パリのスイス文化センターが刷新、使命を再確認
パリのスイス文化センターが約4年にわたる改修工事を終え、3月26日に一般公開を再開した。近代化されたエントランス、開放的な空間と装いは新たに、スイス出身の現代アーティストをフランスで広く紹介するという使命は変わらない。現地を訪ねた。
おすすめの記事
スイスのメディアが報じた日本のニュース 無料ニュースレター
リニューアルオープンを1週間後に控えた時点(元記事の配信は2026年3月25日)でも、スイスの芸術評議会「プロ・ヘルヴェティア文化財団(Pro Helvetia)」のパリ拠点であるスイス文化センターの外壁には、まだ看板が掲げられていなかった。
「看板に誤植があり、業者に送り返さなければならなかった」と、同センターでビジュアルアート部門を担当するクレール・ホフマン氏は語る。
段ボールや建築廃材が積み上がり、書店スペースも空のまま。塗装の最終仕上げが続く状況にもかかわらず、ホフマン氏は落ち着いた笑みを浮かべながら、改装後のスイス文化センター外部リンクを案内する。
1985年創設の同センターは、これまで必ずしも「開かれた場」ではなかった。入口は歩きにくい石畳の袋小路に面し、さらに重厚でガラスのない扉を通らなければ、小さな受付ホールにたどり着けなかった。
空間設計をより流動的に
空間設計は一新された。舞台は変わらず、マレ地区にある17世紀の趣ある建物「オテル・プスパン」だが、今後は人通りの多いフラン・ブルジョワ通りに面した書店を入口として館内に入る。
今後はまず書店を通してスイス文化に触れる流れとなる。美術やグラフィック、建築といった分野の書籍が並び、スイスの強みを示す構成だ。
書店からはスロープが展示スペースへと続く。「来館者が心地よく回遊でき、誰にとってもアクセスしやすい空間にすることが設計上の課題だった」とホフマン氏は説明する。
「仕切りをなくす」「動線をスムーズにする」が今回の改修のキーワードだ。パリの建築事務所Architecture Studio Bœnders Raynaud(アーキテクチャー・スタジオ・ベンダース・レイノー)とバーゼルの建築事務所Truwant+Rodet+(トゥルヴァン+ロデ+)が設計を手がけた。ホールは旧来のエントランスホールや瀟洒な中庭と一体的に使えるようになり、大規模なオープニング・レセプションやパフォーマンスにも対応できる。
現代に根差す創作拠点
では、入口や動線だけでなく機能としての変化は見られるだろうか。スイス文化センターは引き続きスイス現代美術の発信拠点であり続けるのか。かつては同センターで紹介する美術作品は前衛的でコンセプチュアルな作品に偏っているとの批判もあった。約20年前、当時の館長ミシェル・リッター氏(1949-2007)が現代アート路線を打ち出し、トーマス・ヒルシュホルン氏の「スイス・スイス・デモクラシー」展など論争を呼ぶ企画で注目を集めた。
その後のジャン・ポール・フェレー氏、オリヴィエ・ケーザー氏、さらにジャン・マルク・ディエボルド氏とホフマン氏(2019年以降)が、この路線を維持しつつ活動の幅を広げてきた。「現代アーティストを紹介することが、プロ・ヘルヴェティア財団から与えられた使命だ」とホフマン氏は強調する。一方でディエボルド氏は「対象は前衛や新進作家に限らない。スイスの創作の特徴は、現在に深く根ざしている点にある」と語る。たとえば演劇でも古典レパートリーの伝統は薄く、アーティストは現実への関心が高い。それが舞台芸術やドキュメンタリー映画の質の高さにつながっているという。
そのため同センターでは、アルベール・アンカーの作品や、シャルル・フェルディナン・ラミュの小説「デルボランス」を基にした舞台をチョコレートとともに楽しむ、といった趣向は期待できない。
開かれた多様なスイス像
「スイス文化センターは、パリにある他の外国文化機関とは異なり、外交ネットワークに属していない。語学講座や文化外交、いわゆるソフトパワーの発信、国旗掲揚や伝統料理の紹介とは無縁で、これは他の文化機関が羨む特権だ」とディエボルド氏は語る。
つまり、同センターは国家を代表するのではなく、スイスで活動するアーティストを紹介する場であり、国籍よりも同国との結びつきが重視される。「結果として、開かれ、多様で、固定観念にとらわれないスイス像を示している」と同氏は述べる。
リニューアルオープンに合わせた3つの企画展も、その方針を体現する。3人の女性アーティスト、3世代・3言語圏を取り上げ、多様性を示した。書店からスイス文化センターに足を踏み入れると、チューリヒ在住のドイツ系ガーナ人若手アーティスト、アコスア・ヴィクトリア・アドゥ・サニャー氏の花の写真に目を奪われる。医療過誤で亡くなった父へのオマージュとして、生命感を剥ぎ取った表現が印象的だ。
中庭や上階では、ジュネーブ出身の40代、マイ・トゥ・ペレ氏がローマ、エジプトあるいはアステカのような古代文明を思わせる彫像を展示しつつ、独自の要素を巧みに融合させている。さらにティチーノ州在住の89歳、インゲボルク・リュッシャー氏は、ポリスチレン彫刻を燃やす作品を通じて、激動の1970年代を演出した。
総工費730万スイスフラン(約14億円)を投じた4年に及ぶ改修と、その間のフランス各地での巡回展を経ても、スイス文化センターの姿勢は変わらない。パリの文化施設との連携を強化しつつ、スイスのアーティスト支援を軸に据える。「例えばルツェルン出身のサーカスアーティスト、ジュリアン・フォーゲル氏は2019年に当センター初のサーカス特集で紹介したが、現在はフランスで100公演のツアーを行っている」とディエボルド氏は語る。
リニューアルオープン後の来場者数への関心も高い。長期休館を経て、パリ市民は文化センターを再訪するだろうか。書店から展示空間へと足を運ぶのか。同センターは新たに2人のメディエーターを採用し、来館者との接点強化を図る。
スイス文化センターは3月26日に再開。アコスア・ヴィクトリア・アドゥ・サニャー氏、マイ・トゥ・ペレ氏、インゲボルク・リュッシャー氏の展覧会は7月26日まで開催。
編集:Samuel Jaberg、仏語からの翻訳:横田巴都未、校正:宇田薫
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。