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科学史家マリアン・ゾンマー教授にスイス・ラトシス賞

やりがいのある複雑な研究を楽しむマリアン・ゾンマー教授 Dominique Meienberg/SNSF

人骨、類人猿、DNA。科学史家マリアン・ゾンマー教授はこれらと毎日格闘している。

このコンテンツは 2011/01/26 17:00
イゾベル・レイボルド・ジョンソン, swissinfo.ch

このゾンマー教授がベルンで1月中旬、栄誉ある「スイス・ラトシス賞 ( National Latsis Prize ) 」を受賞した。自然科学の観点から人類史を紐解く研究が高く評価されたからだ。

優れた若手研究者

ゾンマー教授はスイス国立科学財団 ( Swiss National Science Foundation  ) の教授でチューリヒ大学社会・経済史センターに勤務する。スイス・ラトシス賞では毎年賞金10万フラン ( 約858万円 ) が40歳以下の優れた若手研究者1名に贈られる。

swissinfo.ch : 英文学、言語学、生物学を専攻されたそうですが、これらの3分野がどのように組み合わされて研究に生かされたのでしょうか?

ゾンマー : それは博士論文から始まりました。雑誌「ナショナル・ジオグラフィック ( National Geographic ) 」の中で猿や類人猿がどのように描かれているかの分析に言語学の手法を応用しました。人類の起源や歴史に関する見解が科学の外でどう語られているのか。これを歴史の流れの中で分析することがわたしのテーマです。

swissinfo.ch : 類人猿のイメージは時代と共に変わってきました。これは社会の見方の現れですか?

ゾンマー : ある意味でそうです。人類に最も近い近縁種で現存する類人猿を、人間は自分たちから切り離して考えることはできません。両大戦間や第2次世界大戦後、人間は本質的に攻撃的だという考えが広まり、ナショナル・ジオグラフィックでは特にゴリラが獰猛な獣や怪獣として描かれました。

1960年代にはそうしたイメージは改善されました。有名な女性の霊長類学者たちによる長期にわたる実地調査から、霊長類のことが随分分かってきたからです。また、この60年代の「殺し合うのでなく愛し合おう」的な風潮が人間性の理解により良い影響を与えたからです。もちろん、その後にイギリスの霊長類学者ジェーン・グドール氏がチンパンジーの群れ同士による「戦争」を報告してからは、また新たな見解が生まれましたが。

swissinfo.ch : 博士課程修了後の研究員時代は、実際はクロマニョン人である「赤い婦人 ( Red Lady ) 」に焦点を当てました。

ゾンマー : 19世紀初頭、オックスフォード大学の地質学教授であり聖職者のウィリアム・バックランドがウェールズのパヴィランド洞窟で人骨を発見しました。まず、バックランドはこの骨を女性の魔術師のものだと考えました。さらに、この洞窟がローマ軍の野営地に近かったことから、この女性が易断だけでなく自分の身をもローマ兵士に売っていたという話を作り上げました。この人骨は先史時代を示すマンモスの化石のすぐ近くで発見されたにもかかわらず、バックランドはローマ軍によるイギリス占領と同時代だと断定しました。当時はまだ人類の太古を論じることは非常に危険でした。特に、バックランドのように地位のある人にとってはなおさらでした。

バックランドの死後、絶滅動物と人間が共生していたという事実がよりはっきりし、この人骨は女性ではなく、先史時代のクロマニョン人の男性だと再確認されました。ほかの化石人類のように、「高貴」なクロマニョン人は人類の祖先に位置づけられ、徐々に勢力を争うようになったヨーロッパ諸国の形成に大きな影響を与えたと考えられます。

swissinfo.ch : ほかには、アメリカ自然史博物館 ( American Museum of Natural History  ) とチャールズ・ナイトについての研究もありました。

ゾンマー : 進化に関しては、ダーウィンから始まりその後はあまり変化していないと一般の人は考えています。したがって、ナイトのような画家が人類の生活史、特に恐竜に対するイメージに大きな影響を与えたことは非常に興味深い点です。ナイトは20世紀初頭に博物館のために先史時代の風景や動物の絵を描いた画家でした。

ナイトは当時の進化論に従い、恐竜を攻撃的と捉え、戦っている場面か獲物をむさぼり食う場面を描きました。博物館などでこれらの絵を目にした多くの古生物学者は彼の絵にインスピレーションを受けたと語っています。ダーウィンは進化論を唱えましたが、ナイトは進化を目に見える形にし、実感を持たせることに成功したのです。

確かに、映画「ジュラシック・パーク ( Jurassic Park ) 」の恐竜はいまだにナイトのものに似ています。しかし、恐竜に関する科学的な見解や一般的な理解がナイトの時代からは大きく変化したこともこの映画の中に描かれていると思います。ナイトの時代には恐竜は頭が悪いとされていました。当時、恐竜は非常に高い社会的知能を持っており、例えば、群れを成して獲物をしとめたりもしたとは誰も考えませんでした。

swissinfo.ch : 現在の研究プロジェクトでは、特にDNAに注目しているそうですが。

ゾンマー : 近年、科学者はDNAの塩基配列を分析して人類の系統樹と地球規模での移動を捉え直そうとしています。ただ、DNA研究には政治的側面が介入してきます。例えば、ヒトゲノム多様性プロジェクトは先住民族からDNAを採取しようとしたところ反対に遭いました。先住民グループは利用されることを恐れたのです。また、彼らは固有の創世神話を持っているため、歴史学者が彼らのルーツを解き明かすことを好まなかったのです。ところがその一方で、自分たちの起源を知るための遺伝子研究を大いに歓迎する人たちもいます。

マリアン・ゾンマー ( Marianne Sommer ) 教授略歴

チューリヒ大学、イギリスのコベントリー大学で英文学、言語学、生物学を専攻。2000年に博士課程修了。

博士課程修了後の研究員時代は人類の起源に関する研究史を扱い、ベルリンにあるマックス・プランク科学史研究所、ペンシルバニア州立大学の科学、医学、テクノロジーの文化プログラムで「レッド・レディー ( Red Lady ) 」をテーマにした。この論文は連邦工科大学チューリヒ校 ( ETHZ ) に6年間在籍していた間に執筆され、受理された。

現在、チューリヒ大学の教授で連邦工科大学チューリヒ校の講師。

最近ではフィリップ・サラシン氏と進化に関する学際的なハンドブックを共同編集。

スイス・ラトシス賞のプレスリリースではゾンマー教授の「幅広い見識に基づいた学際的研究はスイスの科学史研究に非常に励みになった」と彼女の功績を讃えている。ゾンマー教授は「このような称賛を得られて嬉しい」と語った。

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スイス・ラトシス賞 ( National Latsis Prize )

スイス・ラトシス賞はスイスで最も栄誉ある科学賞の一つ。ジュネーブに本部を置く国際ラトシス財団を代表し、スイス国立科学財団から毎年贈られる。

スイスで働く40歳以下の科学者や学者の中から優れた科学的功績を残した人に賞金10万フラン ( 約858万円 ) が贈られる。

慈善団体である国際ラトシス財団は1975年、ギリシャ人のラトシス一族によって設立された。

同財団が授与する賞には、ほかにもラトシス大学賞 ( Prix Latsis Universitaire ) がある。

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