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時計の王者が化粧直し

建築当時のナポレオン三世風に修復されたサロンで顧客がじっくり品定めする. Patek Philippe

高級時計といえばスイスだが、そのなかでも王者といわれるのはパテック フィリップ。 「知る人ぞ知る」ブランドでコレクターが購入を夢見る時計である。1839年の開業以来、ジュネーブにある本店が2年間の修復を経てこのほど模様替えした。

この修復を機にローヌ通りの本店の4階、5階でフィリップ・スターン社長の個人コレクションであるレマン湖を描いた絵画150点が一般公開され、レマン湖を見渡すサロンでリッチな気分で鑑賞できる。

 ロレックス、カルティエと高級店が並ぶジュネーブのローヌ通り。その中でも一際美しい建物が老舗パッテック フィリップの本店だ。店内に足を踏み入れるには呼び鈴を押し、ガードマンが二人立っている入り口を突破しなければならないが、ちゅうちょせずに中に入ってみよう。

パテックフィリップの地位—老舗の貫禄

 店に入ると真っ先に豪華なシャンデリアに圧倒される。19世紀当時と同じに再現された特注の品で、中央にあるビロードのソファとともにデラックスなムードに浸れる。客はまばらにいるが、クリスマス前でも人でごった返しているというわけではない。それもその筈、パテック フィリップの時計は衝動買いをするようなお値段ではない。

 腕時計では最も安い革バンドのシンプルなモデルでも1万2000フラン(約116万円)で、「上はノーリミット」と説明するのは同社の担当広報官のマダム、ぺトラ・ド・キャストロ。エレガントな服装で迎えてくれた。2006年に売れた最も高額の時計は1200万フラン(約11億円)だったという。「高値のものでコレクション用でない、実際にはめられる時計では120万フラン(約1億2千万円)くらい」というから覚悟して値段交渉に入らなければいけない。

 そのためには修復されたナポレオン3世風サロンが役に立つ。壁には革張りの板がはめ込まれ、その革にはレリーフが施されている。黒人の像が持ち上げているシャンデリアとともに、たっぷりと19世紀の雰囲気が漂う。セキュリティーの問題上もう使えないという当時の金庫も記念に飾られている。

時計は宝石以上?

 この店のショーウインドーには一切値段の表示がない。これについてマダム、ド・キャストロは「エレガントでないから」と言う「ダイヤモンドを買いにいらしても値段は書いていないでしょ」。億単位では確かにゼロが目障りかもしれない。ショーウインドーに飾ってある時計には複雑な時計の機能はもちろんのこと、七宝模様、彫刻や宝石が施されていて一級の美術品といえる。時計コレクターの他に投資として美術品収集家が買いたいような時計もある。

 「モデルによっては4年間待ちのものもある」というから億万長者でも直ぐに手に入る訳ではない。サロンのリニューアル記念に発売した限定販売のスチールの「カラトラバ」(300個)(パテックフィリップのトレードマークでもあるモデル)とプラチナの「ゴンドーロ」(100個)はそれぞれ1万9000フラン(約180万円)、4万3000フラン(約400万円)という値段にも関らず、既に売切れてしまった。

世界のセレブが好むジュネーブ店

 それでは、どのような顧客が来店するのか。「お客様は大変国際的で、ジュネーブの本店で買うことに意味がある」と世界中からやってくるらしい。まさに、「世界のセレブの溜まり場」ではないかという質問に「とんでもない。お買い上げにならないお客様でも見に来ていただいて結構です。この古い時計会社はジュネーブの遺産でもあるのですから」とちっとも気取らない。是非、一度お店を覗いてみてはどうだろう。


swissinfo、 屋山明乃(ややまあけの)

パテック フィリップ本店の美術展『レマン湖を描く絵画』開館時間:月、木、土の14〜17時。2月3日まで。

パテック フィリップ・ミュージアム ( Patek Philippe Museum ) の開館時間は火〜金曜:14〜17時。土曜日は10〜17時。日、月曜日、祝日は閉館。予約すればガイドの解説も可能で日本語もあり。

· パテック フィリップは数少ない一貫独立した製造販売業者で、時計の全ての製造工程を自社で統合して生産を行うジュネーブ唯一の時計メーカーだ。世界で最も複雑な時計を作ることで有名。製造部門はジュネーブ郊外のプラン・レ・ワットにあり、店舗は本店がジュネーブにあるほか、パリとロンドンにもある。ジュネーブの従業員は約1000人、3世代続いてスターン家が社長兼オーナーの家族経営だ。

· パテック フィリップ・ミュージアムは3代に渡る社長、スターン家のコレクションを博物館にしたものでパテック フィリップの時計だけでなく、時計の歴史を代表する傑作や七宝細密作品が2000点も見られる。

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