エボラワクチン開発に光明 新たな資金支援策が後押し
コンゴ民主共和国でエボラ出血熱の流行が続くなか、ワクチン開発が急速に進んでいる。新たな資金支援策が開発を後押しし、複数の候補が臨床試験や先行生産に進んでいるほか、既存ワクチンの活用も検討されている。
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コンゴ民主共和国(以下コンゴ)で流行するブンディブギョ株のエボラ出血熱には、承認されたワクチンや治療法がない。これを受け、科学界は緊急の対応を迫られている。ジュネーブに本部を置く世界保健機関(WHO)が、流行が前例のない規模に拡大する可能性があると警告するなか、研究者らは通常なら数年かかるワクチン開発を数週間に短縮し、初のヒト臨床試験を開始した。
感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)のフィロウイルス科疾病プログラムを率いるレイチェル・ボナヴィッツ氏は「ブンディブギョ株に有効なエボラワクチンの開発は、時間との競争だ」と話す。
コンゴ東部では感染が急速に広がり、すでに数千人の感染が報告されている。科学者や国際保健機関、ワクチンメーカーは、流行がさらに拡大する前に、異例のスピードでワクチン候補の開発、試験、生産を進めている。
ブンディブギョ株は、感染力と致死性ともに高い。承認されたワクチンや治療法があるザイール株とは異なり、ブンディブギョ株には現在、こうした対策がない。
WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長によると、8月12日時点で、コンゴでは4449人の感染が報告されている。死者数は2061人に上る一方、確立された対策がないなか、886人が回復した。現在は、複数の治療法やワクチンが試験段階にある。
エボラウイルスは感染力が極めて強く、体液を介して感染し、高熱や体内外の出血、臓器不全を引き起こす。保健当局にとって、流行の封じ込めは一国だけでなく、地域全体で取り組むべき課題だ。感染が続けば、国境を越えて広がるリスクも高まる。
ワクチン開発供給をめぐる課題
新たな感染症の脅威に備えたワクチン開発には、根本的な課題がある。感染症の大流行はまれで予測が難しく、短期間で収束することも多いため、製薬会社にとっては投資に見合う経済的なメリットが乏しい。
CEPIのボナヴィッツ氏はスイスインフォに対し、「大流行はまれで散発的に起こるため、ワクチンの開発元には安定した市場がない。需要が不確実で、購入を約束する顧客もなく、経済的な利益も限られているため、開発元に大きなコストが生じる可能性がある」と述べた。
同氏は、対策を講じなければ、新たな流行が発生するたびに、使えるワクチンがないという状況になりかねないと警告する。オスロに本部を置く非営利団体(NPO)のCEPIとジュネーブに本部を置くGaviワクチンアライアンス(以下Gavi)は、こうした市場の課題に対処するため、6月にいわゆる研究開発に先行して資金を投入する「プッシュ型」と、将来の需要を見込んで生産や供給を後押しする「プル型」を組み合わせた革新的な資金調達策を導入した。
CEPIは、ワクチンの研究開発を対象としたプッシュ型の資金支援を行っている。同機関はブンディブギョ株に対するワクチン候補の開発を進めるため、これまでに6000万ドル(約96億円)以上を投じてきた。個人投資家や慈善団体、スイスを含む各国からの支援を受け、2022~2026年には2270万ドル(約36億3200万円)を拠出した。
「初期段階での資金提供は、開発元が負う科学的・技術的リスクを軽減し、ワクチン候補を研究室での研究から臨床試験へと進めるために不可欠だ」(ボナヴィッツ氏)
同機関はワクチン候補を1種類に絞らず、複数の候補を同時に支援している。これにより、少なくとも1種類が安全で有効だと確認され、流行が悪化した場合に迅速に導入できる可能性が高まる。
一方Gaviは、有望な成果が得られた後も残る商業的なリスクに対処するため、資金を拠出している。こうしたリスクがワクチン開発を遅らせることがあるためだ。これは、将来の需要を見込んで生産や供給を後押しするプル型の資金支援にあたる。初期対応基金(First Response Fund)を通じて、最終的な成否が判明する前にメーカーが生産能力に投資できるよう、4000万ドル(約64億円)の拠出を承認した。
これにより、臨床試験で有望な結果が得られた場合に、速やかにワクチンの生産を開始できる体制を整えることを目指している。
同機関の世界健康安全保障部門長エマヌエーレ・カポビアンコ氏は「この緊急の資金提供は、迅速な対応、生産能力、アクセスの確保を目的としている」と説明する。
臨床試験と生産の開始
この戦略は、すでに成果を上げている。ブンディブギョ株を標的とする初のワクチン候補「ChAdOx1 BDBV」は、7月24日にイギリスで第1相臨床試験に入った。開発元は、英オックスフォード大学とインド製薬大手セラム・インスティテュート・オブ・インディア(SII)。同大学と英製薬大手アストラゼネカが開発した新型コロナウイルス感染症ワクチンと同じ、ウイルスベクター技術を基盤としている。
同大学の研究者らは、新型コロナウイルス感染症ワクチンの開発時よりもはるかに短いわずか8週間で、この候補を開発した。実験用ワクチンを最初に接種したのは、37歳のイギリス人エド・ハント氏。コンゴで多数の死者が出ているとの報道を見て、試験への参加を決めたという。試験には18~55歳の健康なボランティア50人が参加する予定で、ワクチンの安全性と忍容性、免疫反応を引き起こす能力を評価する。
2つ目のワクチン候補は米製薬大手モデルナの「mRNA-1469ワクチン」で、8月4日にカナダでの第1相臨床試験に入った。新型コロナウイルス感染症のパンデミックで広く知られるようになったmRNAプラットフォームを採用している。試験には、健康なボランティア約80人が参加する予定だ。CEPIが資金を提供するこの臨床試験で、最初にワクチン候補を接種するのはスーザン・マレー氏だという。
研究者らは、良好な結果が得られれば、これらの初期段階の試験を速やかに第2、3相へと進めたい考えだ。参加者は最長1年間にわたって経過観察を受けるが、科学者らはそれよりも早い段階で、免疫反応や副反応に関する暫定的なデータを得られると見込んでいる。
同時に、ワクチンメーカーはワクチン候補の有効性が確認される前から生産を開始している。SIIは、オックスフォード大学のワクチン候補をわずか2週間で約62万回分生産し、在庫として確保した。約4000回分が、第1相臨床試験に割り当てられている。
CEPIは、その生産費用を財務上のリスクを負って前払いした。ワクチンの有効性が確認された場合に、大規模な臨床試験や緊急導入に必要な供給を直ちに確保できるようにするためだ。
「接種分をあらかじめ生産しておけば、ワクチン候補を次の段階へと進められると判断した時点で迅速に試験を開始でき、時間を無駄にせずに済む」とボナヴィッツ氏は話す。SIIがすでに確保している在庫にも触れ、「流行中は時間との闘いだ」と付け加えた。
一方WHOは、既存のワクチンを活用できる可能性も探っている。8月には、もともとザイール株を対象に開発された唯一の承認済みエボラワクチン「エルベボ」を、現在の流行株を対象とする第3相臨床試験に組み入れるよう勧告した。エルベボが現在の流行株にも一定の効果を持つ可能性を示した、2件の動物実験に基づく判断だ。
編集:Virginie Mangin/ts、英語からの翻訳:本田未喜、校正:宇田薫
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