7つの疑問で読み解く、スイスがEUに加盟しない理由
スイスはヨーロッパの中心に位置し、欧州連合(EU)と密接な関係を築いてきたが、EUに加盟するつもりはない。その理由は何だろうか?
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スイスはEUに加盟する代わりに、ブリュッセルとの関係を規定する一連の協定を網の目のように張りめぐらせる道を選んだ。これまでのところ、この特殊なアプローチは功を奏している。少なくとも、それが一般的な見方だ。しかし、このやり方が今後もうまくいくとは限らない
その理由の一つとして、協定は更新されなければならないという事実がある。そのための交渉はすでに10年以上も続いている。成果のない協議を積み重ねたすえ、2021年には連邦政府(内閣)が交渉をいったん一方的に打ち切った。それが今になってようやく進展が見られ、スイスとEUの政府間で合意が得られた。
しかしスイスでは、協定締結には連邦議会の承認が必要であり、そしておそらくは国民投票も必要になる。これが問題になる可能性がある。大国のパワーゲームが、地政学的な意味でのスイスという存在の軽さを浮き彫りにしている今でさえ、国民の承認が得られるかどうかは、極めて流動的だ。
スイスは厄介な状況に追い込まれているにもかかわらず、かたくなにその立場に固執している。なぜだろうか?以下、最も重要な疑問に答えていく。
1. スイスとEUの関係が複雑なのはなぜ?
1990年代、オーストリアをはじめとする各国が、設立間もないEUへの加盟について議論していたころ、スイスでもその可能性が検討された。欧州経済領域(EEA)に加盟していれば、EUへの大きな一歩となっていただろう。しかし1992年、スイスの有権者は国民投票でこの選択肢を僅差で否決した。
チューリヒ大学のシュテファニー・ヴァルター教授(国際関係学・政治経済学)は「これが対EU関係の転換点となった。この問題が極度に政治化されたからだ。その後、政府がスイスのEU加盟を試みると、国民は投票を通じて断固として拒否した」と振り返る。
スイス政府には、二国間協定を目指す路線しか残されていなかった。それは「オーダーメイドの解決策」であると同時に、長期的に加盟することはないという明らかな意思表示でもあった。このアプローチを選んだことで、スイスはEU加盟国にはならないまま、自ら望む分野ではEUと密に連携することが可能となった。
最初の協定パッケージは、EUがまだ発足して間もない1994年にまとめられた。その10年後には、シェンゲン協定とダブリン規約によって移民・難民問題の扱いをほぼ統一した第2のパッケージ、すなわち「第2次二国間協定」が結ばれた。
ヴァルター氏は「スイスはEU加盟に近づけば近づくほど、加盟から遠ざかっていったのだから、ある意味で逆説的な話だ」と指摘する。スイスは、一方では欧州域内市場へのアクセスから利益を得るために、自国の規制をEUに寄せていったが、他方では、EU加盟という最後の一歩を踏み出す動機を失っていった。
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2. 対EU関係で直接民主制が果たす役割は?
直接民主制でなかったら、スイスは今ごろEUの一員になっていただろうか?「おそらくそうなっていただろう」と、ヴァルター氏は答える。「1992年のEEA加盟に関するレファレンダム(国民表決)が大きな役割を果たした。主要な政治関係者のほぼすべてに加え、市民団体や労働組合の大多数もEU加盟に賛成だった」
以来、政治的主権がスイスの欧州政策における基本原則の一つとみなされてきた。ジュネーブ大学のパスカル・シアリーニ教授(比較政治学)は、制度に関するある種の信念と、功利主義的な経済分析の両方が、スイスをEUの外にとどめる要因になってきたと指摘する。
シアリーニ氏は「多くの人が、スイスには連邦制や中立など、EU加盟とは相容れない特別な政治制度があると考えている」と説明する。ただし、そうした主張は、大部分が政治的につくられたものだと指摘する。「法や制度の観点から分析すれば、EUに加盟しながら連邦国家であり続け、活発な直接民主制を保ち、中立を維持することは可能だとわかる」
3. 中立性がEU加盟の障害?
シュテファニー・ヴァルター氏の考えでは、中立性はスイスのアイデンティティの一部であり、国民から幅広い支持を得ている。しかし同時に、中立性はEU加盟の法的な障害にはならないとも指摘する。スウェーデンとフィンランドは1995年にEUに加盟したが、両国が伝統的な軍事同盟不参加の方針を捨てたのは、ロシアがウクライナに侵攻したあとのことだ。フィンランドは2023年、スウェーデンは2024年に北大西洋条約機構(NATO)に加わった。一方、オーストリアとアイルランドは今も中立国でありながら、EUに加盟している。
ヴァルター氏によれば、スイスにおける最大の障害は法的な問題ではなく、政治的・文化的なものだ。他国と深く結びつくことは中立維持と同盟不参加の伝統に反するという受け止め方が、国民に広く浸透している。
もっとも、スイスではEUの相互援助条項がしばしば引き合いに出される。EU条約第42条第7項外部リンクはすべての加盟国に対し、ある加盟国が攻撃を受けた場合、援助と支援を行うことを義務づけている。批判的な立場の人々は、スイスの中立性を厳格に解釈した場合、この点が緊張を呼ぶ可能性があると主張する。その一方で、同条項には、各加盟国の安全保障・防衛政策の特殊性は損なわれない旨が明記されていると指摘する声もある。
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4. スイスが独自通貨と経済の独立にこだわる理由は?
ユーロの導入は欧州統合の成果の一つとみなされているが、そこに加わらなかったことを、スイスは後悔していない。スイスフランは国際通貨として需要が高く、主要通貨の大半に対して大きく値を上げてきた。
また、ヴァルター氏の見解では、国民の多くはブリュッセルの官僚主義を過剰とみなし、リベラルで分権的なスイスの伝統とは相容れないと考えて、不信感を抱いている。
この見方は、スイス経済界の大物たちの批判にも表れている。スウォッチ・グループ創業者の故ニコラス・ハイエック氏は、EUはスイスをただの財源としてしか見ていないと考えていた。ハイエック氏がドイツのヘルムート・コール元首相に、EUがスイスに関心を持つ理由を尋ねたところ、コール氏はこう答えたという。「あなたがたには非常に多くのお金があって、われわれにはそれを使うためのプロジェクトがあるからだ」
ハイエック氏は、スイスが欧州に深入りするのに慎重な理由として、政治文化も挙げていた。スイス人はいかなる場合も権力の過度な集中を信用せず、個人崇拝に魅力を感じず、公的資金を慎重に扱う能力のある実務的な指導者を好む、とハイエック氏は強調した。
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5. スイスの協定路線は、国外でどう受け止められている?
イギリスのように主権を重視する、あるいはEUに懐疑的な目を向ける陣営は、スイスを成功モデルとみなしている。政治的な独立性を保ちながら、欧州市場へのアクセスの確保にも成功した国と評価している。
一方、欧州統合政策を支持する陣営は、EUに加盟した場合に発生する義務のすべてを受け入れることはないまま、域内市場の恩恵を受けているとして、スイスを批判する。欧州改革センターのチャールズ・グラント所長はこう表現する。「EUはスイスモデルを本当に強く嫌っている」
6. 激動する地政学はスイスの独自路線にどう影響する?
パスカル・シアリーニ氏は、近年の地政学的な激動に直面して、「小国スイスの選べる行動には限界があり、今後の繁栄は周囲の出来事にますます左右されることになる」という意識が国民の間で強まったと話す。
また同氏は、ホワイトハウスでのドナルド・トランプ米大統領の振る舞いと、米欧関係の悪化が警鐘となったと述べ、米国がスイスからの輸出品に関税を課したことで、スイスにとって最も重要なパートナーであり販売市場でもあるのはEUだという事実が改めて認識された、とも付け加えた。スイスにとって、EUこそが信頼できるパートナーだという。
対するトランプ氏はスイスを見せしめに使っていると、シュテファニー・ヴァルター氏は指摘する。同じような措置をEUや中国にとった場合に比べれば、米国の払う代償が小さいからだ。
ウクライナにおける戦争もまた、大きなブロックから距離を置くスイスの行動力が落ちたことを示している。シアリーニ氏は、「EUやアメリカから圧力がかかれば、小国スイスは折れるほかに選択肢がない」と語る。
しかし、スイス国民のすべてがそう考えているわけではない。保守右派・国民党(SVP/UDC)は中立性を憲法に明記することを目指している。これが実現すれば、スイスはEUの経済制裁に加われなくなるだろう。ただし、世論調査によると、9月27日の国民投票では大差で否決される見込みだ。投票結果は、対EU関係をめぐる国民感情を測る指標にもなると考えられる。
7. スイスはいつかEUに加盟する?
現在のところ、EU加盟はスイスの政治議題に含まれておらず、国民の支持を得られる見込みもない。
目下の不確定要素は「第3次二国間協定」の行方だ。採択されるまでには、政治的にいくつものハードルを越えなければならず、ほぼ確実に国民投票による審判を仰ぐことにもなる。
国民が否決した場合、スイスとEUの関係に大きな影響が出ると、シアリーニ氏は指摘する。逆に可決された場合、スイスは今後の10年から20年にわたり「安心と安全を享受できる」だろう。
編集:Marc Leutenegger、独語からの翻訳:長谷川圭、校正:宇田薫
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