じわり失業率上昇 安定雇用のスイスに何が?
スイスでは2025年、失業率が2年連続で上昇し、微増・横ばいの他のヨーロッパ諸国との違いが目立った。常に低失業率を誇ってきたスイスに何が起こっているのか?
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スイスはときに「ヨーロッパの中心にある完全雇用の島」と描写される。他のヨーロッパ諸国と比べて失業率が低めなことがその理由だ。だが直近ではその差がやや縮まっている。
2025年7~9月のスイスの失業率(国際労働機関=ILOの定義に基づく)は5.1%と、前年同期の4.7%から0.4ポイント上昇した。
周辺国の上昇幅はもっと緩やかだ。同じ期間にドイツとフランスはそれぞれ0.3ポイント、オーストリアは0.2ポイント上昇した。イタリアは5.6%で横ばいだった。欧州連合(EU)加盟27カ国の平均(5.7%)と比べても同じ傾向がうかがえる。
西スイス応用科学芸術大学ジュネーブ校のジョバンニ・フェロ・ルッツィ教授(経済学)は「スイスは輸出に大きく依存し、貿易依存度が低い他のEU諸国に比べて、国際情勢の影響が大きくなることがある」と分析する。
スイスにとってEUに次ぐ第2の輸出相手国であるアメリカは、2025年4月に31%の関税導入を予告し、8月に39%を課税、11月に15%へと引き下げられた。こうした不確実性は、輸出産業に支えられるスイス経済にとりわけ大きなダメージを与えた。
スイス雇用主連盟(SAV/UPS)広報のシュテファン・ハイニ氏は「企業はとりいそぎ、人員削減や採用凍結といった対応を取らざるをえない。スイスの労働市場はオープンで流動性が高いため、こうした対策の影響は失業率に直結する」と話す。
通貨高と銀行合併
また輸出産業は通貨高の打撃も受けている。スイスフランは経済・地政学的な不確実性が高まる局面で資金が流入する「安全通貨」とされ、現在その役割がさらに強まっている。1月末には対ドルで1ドル=0.76フラン台前半と、2015年以来のフラン高・ドル安水準に達した。
スイス労働組合連合(SGB/USS)のダニエル・コップ中央事務局長は「フラン高は、冶金・機械産業、時計製造業に特にとって大きな負荷となっている」と話す。これらの産業は今のところ、従業員の労働時間を減らした企業に国が補償金を出す「操業短縮制度」を活用しており、社会への影響は限られている。時計製造産業は2年連続で輸出が減少したものの、2025年の解雇は835人にとどまった。
だが製薬・ライフサイエンス業界には解雇の波が押し寄せている。人材コンサルのルントシュテットがまとめた「労働市場バロメーター外部リンク」によると、2025年には同業界の解雇は全体の約3割を占めた。
フェロ・ルッツィ氏は、「主な理由は景気循環だ。しかし今後アメリカ政府が製薬業界への圧力を強めれば、構造的な変化が起こる可能性も否定できない」とみる。製薬業界の製造拠点をアメリカに移すことは、ドナルド・トランプ政権の優先事項の1つだ。
金融サービス部門でも失業率が上昇している。ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)によると、特にクレディ・スイスのUBSへの統合に伴い、過去3年間で世界で3万6000人以上の雇用が失われている。また他の銀行や保険会社も相次ぎリストラを発表している。
こうした状況を受け、スイス経済省経済管轄局(SECO)は失業率が2026年も緩やかながら上昇を続けると予測している。
長期失業の増加
スイス労働市場は2023年、コロナ危機の反動でかつてない好調を記録した。失業期間が1年以上の長期失業者(ILO基準)は7万人と、2年前の約11万人から大幅に減った。
しかし現在、長期失業の脅威が労働市場に影を落とし始めている。2025年には、その数は約8万4000人に達した。SECOによると、失業者総数に占める長期失業者の割合は10%未満となお低いものの、放置できない水準に達しつつある。
フェロ・ルッツィ氏は「これは問題だ。労働市場から長く離れるほど、復職が困難になることが分かっている」と指摘する。「失業者のモチベーションは落胆に変わる。また雇用者は、期間の長さを失業者の魅力が薄れていることを示す『シグナル』と誤って捉えてしまう」
求人数の低迷
求人数も減少している。2025年の求人数は9万件を下回り、記録的高水準だった2022年の約13万件から大きく減った。
スイスインフォが取材した専門家たちは、求人数減少の背景には景気の悪化があるとみている。SECOは2026年の国内総生産(GDP)伸び率は1.1%にとどまると予想。人口高齢化に伴う構造的な労働力不足は今後数年間でさらに深刻化し、スイス企業に大きな負担をかけるとみられている。スイス雇用主連盟のハイニ氏は「医療、建設、飲食業界で最も深刻な人手不足が見込まれる」と説明する。
人工知能(AI)が雇用にもたらす影響は、見極めがなお難しい。SECO広報のフランソワーズ・チャンツ氏は「AIは主に人々の働き方を変える」と話す。例えばスイスでは、過去20年間でデジタル化によって自動化できない業務が増加する一方で、自動化可能な業務の重要性は低下しているという。「だがこの進化は緩やかなものであり、雇用全体は増え続けている」
AIの影響を特に受けやすいIT、銀行、行政部門では失業率が上向く兆候がある。だが労働組合は、AIが今後の雇用市場にもたらす影響は「二次的」なものにとどまるとの見方だ。連合のコップ氏は「AIが大量失業につながるとは考えていない」と語った。
編集:Virginie Mangin、独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫
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