「安楽死を学校で議論すべき」スイスの若者たちが議会に提案
スイスで安楽死が急増するなか、スイスの若者たちは自殺に関する学校教育を導入すべきだと訴えている。
スイスでは現在、 85 歳以上の自殺者数が 25 年前に比べ 4 倍に増えている。合法的な安楽死が増えていることが理由だ。専門家は、2035年には国内の年間死亡者数の5%が安楽死によるものになると予測する。
ベルンで開かれた青年議会(下記の小欄参照)の参加者たちは、政治が介入すべきだと訴える。青年議会は、自殺ほう助に関する啓発・意識向上キャンペーンを行うことを求める決議を可決した。学校で安楽死に関するワークショップやテーマ週間(ある特別なテーマについて集中的に学ぶこと)などを行うよう求める。
青年議会はスイスで毎年開かれる。政治に関心のある14歳から21歳までの約200人が参加し、国レベルで自分たちの関心事を訴えることができる。
数日間、さまざまなテーマについて議論し、要求事項を作成する。そして、青年議会として、国民議会(下院)の議場で採決する。可決された要求事項は請願書として国民議会に提出する。
少なくとも1人の連邦議会議員がその要求事項を取り上げ、国民議会または全州議会(上院)に提案として提出した場合、その要求事項は公式の政治プロセスを踏むことになる。
一方、青少年向けのワークショップで法的根拠や心への影響に関する情報提供だけでなく、倫理的な問題も取り上げるべきだという点については議論が分かれた。一部の参加者からは、生徒たちへの価値観の押し付けにつながるのではと懸念する声があがった。
倫理的な部分について述べた箇所を提案から削除する動議は、138 票対 12 票で否決された。青年議会は、この提案を請願書として国民議会(下院)に提出した。
学校教育にふさわしいテーマ?
このテーマが青少年にそもそもふさわしいかどうかという視点は、ごくわずかに触れられただけだった。自殺に関する教育は、自殺を促進するのか、それとも防止に寄与するのか、研究界では長い間議論が続く。
専門家たちは、青年議会の提案に対し慎重な反応を示している。スイス自殺予防連合 Ipsilon のアニャ・ギシン・マイヤール共同代表は、同連合は授業で義務的に取り上げることを推奨していないという。
学校での自殺予防教育はデリケートなテーマだ。ギシン・マイヤール氏は「スイスには、予防・教育的観点から自殺ほう助を規制する具体的な法的根拠がない。学校教育で取り上げるには不適切なテーマであると考える」と話す。
同連合は、自殺予防法を策定し、その中に自殺ほう助の問題も盛り込むことを優先すべきだと考える。
教師協会が明確な条件を設定
ドイツ語圏スイス教職員連合(LCH)も、この問題については慎重だ。授業で取り上げるには、年齢に応じた指導、予防に重点を置いた内容、問題を抱える青少年向けの相談窓口、言語面でのガイドライン、保護者への情報提供、専門知識を持つ教師と専門家による指導など、明確な条件が必要だとしている。
同連合は、この問題を取り上げるには最も早くても中等教育第 I 段階(中学生)、深く議論するのは中等教育第 II 段階、つまり 15 歳以上になってからが適切だとしている。
国内に広がる不安
これらの要素を鑑みれば、連邦議会が本腰を入れる可能性は低い。
しかし、青年議会の提案は、現状に対する不安の広がりを反映している。スイスでは、安楽死に関する議論はごく限られた場面でしか行われていない。直近の例が、スイスで初めて使われた自殺カプセル「サルコ」だ。この件については、規制強化を求める2件の動議が議会に提出されたが、議会は新たな自殺ほう助規制は必要ないとして、動議を否決した。スイス政界の安楽死に対するこの姿勢は長年変わっていない。
スイスでは、安楽死を規制する個別法はなく、刑法に法的根拠があるだけだ。刑法は利己的な動機による場合に限り、刑事罰の対象とする。末期疾患であることや、成人であることも、法的には必要とされない。
実際には、自殺ほう助団体や医師団が年齢や疾患の状況などの「条件」を個別に設けている。スイス医学アカデミー(SAMW)は、医師による自殺ほう助の取り扱いに関するガイドラインを策定している。
一般的には、自殺ほう助を受ける人は正常な判断能力があり、死にたいという願望が他人に強要されていないものであることなどが条件となる。また耐え難い苦痛があり、それを解消するためにあらゆる医学的措置を検討・試したことも求められる。
安楽死の枠組みを主に民間機関が決定していることは問題だ。これは、安楽死に関するさまざまな問題点を列挙した付随文書の中で、青年議会も指摘している。
不随文書は、安楽死の常態化が進んでいることにも触れた。青年議会は、特に介護を必要とする人々に精神的な圧力がかかっていると懸念する。
青年議会の参加者の一人は、高齢者たちが自殺ほう助という選択肢にどのように触れるかという問題だけでも、広範な倫理的意味合いがある、と指摘した。
独語からの翻訳:宇田薫、校正:ムートゥ朋子
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