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脱原発世界会議、グローバル・ヒバクシャの声を伝え、新しい復興の道筋を

東京・明治公園で開催された「さようなら原発集会」。2012年1月の「脱原発世界会議」はこの集会に次ぐ大規模なものになるという Keystone

東京で6万人の「さようなら原発集会」があった9月19日。NGO「ピースボート」の川崎哲 ( あきら ) 氏はジュネーブで、「『脱原発世界会議』は東京の集会に次ぐ大集会になる。なんとしても成功させたい」と決意を新たにした。

2012年1月に横浜で開催されるこの会議では、世界のさまざまな核使用の現場での被曝者の声を伝え、同時に専門家を迎えて脱原発の具体的な道を探る。

  数千人が参加すると見込まれている「脱原発世界会議」だが、ゲストの約100人は、フクシマなどの原発事故や核実験、ウラン鉱山や核廃物処理場などでの被曝者、いわゆる世界の「グローバル・ヒバクシャ」に加え、チェルノブイリの医療・法律関係者、脱原発国ドイツなどの政府関係者、再生可能エネルギー推進者などが参加し、「核」の脅威を再検証しながら脱原発を目指す。

 

  川崎氏は、もともと「核兵器禁止条約」の成立を考える世界的な運動「核兵器廃絶国際キャンペーン/アイ・キャン(ican)」が、世界の主要メンバーを集めた大会に参加するためジュネーブ入りした。「ピースボートは初め核兵器反対を中心にしていたが、フクシマの後、人類が手にすべきてはなかった『核』を世界から廃絶することを求め脱原発も推進していく。ただ脱原発と核兵器廃絶はプロセスが違うため、両方に今後とも参加していく。まずは横浜での脱原発会議に全力投球していきたい」と語る川崎氏に話を聞いた。

swissinfo.ch : 本来、核兵器廃絶と反原発は繋がっておらず、核兵器に反対する人の中に平和利用ということで原発を支持する人が世界的にも多くいます。フクシマ以後、こうした考え方が崩れたのでしょうか。

川崎 : 核兵器廃絶を求める「核兵器廃絶国際キャンペーン」は、成功した「地雷禁止条約」、「クラスター爆弾禁止条約」と同じように「核兵器禁止条約」を成立させるにはどうしたらよいかということで、9月17日から3日間集合した。

実は、この3日間の話し合いで、核兵器廃絶運動も原子力の問題や原発の問題にコミットしていこうという動きが強まっている。なぜなら「クラスター爆弾禁止条約」などが成功したのは、こうした兵器が使用された場合の人道的側面からの影響、人間への、健康への影響から訴えたからだ。

つまり、「核兵器禁止条約」も、アメリカとロシアが核兵器を何発持っているからといった国際関係の話ではなくて、人間の視線から核兵器を禁止したいという動きになっている。

今回ジュネーブに集合したのもここが国際的人道機関の集まる場所だからだ。昨日、赤十字国際委員会(ICRC)の代表が大会に来て人道主義にのっとって、この核兵器を禁止したい」という話をしていった。

人道主義の観点から核兵器の被害を考えるとき、それは、今フクシマで起きているようなことがもっと大規模な形で起きることだ。結局、核兵器の健康や環境に与える影響を考える手がかりが、広島、長崎、チェルノブイリ、そしてフクシマに詰まっている。

つまり、核兵器と平和利用といわれるもの(原発)との区別は本質的にはない。そのことに、核兵器反対者たちが気付き始めている。「核兵器禁止条約」をもちろん求めているが、そこに至るためには、「核」というもの怖さ、人間への影響を、兵器であれ、発電であれきちんと踏まえることが必要だということだ。

swissinfo.ch : 核兵器廃絶の方向性が変わり、原発なども含めて考えるということですね。

川崎 : 結局「核兵器は人類にとっての脅威だが、平和利用の原発は大丈夫」という神話が崩れたということ。

フクシマを見てしまった日本人や世界の人々にとって、「核」の脅威とは昔のようにアメリカとソ連があって、核ミサイルを撃ち込んだらというシナリオだけではなくなった。原発にミサイルを撃ち込まれたら、または原発がテロの標的になったら・・・、それはフクシマより大規模あるいは小規模でも大変なことになると考えだした。なにしろフクシマでさえ、8万人もの避難者を出している。

そこで「『核』の脅威とは何か」ということをきちんと検証するということが大切になった。そのため今回、アイ・キャンの集まりではウラン発掘現場での被曝や核実験の被害の状況などもレポートされた。

これは「核の連鎖 ( nuclear chain)」と呼ばれるものの一部を形成する。核の連鎖とは、ウラン発掘に始まり、ウラン濃度を高くすれば核兵器になり、核実験が行われ、長崎、広島に落とされた。落とされた後の汚染、被曝の問題がある。一方の鎖はウラン濃度を薄めたまま燃料に使えば、原発になり、そこから核廃棄物が出てくる。事故が起これば、汚染、被曝者が出てくるというもので、最終的には「核」は一度使われると、人間の体にとんでもないインパクトを与えるということだ。

しかもこのインパクトだが、放射線は人間の遺伝子を傷つける。つまり根本的に人間の存在を脅かすもので、ほかの環境汚染とはちょっと違うレベルのものだ。

swissinfo.ch : ところで、核実験の被害ですが、スイスでもチェルノブイリ25周年で、旧ソ連時代の核実験が原因で全く話すことのできない2人の中年に近い息子の面倒を見続けている母親の姿が報道されました。核実験の被害、特に健康被害はあまり知られていませんね。

川崎 : これから出てくるだろう。実は8月29日が国連が定めた「核実験反対デー」で、この日に今年はジュネーブでもニューヨークでも盛り上がりを見せた。国連にこの反対デーを提案したのは、カザフスタン。旧ソ連時代にずっと核実験が行われたところだ。

核実験の被害をきちんと検証することはこれからのためにも大事だと考えられているし、関心が非常に高まっている。

swissinfo.ch : 最後に横浜での「脱原発世界会議」の構想を話してもらえますか。

川崎 : まず確認として、菅直人首相のときに脱原発の方向性が打ち出され、今の野田佳彦首相もその方向性を基本的には維持している。つまり原発依存を減らすことは閣議決定されたわけで、これは国策の大きな転換だと見ている。

また、国民も7割の人が脱原発を支持している。ただそれは、「脱原発すればいいだろう」とは思うが、「こうやればできる」とう具体的な案を持っている7割ではない。多くの人が怒りや、原発に反対の感情を持っているが、それを具体化できる方法を模索している状態だ。

そこで、世界会議では、ドイツやオーストリアの政府関係者などを招待し、「我が国ではこうしてやっているよ」という例をきちんと示す場にしていきたい。

一方、市民レベルでも世界では、自然エネルギーへのユニークな取り組みなどがあり、その実例は日本ではなかなか知られていないので、その分野でももっと紹介したい。

また、チェルノブイリからは実際の被曝者だけでなく、医療関係者、法律関係者を呼びたい。

このように世界中から幅広く呼ぶ、そういう世界会議にしていきたい。

資金的にはカンパでやる。大変だが、フクシマ以降寄付に積極的に参加してくれる市民も増え、また企業も再生可能エネルギー分野などでの復興を目指すところなどは参加してくれる。つまり、脱原発だが、「新しい復興の道筋を作る会議」ということをはっきりと示し、企業・自治体に働きかけていきたい。とにかく、成功させなければならない会議だと肝に銘じている。

国際交流NGOピースボート共同代表。

1968年東京生まれ。1993年東京大学法学部卒業。

1998~2002年、NPO法人「ピースデポ」スタッフ。

2003年より現職。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)副代表もつとめ

る。

著書に『核拡散』(岩波新書)など。

2012年1月14日、15日に横浜で開催される。

数千人の参加が見込まれている。

そのうち約100人のゲストは、フクシマの体験者、チェルノブイリの医療・法律専門家、脱原発のドイツやオーストリアの政府関係者、再生可能エネルギーの技術者など、幅広い分野から招待。

「核」の脅威を検証しながら、脱原発の具体的方向性と新しい復興の道筋を作りを目指す。

主催は、ピースボート、FoEジャパン、原子力資料情報室、グリーンピース・ジャパン、グリーンアクション、環境エネルギー政策研究所の6団体。

なお、会議の実行委員会事務局はピースボート。

1983年に創設。

1990年代から地球一周の船旅を行い、世界約20カ所でNGOや市民団体と交流し、世界平和を目指す。現在74回目の船旅を行っている。

2008年からは、広島・長崎の被爆者に乗船してもらい、各地での「被曝者の証言」の講演を企画。その関係で核兵器廃絶の運動に関わるようになる。

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