魔術師から王へ 「東方の三博士」の物語
キリスト降誕の場面を再現する人形セット「クレーシュ/クリッペ」に欠かせない存在が「東方の三博士」だ。イエスに敬意を表するために訪れた三人の来訪者をめぐる物語は、多くの風習や伝統の出発点となっている。
キリスト降誕の場面で、最後に登場するのがガスパール、メルキオール、バルタザールの三博士だ。ベツレヘムの星に導かれ、黄金、没薬、乳香を携えて幼子イエスのもとへ向かう三人が到着するのは、クリスマス週間(12月25日から12日間)の締めくくりにあたる1月6日だ。
今日では「東方の三博士」として知られるこの3人だが、その正体や来歴は意外に複雑だ。三博士は常に王として描かれていたわけではなく、魔術師や占星術師、あるいは賢者として語られることもあった。また、その姿かたちは時代ごとに変化し、それぞれの時代の価値観を反映してきた。
スイスインフォでは、スイス国立博物館のブログ外部リンクから歴史に関する記事を定期的に紹介します。ブログの記事はドイツ語、フランス語、英語などでも掲載されています。
三博士に関する最初の記述は、「マタイによる福音書」に見られる。そこでは、誕生したばかりの「ユダヤ人の王」を礼拝するため、東方からやって来た賢者たちについて述べられている。
「イエスは、ヘロデ王の時代にユダヤのベツレヘムでお生まれになった。そのとき、占星術の学者たちが東の方からエルサレムに来て、 言った。『ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方でその方の星を見たので、拝みに来たのです』」(マタイによる福音書2章1〜2節、新共同訳)
ギリシャ語原典では「magoy」という語が使われており、「博士」の語源となった「賢者」を意味する。この言葉は当時、夢や予兆を解釈し、星の配置から未来を読み取る力を持つと考えられていたペルシャの祭司たちを指していた。この本来の呼称は、イタリア語の「Re Magi」という表現にも受け継がれている。
もう一つ重要なのが、三博士が幼子イエスに捧げた贈り物だ。これについても「マタイによる福音書」は次のように伝えている。
「家に入ってみると、幼子は母マリアと共におられた。彼らはひれ伏して幼子を拝み、宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた」
(マタイによる福音書2章11節、新共同訳)
この伝説は、西暦4世紀に起源をもつ。しかし、単なる賢者(ペルシャの祭司)が、なぜ王として語られるようになったのだろうか。その理由のひとつは、彼らが幼子イエスにささげた贈り物にある。黄金と乳香は、聖書の他の箇所でも王にふさわしい献上品として描かれていることから、賢者はやがて王として理解されるようになった。
また、「3」という数字にも重要な意味があった。まず、「マタイ福音書」には3種類の贈り物、そして3人の博士が登場し、それぞれが1つずつ品物を持つ姿が定着した。さらに3という数字は、父・子・聖霊から成る三位一体を象徴すると同時に、キリスト教の3つの徳である信仰、希望、愛を象徴している。
やがて三博士には、出身地に関する新たな象徴的意味も付与されるようになる。衣装や肌の色、年齢の違いによって、彼らは当時知られていたアフリカ、アジア、ヨーロッパの三大陸を代表する存在として描かれた。16世紀初頭以降、キリスト教では、三博士は人類全体の象徴と見なされ、その来訪は世界中の人々がイエスの前にひざまずく意思を示すものと解釈された。
中世になると、三博士への崇敬は盛んになり、彼らの聖遺物をめぐる信仰も広がった。同時に、今日まで受け継がれている数々の風習も生まれた。その一例が「シュテルンジンガー(星の歌い手)」である。主にカトリック地域で祝われる公現祭の日に、子どもたちが家々を訪ね歩き、各家庭の玄関に祝福のしるしを書き記す伝統だ。
また、王を象った小さな人形入りのパイ菓子「ガレット・デ・ロワ」を作る習慣もある。スイスではこの習慣は一時ほとんど忘れ去られていたが、1950年代に菓子・パン職人組合による大規模な広告キャンペーンをきっかけに復活した。16世紀には中に入れる「フェーヴ」は単なる豆だったが、現在では小さなプラスチック製の王を模した人形が使われることが多い。引き当てた人は、その日一日だけの王または女王となる。
今日では、キリスト降誕の場面に遅ればせながら到着する三博士を人々は心待ちにしている。降誕場面の模型はフランス語でクレーシュ、ドイツ語でクリッペと呼ばれ、18世紀に一般家庭に広まり、当初は主に富裕層の間で親しまれた。以降、東方の三博士はキリスト降誕の場面再現には不可欠な存在となり、その姿や衣装は地域ごとの特色を反映しながら受け継がれている。
アレクサンダー・レヒシュタイナー(Alexander Rechsteiner)は英語と政治を学び、現在はチューリヒにあるスイス国立博物館のマーケティング・コミュニケーション部門責任者。
仏語からの翻訳:横田巴都未、校正:大野瑠衣子
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