航空写真家、徳永克彦と過ごすマニアの夕べ
7月12日夜、チューリヒ市内のイベントホール、ライト&バイト(Light&Byte)に、カメラ好き、航空写真好きが集まった。300席用意された椅子はほぼすべて埋まっている。
ニコン(Nikon)が2日間にわたって開催するスイス空軍パトロール・スイス(Patrouille Suisse)の写真講演会「パトロールスイスと航空写真」の会場だ。
空軍パイロットを退役し、現在指揮官としてチームのトレーナーを務めるダニエル・ヘスリ氏(53)の隣には、航空写真家として世界的にその名を知られている徳永克彦氏(54)が立つ。
スピードとシャープな線が特徴のパトロール・スイス
徳永氏は1988年以降、パトロール・スイスを空から撮影し続けている。ヘスリ氏とは長年の付き合いがあり、強い信頼関係で結ばれている。スイス人のウルス・マットレ氏が地上で撮影した華やかな舞台の裏側など、今回公開される写真の中には初公開のものも多い。
今回の講演はニコンのニュースレターで通知されたが、「予想以上の反響で、チケットはすぐに完売してしまった」とマーケティング・コミュニケーション担当のニコル・シュティーガー氏は驚きを隠さない。パトロール・スイスと徳永氏のコラボにマニアは食指を大きく動かした。
徳永氏から見たパトロール・スイスの魅力は「スピード」と「機体のシャープな線」。パトロール・スイスは他国のアクロバット飛行チームと異なり、練習用航空機ではなく戦闘機を使用しているからだ。1995年以降は、タイガー戦闘機でアクロバット飛行を行っている。また、雄大なアルプスが連なるスイスのバックグラウンドはやはり他国では見られないものだと、講演前のインタビューで語った。
暗闇の中でメモ
写真講演会「パトロールスイスと航空写真」はヘスリ氏によるパトロール・スイスの紹介で始まった。徳永氏とマットレ氏の写真を次々に映し出しながら、さすが軍人だけあって大きな声ではきはきと話す。説明の中にはジョークが散らばり、会場はリラックスした雰囲気だ。
ヘスリ氏は講演の中で、パトロール・スイスの特徴を「正確」「確実」「安全」とまとめる。徳永氏もまたインタビューの中でスイス人パイロットの特性を「シリアスで正確」と表現した。
パトロール・スイスについてのヘスリ氏の講演が終わると、今度は徳永氏が英語で航空写真についての講演を行った。少々風邪気味のせいか静かな声で、だが時折ジョークを交えて聴衆の笑いを誘う。
このような講演を行うのは年に3、4回だというが、仕事の内容から航空写真家として必要な訓練、機内でのカメラのセットの仕方、ソフトの扱い方まで幅広いノウハウを伝授。マニアにはまたとない機会に違いない。話が撮影現場に移って具体的になってくると、身を乗り出して耳を傾け、画面を見つめる人が増えた。暗闇の中でメモを取る人もいた。
綿密な地上での準備
徳永氏はそもそも趣味が高じてプロの航空写真家になったという。すべてのアクロバット飛行チームを制覇したいと思い、これまでに世界中のおよそ30チームの写真を撮ってきた。そんな中でも「パトロール・スイスは世界的に欠かせないチームだ」と言う。
パトロール・スイスを誇りにしているヘスリ氏は、徳永氏について次のように語った。
「今でも年に2、3人のフォトジャーナリストが来るが、彼はとにかくベスト。航空術にも秀でているが、何を撮りたいかがはっきりしていて、地上での準備も綿密に行う。このような準備をするカメラマンはあまりいない。当初は彼から頼まれて撮影に臨んでいたが、今ではこちらから来てくれと彼に頼んでいる」
徳永氏は現在、年に一度は必ずスイスへやってくる。「航空写真家の数は少ないから、私は幸運だった」と謙虚な彼は、講演後の相次ぐ質問にも一つひとつ丁寧に答えていた。
1957年東京生まれ。
1977年からプロの航空写真家として活動。
アメリカのティンドル(Tyndall)空軍基地で「T-33A練習機」を撮影したのが最初の仕事だった。
以来、43カ国で空軍や海軍、航空会社の撮影の仕事を行い、1年の大半を外国で過ごしている。航空機に乗って航空機を撮影する「エア・ツー・エア(Air-to-Air)」が専門。
これまでの飛行時間は1500時間を超える。
航空に関するビデオや書籍も多数。2010年7月には写真集『パトロール・スイス・バックステージ(Patrouille Suisse Backstage)』をウルス・マットレ氏とともに出版。
独/英語、104ページ、AS Verlag出版、45フラン(約4300円)。
(ニコンのウェブサイトより)
スイス空軍のアクロバット飛行チーム。1964年にスイスで開催された万博でのデモンストレーションと空軍50周年を記念して同年創設された。
現在のリーダーはダニエル・ヘスリ氏(1957年生まれ)。8人のパイロットを率いる。ショーは6機で行う。
使用航空機は米ノースロップ(Northrop)社「F-5EタイガーII戦闘機」。
アクロバットの練習は週に1回。通常は「空の警官」としての業務をこなす。
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