DNAチップで薬の効果を予測 製薬大手ロシュが発売
スイス製薬大手ロシュ(本社、バーゼル)が9月から、治療薬の効果を使用前に遺伝子で予測するDNA診断チップを欧州向けに発売した。
この診断チップを使えば、薬の効果が期待できる患者とそうでない患者に事前に識別でき、治療薬による深刻な副作用の危険が避けられることになる。
ロシュが開発した「アンプリチップ CYP450」は、患者の体質に合わせて薬を使い分けるオーダーメイド医療に向けた動きの1つ。だが、遺伝情報を記すDNAは究極の個人情報ともいわれ、病気や体質に関わる遺伝情報の保護のあり方などを巡って、議論を呼びそうだ。
DNA診断チップ
今月からスイスと欧州連合(EU)の市場で発売された1チップの価格は600フラン(約53,000円)。
チップに唾をかけると、唾液に含まれた遺伝情報から特定の治療薬を患者の肝臓が代謝・分解できるのかがわかる仕組みだ。病気へのかかりやすさや、治療に対する耐性は遺伝子で個人差が出ることから、診断チップは遺伝情報の個人差を生み出すDNAの違いをうまく利用した新技術と言える。
ロシュが開発したこの診断チップは昨年すでに米国で発売された。評判は上々だという。米国は画期的な新薬の投入に積極的なことで知られるが、毎年入院する200万人の患者のうち、約10万人は薬の副作用が原因で死亡しているとの報告もある。
ロシュの特許部門バルバラ・シュテへリン部長は「このチップで薬の副作用の問題が解決するわけではない。患者の遺伝型だけでなく、生活環境も関係しているからだ」と語る。「だが、少なくともオーダーメイド治療の実用化に向けた第一歩といえる」と強調する。
遺伝情報を巡る問題
治療薬の効果を事前に予測するDNA診断チップが実用化になったことを受けて、TAスイス(政府の諮問機関)は診断チップを始めとするオーダーメイド医療が与える社会的な影響について報告書を公表した。
報告書をまとめた責任者クラウス・ペーター・リッペ氏は、「最大の懸案は患者の病気や体質に関わる遺伝情報をどう保護できるかだ」と話す。遺伝情報の流出は、保険への加入や就職で新たな差別を生み出しかねないためだ。
また、診断チップの結果を基に患者の体質に合わせたオーダーメイド医療が主流となると、患者1人1人に応じた様々な投薬や治療が必要となり、結果として医療サービスの負担増を招く恐れがある、とリッペ氏は指摘する。
同氏はさらに、こうした診断チップ導入を機に、遺伝子診断にかかる費用を肩代わりする医療保険の種類が拡充されると予想する。このため、「重い保険料の負担を避けるために、こうした保険の加入を諦める患者も出てくるだろう」と話している。
スイス国際放送 アルモンド・モンベリ 安達聡子(あだちさとこ)意訳
オーダーメイド医療とは:
患者の遺伝子のタイプを調べて薬の効果や副作用の違いを予測し、患者の体質に応じた治療を行うこと。テーラーメイド医療とも言う。
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