バブル崩壊の危険をはらむクレジットカード

アメリカの低所得者向け住宅ローン( サブプライムローン )崩壊の後、金融専門家はクレジットカードの破綻を懸念している。経済市場の停滞が1年以上続く現状を踏まえ、クレジットカードが抱える問題を探る
アメリカの約1億1000万世帯の60%以上が日常生活をしていく上での負債を抱えている。20%の世帯は貸し出し銀行からの高額な利息と支払い遅滞による罰金の取り立てに追われ、クレジットの総額は減るどころか、膨 ( ふく ) らむばかりである。
フランクリン曰く…
「借金を抱えるよりは、食べずに早く寝たほうがいい」。今から200年前に、ベンジャミン・フランクリンは、クレジットの危険性についてアメリカ市民にこう語った。しかし、現在、この言葉に耳を傾ける人はほとんどいない。フランクリンの時代から現在に至るまでに、プラスチック・マネーによる過剰消費は、1兆ドル ( 約88兆円 ) という大量の借金を生み出した。
アメリカの低・中所得世帯 ( 年間所得3万ドルから10万ドル:約260万円から880万円 ) は、平均10数枚のクレジットカードを所有し、1万ドル ( 約88万円 ) のクレジットを抱えているとされる。金融危機と失業 ( およそ100万人が職を失った ) がこれに追討ちをかける。生活必需品でさえも、クレジットでの支払いとなるのだ。
勧誘への法規制
法外な利息にもかかわらず、クレジットに頼る傾向は依然として大きい。3カ月間無利息クレジット、ほかのカードへのクレジット総額の無料移行手続き、ガソリン無料券、提携航空会社のマイル獲得など、初めに飴を与えるような広告手法による勧誘が、問題を大きくしている。
「『クレジット狂騒曲』は、クレジット決済のためにほかのクレジットに走り、食料のような生活必需品をクレジットで賄 ( まかな ) うという事態にまで陥っています。わたしたちの最新のデータが、これを詳細に物語っています」
と、調査研究機関デモス ( Demos ) のニューヨーク上級研究員の責任者であり、数多くのレポート作成者であるホセ・ガルシア氏は、スイスインフォに語った。
しかし、甘い罠 ( わな ) はすぐに牙をむく。限度額を超えたとたんに、支払い遅滞の罰金と30%をも超える法外な金利が債務者を打ちのめす。
警鐘を鳴らす現状
1万人あまりの債務者が借金地獄の深みにはまっているにもかかわらず、サブプライムに引き続くこの問題は、まだ噴き出してはいない。
スイスインフォが取材した専門家は、この問題に関して予想を立てるのを避けており、金業業界がいつもそうであったように、今のところこの問題には注目していない。クレジットカード産業の内幕は特に、不透明だ。
ジュネーブ国際高等研究所 ( Institut de Hautes études internationales et de développement ) 教授であり、アメリカの連邦準備制度 ( Réserve fédérale américaine ) 元協力者であったセドリック・ティル氏にとって、現状は予断を許さないとする。
「連邦準備制度の元同僚たちが、この問題を放置しておくはずはありません。未決済の支払い額は、右上がりなのですから」
圧力団体
クレジットのバブルは最終的に崩壊するのだろうか。ティル氏は語る。
「それは、損失を債券発行で補おうとすると、債券を買っていた投資家がこれを手放し、暴落を引き起こす可能性があります」
一方、ガルシア氏は、オバマ政権が勧誘にブレーキをかけ、債務者の借金まみれの悪循環を断つ政策に注目している。
「最近の議会では、固定利息による市場の正常化と、ある形式のマーケティングの禁止を盛り込んだ法律を制定することで合意しました。しかし、これだけではまだ十分ではありません。クレジットから抜け出せない世帯を救済する措置を打ち出し、問題の底辺から状況を変えていかなければなりません。
政府による銀行救済政策は、金融関係者を安堵させました。クレジットカード業界は、金儲けになるからです。ホワイトハウスがクレジットカード業界を見放すようなことは、圧力団体がさせないでしょうね」
慎重派スイス
スイスには、4社の主なクレジットカード会社 ( USB 、スイスカード・swisscard 、 ヴィセカ・Viseca、 コルネール・バンク・Cornèr Bank ) が、カード発行前に申請者を念入りに調査するというアメリカの動向を好意的に受け入れ、注目している。
「債務者の利息の支払い・未払いは、銀行にとってリスクともなり得るので、支払い能力については慎重に審査します」
と、ヴィセカの渉外担当のベチナ・フライホーファー氏は説明する。
スイスは、アメリカのような法外な利息とは無縁だ。法律によって最大15%と決められていると、フライホーファー氏は話す。ヴィセカの90%の顧客が口座からの自動引き落とし手続きにより月末に総額を支払い、支払いの遅滞または滞納顧客は、1000人に1人にしかすぎない。
事態は緊急を要する。経済学者は、医療関係での大至急の改革と決済を叫ぶ。多くのアメリカ人 ( そのうちの過半数は退職者 ) が、クレジットカード破産の危機にさらされている。それらの人々は、医療の請求書さえもがクレジット払いなのだ。
ニコラ・デッラ・ピエトラ、swissinfo.ch
( 仏語からの翻訳、魵澤利美 )
現在、450万枚のクレジットカードがスイス国内で発行されている ( スイス国立銀行〈 スイス国立銀行・SNB資料より )。
過去5年間で、150万枚を売り上げた。特に、コープ ( Coop )、ミグロ ( Migros ) といった、大型量販店の新規加入がその最大の理由。
主なカード発行会社は、USB、スイスカード ( Swisscard : クレディ・スイス ) 、ヴィセカ ( Viseca ) 、コルネール・バンク ( Cornèr Bank )の4社。
遅滞または滞納顧客は、1000人に1人 (アデュノ・Aduno資料による)。
90%の顧客が、口座からの自動引き落とし手続きにより、毎月末に支払いを済ませる。
ヨーロッパでは、イタリアとイギリスの世帯が最も多額の負債を抱えている。
アメリカでは、クレジットカード使用による債務額は、1兆ドル ( 約88兆円 ) 。
この数字は、低・中所得世帯 ( 年間所得3万ドルから10万ドル:約260万円から880万円 ) のクレジットによってはじき出された数字である。
消費への活力として、市場の規制緩和が打ち出されたのは、レーガン政権にさかのぼる。今日、5世帯のうち1世帯が借金を抱える。
状況打破のため、アメリカ議会では5月22日、オバマ大統領の署名により「クレジットカードへの業界規制を強化する法律 ( Credit Card Accountability Responsibility and Disclosure Act : CARD ) 」を成立。消費を管理する措置と共に、2010年2月から施行される。

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