暗闇レストラン「ブラインド・クー」
チューリッヒで今1番ホットなレストランといえば「ブラインド・クー(Blinde Kuh=盲の牛)」。このレストラン、店内は真っ暗やみ。シェフとウェイター/ウェイトレスは全員視覚障害者。市の静かな一角にある元ルーテル派教会の建物を改造し1999年9月にオープンした全60席のブラインド・クー、ディナー・タイムは6月まで予約でいっぱいだ。
事の起こりは、チューリッヒで開催された闇の中で日常衰�を行い視覚障害者の身になってみるという体験ワーク「暗闇の中でのダイアローグ」。この体験ワークは大成功をおさめたため、主催者らは短期間で終了する催しではなく何か恒久的な物を立ち上げようと考えた。そこで誕垂オたのが「ブラインド・クー」だ。
「ここで時計、携帯電話など光りを発するものは全部はずして下さい。もちろん、店内は禁煙です。」と、ロビーでウェイトレスのイレーヌさんがコートを預かりながら、今日のメニューを見せてくれる。それから、イレーヌさんに案内され分厚い黒いカーテンの閉ざされた暗い廊下をテーブルへと進む。先頭の人がイレーヌさんの肩に手を載せ、後ろの人はそれぞれ前の人の肩に手を載せて数珠つなぎで進む。ロビーの照明がまだかすかに届く廊下で、一時休止。ここでお客が闇に慣れるため、必ず1、2分待つのだそうだ。テーブルに辿り着き、イレーヌさんのガイドで椅子を引こうとするが、テーブルの角を力任せに引っ張る者、グラスを薙ぎ倒すもの、大騒ぎだ。ようやく席につき、ナイフ、フォークを手探りで見つける。周囲のざわめきから、平日のランチタイムでも満員なのがわかる。
いったい何故こんなに人気があるのだろう。料理はおいしそうな見た目も大事。我々は、「目」でも食べているのだ。こんな真っ暗闇では、何が運ばれて来ても見えないではないか。「今どきスイスでは、やりたいと思う事はなんだってできる。食べ物だって、イタリアンから中華から、何でもある。が、ここでは、他ではできないユニークな体験ができる。成功の秘訣は、それでしょう。」と、マネージャーのアドリアン・シャフナーさんはレストランの目標を次ぎのように語った。「私達は人々に、ここにいるわずかな時間だけ目が見えないという事はどういう事か、感bトほしい。そして、この体験から健常者に視覚障害者の問題を理解してほしい。私達は、健常者と障害者の間のバリヤーを打ち壊したいのだ。」。また、ウェイトレスのイレーヌさんは「ここに来た人達に、良い衰�のために視覚は絶対条件ではないという事を知ってほしい。人間は口、鼻、手でも見ることができるのだという事をわかってほしい。」と言う。
さて、お味の方はいかがだろうか。ブラインド・クーの日替わりメニュー、車海老のガーリックソース、ローストラム、フレッシュパスタから、本日のパスタのラヴィオリ、スープ、サラダを頼んでみる。スープがどこにあるのか見えない。距離感がつかめず、うまく口に運べない。熱々のスープが、スプーンからこぼれ落ちる。サラダを食べようと何度もフォークで皿をつつき口に運ぶが、何もつかめていない。あきらめて、手づかみでいく。ラヴィオリはもっと大変だ。どっぷりつかった熱いクリーミーなソースがポタポタとしたたり落ち、どうにも扱いにくい。実際やってみると、闇の中で食べるのは、えらいことだ。しかし、おいしい。見えなくても、味覚には関係ない事を知る。見えない分、嗅覚が研ぎすまされる。となりのテーブルのエビのガーリックソースが強烈に誘惑する。どこかの誰かの香水が、かなりキツく感b驕B
この暗闇の中で、何か悪さをしようという不埒な輩はいないだろうか?シャフナーさんは「そんな事を考えるような人は、ここには来ませんよ。」とあっさり否定した。
さて、勘定はどうすればよいのだろう。普通ヨーロッパのレストランでは、支払いはテーブルで担当ウェイターを呼んですませるのだが。さすがにここでは、照明のあるロビーに戻ってから払うのだそうだ。照明といえば、キッチンにも照明はある。料理人は皆全盲か視覚障害者なのだが。
チューリッヒに行く機会があったら、ブラインド・クー、体験してみては?
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