整備と危険な川の川岸の整備を行った。これにより、一部の村の洪水が防げるようになった。しかし、より南方にあるリカ川が流れる谷のダムは今にも決壊しそうだ。そこに住む年配の住民は新しい堤防につて「アイデアとしては良いけれど、2001年のような洪水が来ればすべてが無駄だと思う」と懐疑的だ。DEZA/DDCのトマス・イエナッチ氏は「堤防で洪水は防げる。問題は現地の人たちの自発的な行動ではないか」と反論する。

ソフトな観光が原始林を救う

 洪水を防ぐための技術の提供に始まり両者の関係が深まるにつれスイスは、経済、社会面から住民の生活を守るための長期的な提案もするようになった。「森林の経済的活用と自然災害に対する保護を関連付けて、新しい提案をしたい」とトランスカルパチアの開発援助に携わるヒルマー・フェルミ氏は言う。

 トランスカルパチアは、経済的に貧しく唯一の収入源である森林伐採をやめさせることは難しい。そこでDEZA/DDCが提案しているのが「環境にやさしい観光」である。「森林は観光資源に十分になりうるが、観光を興すことまで考える人はこれまでいなかった」とDEZA/DDCと協力してこの計画を進めるリュドミラ・ネストルズラフ氏はスイスの提案に賛同する一人である。

ペンションで儲けよう

 スイスの提案に従いこれまでに森林ガイドブックを出版し、訪れる人がハイキングするための資料を作った。ここにある資源は、素晴らしい風景と種類豊富な植物や花だ。野生の狼や熊が生息していることも観光客を呼び込むのに十分な魅力となる。しかし、宿泊施設がなければ、客も集まらない。そこで地元住民に自宅の部屋を観光客に貸すようにとの呼びかけが始まった。

 筆者は、ヌージニー・ブズストリ村で村長のアンナ・ミヒェロフスカさんの自宅に泊まることになった。村長の家に泊まるはじめての外国人だという。「仕事を探して多くの村人は村から去っていきました。観光を興すことがもしかしたら、村の過疎化を止めるのではないかと思います」と、ここではあまり馴染みのない観光業にひそかに期待する村長と語り合った。

 翌朝の朝食のテーブルには驚かされた。ビスケット、チョコレート、サラミ、チーズ、ゆでタマゴとコーヒーやウオッカまで置かれている。しかし、観光客を引き寄せることができるかは、単にウクライナ人の観光客に対するサービスの向上だけではなく、あらゆる工夫や努力がまだまだ必要なようだ。

swissinfo、ルイジ・ジョリオ ヌージニー・ブズストリ村(ウクライナ)にて 佐藤夕美(さとうゆうみ)意訳

<トランスカルパチア>
ウクライナ最西部
1万2800平方キロメートル
人口125万人(2005年)
主な産業 農業、材木

連邦外務省開発協力局(DEZA/DDC)との協力計画「フォルツァ(FORZA)」は、200万フラン(約1億8000万円)の予算で、トランスカルパチアの自然保護を目的としている。

1998年と2001年に起こった洪水の復興作業と住民の生活向上のための計画が進められている。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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