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太りすぎか、やせ過ぎか?

「食べたくない!」子どもの頃からやせたい願望 imagepoint

スイス健康促進基金 ( Gesundheitsförderung Schweiz/ Promotion Santé Suisse ) が年初から行っている、太りすぎ撲滅キャンペーンのターゲットは子どもや青少年だ。キャンペーンが掲げる目標は、2010年までに子どもたちの太りすぎ傾向をストップすることにある。

ところがこのキャンペーン、拒食症を助長するという専門家の指摘があり、論議を呼んでいる。

 太りすぎは世界的傾向だ。「国際比較で見ると、スイスの状況はまだ良いほうだ。しかしスイスでも、子どもの5人に1人は太りすぎで、実際は深刻な問題になっている」と健康促進基金の広報担当ペーター・ブリ氏は指摘する。

キャンペーンに懐疑的

 太りすぎ撲滅キャンペーンの予算は約3500万フラン ( 約3億4000万円 ) 。ルツェルン州の4600人の小学生に、運動と食事の取り方について指導したりもしている。連邦健康局 ( BAG/OFSP ) とも協力し、国民に太りすぎが原因となる病気などを知ってもらうよう働きかけてもいる。

 しかし、このキャンペーンに対して医師や心理学の専門家の一部から、疑問の声が上がっている。食べ物についてばかりを話題にするのは良くないというのだ。さらに、キャンペーンは近年増加している子どもの拒食症を助長するものだという。食事に問題を抱える人たちのためにある機関「ENES」のエリカ・トーマン氏は、拒食症患者が年々若くなっていることを指摘する。

 チューリヒ市立病院トリームリ ( Triemli ) の発表によると、幼稚園児や小学生でさえダイエットをしたり、しようと思ったことがあるという。バーゼル大学病院の小児精神科のバルバラ・ロースト氏も、拒食症の子供というのは例外だとしても、年齢は下がっていると言う。

やせたい願望の若年化

 「子どもが、やせたいとか、太りたくないということを気にするのは、情報が氾濫しているせいだ」とトーマン氏は指摘する。「情報を多く与えることで、子どもの食生活を向上させようとするのは、まったく逆効果だ。子どもは、健康についてより多くを知るようになってはきているが、だからといって子どもが健康に良いことを積極的に取り入れるかということは別だ」と言う。

 「子どもにとって、食事は感情と直接つながっている。食生活を単なる知識として子どもに伝えることはできない」とトーマン氏。情報を正確に理解することは子どもや青少年にとっては難しいことなのだ。例えば、油は健康に良くないからと、パンにバターを塗らない子どもや、やせたいと思う少女が、果糖で太るとリンゴを食べないといったことが起こるのだという。

キャンペーンが不安を煽る

 トーマン氏はさらに「キャンペーンは単に不安を煽るものだ」と批判する。「必要なのは実践的な方向付けだ。例えば運動のために楽しくなるような通学路を作ったり、おいしい食事を作ったりすることだ」と同氏は提案する。保護者は、チョコレートがいかに健康に悪いかを繰り返し子どもに諭すのではなく、チョコレートをあまり与えないことが肝心。「睡眠と同じように、食欲も生まれたときからあるもの。睡眠については話し合いの余地などあまり与えず、規則正しく寝させ、子どもに健康的な睡眠をとらせることができる。食事についても、こうしたことは可能なはず」と言う。

 一方、子どもの拒食症については、体重が急激に減ることから、新陳代謝や循環機関に大きな悪影響を及ぼす可能性もあるので気をつける必要がある。前出のブリ氏は「いま行われているキャンペーンは太りすぎに目を向けているが、やせすぎのほうが太りすぎより深刻な問題だ。もっとも拒食症は、スイスの全人口の2%にしか満たないが」と批判する。こうした批判については、連邦健康局も認識しているという。現行のキャンペーンがやせすぎに与えた影響を調査中で、10月にはその結果が発表される予定だ。

swissinfo、コリン・ブクサー、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 意訳

食生活における障害で、急激に体重が減る。ストレスが原因の場合が多く、家族、友だち、自分自身との関係に問題がある場合に起こる。スイスの人口の2%が拒食症にかかっている。先進国に多く、若い女性に多い病気。早期の治療により30%が元の体重に戻り治癒するが、25%は慢性化する。10~15%は死に至るといわれる。

2002年の統計によると、おとなの3割が太りすぎ、7%が深刻な太りすぎで、子どもの場合、5人に1人は太りすぎ。連邦健康局の算出によると、太りすぎの人の医療負担は年間27億フラン ( 約2600億円 ) に達するという。

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