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スイス国民投票の長所と短所

投票箱
スイスで投じられる一票は、ヨーロッパ全体にとって意味がある Keystone / Urs Flueeler

スイスで人口上限案が国民投票にかけられるのを前に、直接民主制の欠点が議論の的となっている。

ある季節外れに温かい春の金曜日。午前8時直前、チューリヒからベルンへ向かう1時間の列車は満席だった。スキーヤーの一団がスキー板をぶつけ合いながら大声で談笑し、スニーカー姿の公務員たちはノートパソコンを開き、ヘッドホンを装着して座っている。食堂車は観光客で賑わっていた。

スイス政府職員のアンナ・ミュラーさんは、スキー用具を自分の座席に無理やり押し込もうとするスキーヤーと口論になり、うんざりしている。

「だから私は6月の投票で賛成票を投じるつもりだ」とミュラーさんは言う。「スイスの電車は混雑しすぎているから」

「人口1000万人に反対」国民投票

ミュラーさんが口にした投票とは、この夏に行われる国民投票のことだ。現在910万人のスイスの人口を、1000万人に制限するかどうかを問う。

国民投票で可決されれれば、シェンゲン協定をはじめとする欧州連合(EU)との条約・協定が存続の危機に陥り、スイス企業は熟練した外国人労働者を確保しにくくなる可能性がある。

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部外者から見れば、それは極端な提案で、ディストピア的とさえ言えるだろう。しかしスイスでは、どんなに過激なアイデアでも、いわゆるイニシアチブ(国民発議)という形で直接有権者に提示することができる。

スイスの制度では、有権者5万筆の署名を集めることによって、議会で可決された法律を国民投票にかけることができる(レファレンダム)。また、10万筆の署名を集めれば憲法改正案も国民投票にかけられる(イニシアチブ)。

ミュラーさんにとって、人口は現実の問題だ。満員電車や住宅市場の逼迫ひっぱくを目の当たりにし、スイスがかつてよりも速いペースで変化していることも実感している。

直接民主主義への試練

スイスは過去数十年、直接民主主義(主に、頻繁な国民投票の実施を指す)が社会的な緊張を増幅させるのではなく、吸収できることの証拠として例示されてきた。

だが近年、富裕税や移民制限といった重要課題に対してイニシアチブが提起され、かつてスイスの安定を支えていた仕組みが、かえって論争や分裂を煽る要因となっているように見える。

スイスは近隣諸国に先駆けてこうした緊張に直面してきた。そんなスイスに生じる変化は、人口制限から体制への信頼に至るまで、こうした圧力が他の自由民主主義国家でどのように展開していくかを示す試金石となる。

そこで次のような疑問が湧く。スイスの国民投票制度は物議を醸す議論に早めに決着をつけ、それによってポピュリズムへの緩衝材となっているのか。それとも危険・軽率な投票がスイスを翻弄し、有権者の不満をますます募らせているのだろうか――。

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ベルン大学のスイス人政治学者ハンス・ペーター・シャウブ氏は、「スイスの国民投票制度は、早期警戒システムとして他国も参考にすべきかもしれない」と話す。スイスでは国民投票にかけるハードルが低いため、いずれ他国でも大きな議論を呼びそうな問題を、早い段階で意識することができる。

移民問題はそのようなテーマの一つだ。EUに対する複雑な感情(2016年のブレグジット投票よりはるか昔からスイスで議論されてきた)や、厄介な課税問題もだ。

「直接民主制のおかげで、スイスではこうした圧力がより早く顕在化する」とシャウブ氏は指摘する。「他の国では、それらは抑圧されやすい」

低いハードル

スイスの直接民主制は近代国家が樹立した1848年、そしてそれ以前の中世後期の州制度にまで遡る。だが今日、誰もがこの制度に満足しているわけではない。

スイスの銀行最大手UBSのセルジオ・エルモッティ最高経営責任者(CEO)は1月、国民投票の実施が「あまりにも容易すぎる」可能性があると指摘した。憲法改正の提案に必要な10万筆という署名数は、もはや現代スイスの規模やスピードに見合っていないと論じた。

現行のイニシアチブ成立条件が定められたのは1977年。今の3分の2しか人口がなかった時代だ。

今日は署名集めの専門業者があり、署名要件はかつてほど高いハードルではなくなった。手続きはさらに簡素化されるとみられる。スイス連邦議会は先月、イニシアチブやレファレンダムに電子署名を試験導入する意向を示した。

数字がすべてを物語る。1891年以来、連邦レベルの国民投票にかけられたイニシアチブは229件。だが可決されたのはわずか26件、打率は1割にとどまる。

昔はイニシアチブが提起されることもまれで、1970年までは平均すると年に1件未満だった。だが近年は頻度が加速度的に増え、今世紀に入ってから平均年4件以上が国民投票にかけられている。政治関係者がアイデアを試したり、デリケートなテーマを見つけたり、支持を集めたりする機会が増えているのだ。

「スイス人は中世以来、集会を開き意見を述べる権利を有してきた」。スイスのプライベート投資運用会社パートナーズ・グループの共同創業者、フレディ・ガントナー氏はこう語る。この制度はうまく機能しているとみるものの、「あまりにも多くの事柄について投票しすぎている。簡単すぎる」と指摘する。

組織的提起

スイスの直接民主制の起源については多くの歴史があるが、イニシアチブやレファレンダムが自然発生的に提起されることはめったにない。

ベルン大学とローザンヌ大学のデータによると、イニシアチブやレファレンダムの発起人となるのは政党、利益団体、キャンペーン団体といった組織的な主体が増えている。政治家が主導して議題が設定されることも多い。

スイス社会科学専門センター(FORS)ゲオルク・ルッツ氏は「主要政はイニシアチブをより体系的に活用するようになった。それは左派や右派に限った話ではない」と指摘する。特に伝統的な集団が国民党(SVP/UDC)の反政府運動に知見を得てきたという。

ルッツ氏は、特に金融危機後に経済官庁や企業に対する信頼が落ちたことにより、スイスの古き権力機構が影響力を失ったとも指摘した。

「もしエコノミースイスのような大企業のロビー団体が『これは経済にとって良くない』と言えば、基本的にどんな法案も可決されないものだった。だが今はそうではない」。こう話すルッツ氏は、2024年の国民投票で可決された年金増額案を例に挙げた。

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提起主体の変遷の顕著な例は、長く緊張の続くスイス・EU関係だ。最新の火種は、長年の漂流を経て大筋合意に至った第3次二国間協定だ。EUおよびその単一市場との関係を安定させ、統合の強化を狙った同協定は、早ければ来年にもスイスで国民投票にかけられる見込みだ。

政治団体は協定の詳細が決まるよりも前から、それぞれの立場を固め始めていた。著名な右派実業家やクリストフ・ブロハー氏のような政治家が背後につくキャンペーン団体「コンパス・ヨーロッパ」は、EUとの連携強化への反対勢力を結集しようとしている。

ある元連邦議員は「100万フラン(約2億円)あれば10万人の署名が買えると言われている」と話す。この指摘は、投票に向けた賛成・反対運動の資金として使われるお金が、署名集めというもっと早い段階で威力を発揮するようになった、という公然の事実とも一致する。

マーケティング

欧州統合への抵抗を党是に掲げてきた国民党の陣形ははっきりしている。その戦略はごく普通で、①問題の早期提起②複雑な協定群をより広範な主権問題へと単純化③必要に応じて国民投票を実施する――というものだ。

世論調査会社ソトモのミヒャエル・ヘルマン氏は、イニシアチブの仕組みは政治家が有権者を動員する方法を学ぶのに役立っていると指摘する。「目新しいのは、選挙運動中にイニシアチブを利用して、自分たちが何らかの問題に取り組んでいることをアピールする手法だ。それはむしろマーケティングツールに近い」

1000万人イニシアチブと同様に、二国間協定の国民投票も最終的には絶妙なバランスが取れているように見える。政府とほとんどの経済団体はこの合意案を支持しているにもかかわらず、あるいはだからこそ、というべきか。

EU当局者は、もしスイスが二国間協定を否決すれば、現状維持は不可能になると警告している。

国民の過半数が賛成票を投じたとしても、協定案が否決される、というシナリオもありうる。というのも、憲法改正案の可決には①有権者の賛成過半数と②州票の賛成過半数の双方を必要とするという「二重の過半数」原則が協定案にも適用されるかどうかは、まだ明らかになっていないからだ。

EU協定に反対する人々は、全国的な過半数を獲得するよりも、小さく保守的な州で勝利する方が容易だと計算している。

協定案に賛成するジュネーブの資産運用マネジャーの1人は、「もしE​​U協定に州票の過半数も必要となれば、たとえスイス国民の大多数が賛成票を投じたとしても、協定案は否決されるだろう」とみる。「それは正しいことなのか、公平なことなのか?」

「否決」にも意味がある

国民投票で否決されても、投票結果は大きな物議を醸す可能性がある。昨年11月、スイスの有権者は、超富裕層に50%の相続税を課す案を大差で否決した。

だが極左の社会民主党青年部(JUSO)が発議したこのイニシアチブは、近年で最も賛否の割れた案件の1つとなっただけでなく、多くの富裕層が国外移住を決めるきっかけとなった。

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スイスのジャーナリストで歴史家のマルクス・ソム氏は、左派政党が提案するイニシアチブは可決を勝ち取るためではなく、政府に何らかの行動を起こさせることを狙って考案されることが多いと指摘する。

「彼らはそれが『ウィン・ウィン」だと考えている。政府に、イニシアチブ原案に近いものの、原案ほど極端なものではない対案を提出させ、それを投票にかけさせる」

より根本的な懸念もある。連邦レベルの投票を監督する連邦内閣事務局は、民間の署名収集企業が関与した署名偽造疑惑について、複数の調査を開始した。

偽造された署名

警察と連邦検察は1月、憲法改正案の署名集めに関与していた企業を捜索した。

当局は複数の事例において、イニシアチブに賛成する署名が偽造されていた証拠を発見し、刑事告訴した。国民投票の立ち上げ段階における公正性に害する疑問を呼んだ。

さらに懸念されるのは、投票の集計ミスだ。3月の国民投票では、バーゼル・シュタット準州の電子投票システムに技術的な不具合が発生し、2000票以上が集計できず、原因調査が行われた。

ベルン大学のシャウブ氏は「スイスにおける直接民主主義の手続きは、市民の信頼に大きく依存している」と指摘する。「こうした事件が頻繁に起こるようになれば、その信頼の基盤が損なわれる可能性がある」

とはいえ、投票前の議論は近隣諸国に比べて穏やかなことが多い。特に冷静な議論が展開されたのは、休暇日数を増やす案が否決された2012年の国民投票だ。レファレンダムは今も意見の相違を投票という形で反映させ、多くの場合、妥協点を見出す役割を果たしている。様々なグループが様々な問題で勝利したり敗北したりするが、常に疎外感を感じている人はほとんどいない。

パートナーズ・グループのガントナー氏など一部の人々は、スイスの直接民主主義が制御不能に陥っているという考えに異議を唱えている。むしろ、それは西側世界全体で感じられる緊張を反映しているだけであり、他の国々は単に追いつこうとしているに過ぎないのかもしれない。

Copyright The Financial Times Limited 2026

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担当: Benjamin von Wyl

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英語からのGoogle翻訳:ムートゥ朋子

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