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欧州は新型コロナ禍から何を学んだか

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Ann-Sophie De Steur

新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)宣言から5年が経った。欧州公共メディアで作る共同プラットフォーム「A European Perspective外部リンク」は最新のレポートで、各国の公共メディア記者がパンデミックの教訓を掘り下げている。

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信頼できる情報で欧州の公共メディアをつなぐ編集協力ネットワーク「A European Perspective」には、swissinfo.chも参加している A European Perspective

新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)宣言から5年が経った。欧州公共メディアで作る共同プラットフォーム「A European Perspective」は最新のレポートで、各国の公共メディア記者がパンデミックの教訓を掘り下げている。

ベルガモ市、そしてベルガモ県で大量の死者が出たため、軍隊が出動した。この地域では1カ月で6000人が死亡した。通常の2000人から見れば驚異的な増加だ。5年経った今でも、今もその悲しみが鮮明に残るとドイツの公共放送Arte外部リンクは報じている。

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>>パンデミック発生から5年後の欧州公共メディアによる報道を、インタラクティブ・マップでご覧ください。

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それからまもなく、ほとんどの欧州諸国で同様の事態が起きた。パンデミックが公式に宣言されてから1カ月後、病院はパンク状態に陥り、各国政府は緊急事態への対応に追われた。

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欧州ではスペインをはじめとする新たなパンデミックの震源地が現れ始めた。スペインでは2020年4月2日までに感染者10万人、死者は1万人を記録。1日で950人が死亡した日もあった。

スペイン公衆衛生・健康の公平性総局(Salud Pública y Equidad en Salud)のペドロ・グロン局長はRTVE外部リンクの取材に対し「私たちは丸腰で襲われた」と振り返る。今にして思えば、第1波の影響は軽減できたかもしれないが「誰も止めることはできなかった」という。

2020年4月3日、マドリードのIfemaコンベンション&エキシビションセンターにあるコロナ用仮設病院の様子
2020年4月3日、マドリードのIfemaコンベンション&エキシビションセンターにあるコロナ用仮設病院の様子 Afp Or Licensors

厳しい対策から得た教訓

「抗原」、「PCR検査」、「mRNA」、「集団免疫」、「外出禁止令」といったパンデミック関連の語彙は、人々の会話に当たり前のように混ざるようになった。

一方、度重なる都市封鎖(ロックダウン)、感染追跡、隔離措置は疲弊を深め、抗議の火種と化した。

ベルギーでは2021年、感染予防措置に反対するデモが暴徒化した(RTBF報道外部リンク)。ベルギーのフランク・ヴァンデンブロッケ保健相は、コロナの第1波はーーその後すぐに第2波やウイルス変異型の波が押し寄せるがーー、将来のための教訓を得るチャンスでもあったと振り返る。

「支援サービスや心理・医療センターなどを含む学校システムの全面閉鎖は行き過ぎだった。支援サービス、心理・医療センターなどを含む学校システムの全面閉鎖はやりすぎだった。政府が最初に行った支援システム全体の閉鎖は、おそらく正しい戦略ではなかったが、私たちはそこから学んだ」

2021年11月21日、ブリュッセルでコロナ感染防止措置に反対するデモ隊が機動隊と衝突
2021年11月21日、ブリュッセルでコロナ感染防止措置に反対するデモ隊が機動隊と衝突 Afp Or Licensors

あらゆる措置の中でも学校閉鎖は最も永続的な影響を及ぼした。その影響は5年経った今でも検証が続く。

チェコの例を見てみよう。パンデミックによって在宅授業が義務化されたとき、突然の対人接触の喪失とそれに続く孤立が、子どもたちの精神衛生上の問題を急増させた。

その厄介な兆候の1つが、特に10代の少女たちの間で自傷行為が増加したことだ(CT報道外部リンク)。多くの子どもたちが心の支えとつながりをソーシャルメディアに求めた。プラハにあるチメルニツェ小学校のヴァーツラフ・ハヴェルカ校長は、多くの生徒がこの時期、オンライン・プラットフォームへの依存を強めたと指摘する。

2021年1月5日、ドイツ東部ハレ/ザーレで在宅授業を受ける女子学生。ドイツの学校と必須でない店舗は12月末から閉鎖され、1月にはマスク着用と在宅勤務の規則が強化された
2021年1月5日、ドイツ東部ハレ/ザーレで在宅授業を受ける女子学生。ドイツの学校と必須でない店舗は12月末から閉鎖され、1月にはマスク着用と在宅勤務の規則が強化された Afp Or Licensors

ポルトガルでは、学生たちがロックダウン中に味わった困難について語った。18歳のルーカスさんは、集中力に影響が出たと振り返る。「オンラインクラスでは、授業中に他のことをするのは簡単だった。誰の監視の目も届かないから。そして10年生になって、実際に対面授業を受けてみて、自分には基本的なことが欠けていることに気づいた」

パンデミックが起きたとき8歳だったテレサさんは、こう振り返る。「パンデミックは私の子ども時代に影響を与えたと思う。家で過ごしてばかりいたから」(RTP報道外部リンク

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長期にわたる孤立が若い世代に傷跡を残す一方、介護施設にいる高齢者はコロナ禍の猛威が最初に直撃した人たちだった。ブリュッセル地方にある高齢者施設の施設長、スティーブ・ドイエン氏はRTBF外部リンクに「緩和ケア施設をコロナ病棟に変えた」と振り返る。一晩に何人もの死者が出ることもあり、「夜勤の看護師たちは途方に暮れて、助けを求めた。葬儀屋でさえ、完全にパンク状態だった」。

クリスティ・モレール元ワロン地域保健相の元には毎日、死者数を示す報告書が届いた。「一番つらかったのは統計に示された死者数だった」

目に見える変化と残る疑念

テレワークの習慣の普及、メンタルヘルスに対する意識の高まり、国民全体でのワクチン接種キャンペーン、あるいは新型コロナ後遺症ーーパンデミックがもたらしたこれらの変化が欧州中の社会でまだ目に見える形で残っているとすれば、市民や組織がこの大流行からどれだけのことを学んだのか。その点では専門家の意見は分かれる。

マドリード・コンプルテンセ大学の社会学者で、福祉国家の研究を専門とするイネス・カルサダ氏はRTVE外部リンクの取材に対し、パンデミックは「国家の必要性」に対する警鐘だったと指摘する。「人々は、この制度が自分たちをどう守ることができるのかを、非常に直接的に理解した」

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アリカンテ大学のダニエル・ラ・パーラ教授(健康社会学)は、「健康はすべての中心的存在となり、純粋な資本主義社会では、経済活動を停止させるほどだった」と指摘する。また、危機はそれ以来、医療サービスに対する「需要の増加」につながった可能性が高いと付け加えた。

2021年1月8日、英国が3度目の都市封鎖措置に入るなか、ロンドン中心部チャイナタウンのバス停に掲げられた「家にいて、命を守ろう」と名打つNHS(国民保健サービス)の看板
2021年1月8日、英国が3度目の都市封鎖措置に入るなか、ロンドン中心部チャイナタウンのバス停に掲げられた「家にいて、命を守ろう」と名打つNHS(国民保健サービス)の看板 Afp Or Licensors

パンデミックはまた、欧州の医療システムの脆弱性を露呈させた。

しかし、5年経ってもなお、各国政府はその脆弱性にほとんど対処できていないという意見もある。ラトビアの感染学者ウガ・ドゥンピス氏は、病院は危機以降ほとんど変わっていないと指摘する。「欧米の病院はようやく(感染症治療のための)1人用病棟が建設されるようになったが、われわれはいまだに1つの病室に4~5人の患者がいるのが普通だと考えている」とLSM外部リンクに語った。「インフルエンザとその他の感染症の両方を考慮すると、個室インフラも必要であることを理解しなければならない」

「この5年間のパンデミック後の最大のリスクは、実は忘却だ」。ポルトガル国立衛生研究所のフェルナンド・アルメイダ所長はRTP外部リンクにそう語る。「そして私たちは忘れてはならない。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、すでに流通している単なる呼吸器系ウイルスとして扱われているが、これは変わる可能性がある。世界の関心はすでに、パンデミックの可能性を秘めた新たな脅威である高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)に向けられている」

パンデミック条約への最後の一押し

AFP通信によれば、2025年1月、WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は、次のパンデミックに対する備えは万全かと問われ、「イエスでもありノーでもある」と答えた。

同じような弱点や脆弱性の多くが残っていることを認める一方で、「世界はまた、パンデミックが私たちに教えてくれた痛みを伴う教訓の多くを学び、防御を強化するための重要な措置を講じた」と述べた。

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「2009年の新型インフルエンザ(H1N1)のパンデミックのおかげで改善されたことはたくさんあるが、コロナも多くを改善した」とWHOの疫病・パンデミック対策・予防責任者であるマリア・ヴァン・ケルクホフ氏は述べた。しかし「世界は新たな感染症の大流行やパンデミックに備える準備ができていないと思う」とも警告する。

2021年1月20日、ドゥプニツァの病院のコロナ病棟で患者を診察する医師と看護師。感染症のスペシャリストであるマリア・ボゴエワ医師は、コロナウイルスのパンデミックが発生したとき、ブルガリア西部の小さな地方病院に勤務しており退職目前だったが、パンク状態の医療システムの中でウイルスと闘う年配の医師たちの仲間に加わった
2021年1月20日、ドゥプニツァの病院のコロナ病棟で患者を診察する医師と看護師。感染症のスペシャリストであるマリア・ボゴエワ医師は、コロナウイルスのパンデミックが発生したとき、ブルガリア西部の小さな地方病院に勤務しており退職目前だったが、パンク状態の医療システムの中でウイルスと闘う年配の医師たちの仲間に加わった Afp Or Licensors

**「A European Perspective」は、欧州放送連合(EBU、本部・ジュネーブ)が共同設立した、欧州のパブリック・サービス・メディアをつなぐ編集協力ネットワークです。詳しくはこちら外部リンクをご覧ください。

コンテンツ提供:AFP(フランス)、BR(ドイツ)、CT(チェコ)、Franceinfo(フランス)、ERR(エストニア)、ERT(ギリシャ)、LSM(ラトビア)、LRT(リトアニア)、RTBF(ベルギー)、RTE(アイルランド)、RTP(ポルトガル)、RTS(スイス)、RTVE(スペイン)、RÚV(アイスランド)、Suspilne(ウクライナ)、Swedish Radio(スウェーデン)

文:Sara Badilini

地図:Luis Garcia Fuster, Martin Sterba

その他の調査:Michelle Hough

副編集長:Kate de Pury (EBU)

swissinfo.chの翻訳と編集:Anand Chandrasekhar

プロジェクト管理:Alexiane Lerouge (EBU)

イラストレーション:Ann-Sophie De Steur

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