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「抗議運動が続く限り、クーデターは成就したことにならない」

ヤンゴンで軍事クーデターに抗議する人々。2021年3月25日撮影 Copyright 2021 The Associated Press. All Rights Reserved.

国連事務総長特使としてミャンマーを担当するクリスティン・シュラーナー・ブルゲナー氏は、ミャンマーでクーデターを起こした国軍に、交渉を通じて分別をもたらしたいと語る。そうしなければ、人道的な危機や内戦の恐れが生じると危惧する。

このコンテンツは 2021/04/01 08:30
Samuel Schlaefli

クリスティン・シュラーナー・ブルゲナー国連特使は現在、在宅勤務中だ。ベルンにいながらにして、他の人々と共に歴史の1ページを刻もうとしている。ミン・アウン・フライン総司令官が2月1日に予期せぬクーデターで権力を奪って以来、昼間は抗議を繰り返す人々が治安部隊に殺され、夜には何十人もの活動家が告訴もなしに逮捕されている。シュラーナー・ブルゲナー氏はそんな状況を何とか緩和をさせようと懸命だ。

クリスティン・シュラーナー・ブルゲナー氏 Keystone / Anthony Anex

今は時差症候群に悩まされていることもあって、1日19時間働いていると言う。現地にいる2人のスタッフのほか、抗議を続ける人々、大臣、大使、非政府組織(NGO)などと話をする時間をできるだけたくさん取れるようにと、朝早く起床。そして、国連安全保障理事会での報告やニューヨークでの総会の準備、各国の外相とのビデオ会議などに追われ、夜更けまで仕事は続く。だが、愚痴が出ることはない。インタビューはWeb会議サービスZoomを利用して行った。

swissinfo.ch:このインタビューの直前、民主化を求めてミャンマー全土に広がった抗議運動のキーパーソンらと3時間に及ぶビデオ会議を行ったということだが、現地の人々からはどんな話を聞いたのか。

クリスティン・シュラーナー・ブルゲナー:今日は皆、ひどく不満気だった。政府代表者や国連のステートメントも声明ももう十分見聞したから、そろそろ何か実行に移して欲しいと言われた。

皆、国際的な軍事介入によってビルマ国軍の人間性にもとる大犯罪を食い止めて欲しいと願っているのだ。私の辛い任務は、そのような介入が行われることはないと彼らに説明することだ。「保護する責任」を基礎とする国連決議を行うには、国連安全保障理事会の決定が必要だ。だが、それは中国やロシアが拒否権を行使して阻止している。それなら個々の国家が独自の軍を派遣すればよいと現地の人々は言うが、そんなことはもちろん不可能だ。それでも今は、少なくともミャンマーの現状を容認する国は無くなった。

swissinfo.ch:しかし、ミャンマー国軍の司令官らはそんなことはまったく意に介さないのでは?

ブルゲナー:軍は事実、2011年以前の時代に戻れると思っている。だが、私にしてみれば、それは幻想に過ぎない。

私たちは2021年という時代に生きており、国民はもう言いいなりにはならない。10年間の民主化をなかったことにはできないのだ。今、非常に多くの若者が抗議デモに参加しているが、彼らは自由な暮らししか知らない。今の20歳や25歳の若者にとっては、自由に発言したり、政府や軍を批判する記事が掲載されたりするのはまったく普通のことなのだ。この数年間、後退はあったものの、ビルマの人々が今日、大っぴらに批判していることに、私は何度も驚かされた。いったんそんな風潮の中で成長した人々は、もう二度と昔に戻りたいとは思わない。軍はそのことを完全に見くびっている。

そして、今回デモに参加しているのは、1988年に発生した抗議のときのように僧「だけ」ではない。抵抗はすべての層、民族、宗教に浸透しており、ほとんどの民族の武装グループもこれを支持している。このことは重要ではあるが、同時にこの紛争が内紛へと拡大する恐れをはらんでもいる。

ミャンマーのマンダレーで行われた抗議運動の様子。2021年3月25日撮影 Keystone / Stringer

swissinfo.ch:抗議運動が始まってまもなく2カ月になるが、国民の困窮はどれほどなのか。

ブルゲナー:もはや人道的危機もそれほど遠くない。ほとんどの人はもう下ろせるお金がなく、食糧も不足する一方だ。医療機関は完全に崩壊しており、新型コロナ感染の予防などまったく問題外だ。

さらに忘れてならないのは、ミャンマーではクーデター前から少数民族との紛争が続いており、およそ30万人の国内避難民が出ていることだ。この2年だけでも、ラカイン州のアラカン軍と国軍との戦いで新たに6万人が避難している。

swissinfo.ch:毎日約2千通のメッセージをミャンマーの人々から受け取ると最近のインタビューで話していたが、どんなことが書かれているのか?

ブルゲナー:よく送られてくるのは抗議デモの動画だ。中には、見ていて気分が悪くなるものもある。例えば、有志のヘルパーを警官が救急車から引きずり下ろしている動画だ。警官たちはその後、路上で、彼らの頭を銃床で死ぬまで殴り続けた。また、デモに参加している丸腰の人々の頭を警官が間近から打ち抜く動画も見た。

最近、見も知らぬ女性からメッセージを受け取ったが、そこには自由のためなら死んでもいいと書かれていた。大事なことは、自分を含め、何よりも子供たちが二度と独裁制の中で生きずに済むことだ、と。

2021年3月23日、抗議活動中にビルマの治安部隊に射殺された男性 Copyright 2021 The Associated Press. All Rights Reserved.

swissinfo.ch:ミャンマーの状況はまったく八方塞がりのようだ。安保理では国際的な介入への合意が得られず、国軍は権力を保持するためなら何でもしそうだ。このような状況でどのように仲介するつもりか。

ブルゲナー:合法的な政府を誰が立てるのかという問題に関して言えば、私には妥協の余地はない。それは選ばれた代表者でなければならない。だが、そのような人々は逮捕されているか、潜伏しているか、現在タイに逃れているかのどれかだ。

しかし、軍に分別をもたらす方法については考えがある。大切なことは、アジアではたいていの場合そうであるように、全員が面目を失わないようにすることだ。そして、そのような仲介を行うためには、私が直接責任者と話し合わなければならない。

swissinfo.ch:現地に2人のスタッフがいるが、あなたは数週間前から自らミャンマーへ赴く方法を探している。非常に難しいことだと思うが、実行できない理由は何か。

ブルゲナー:私が現地に行くことで、軍政府をさらに正当化してしまうと恐れる、批判的な意見が安保理の中にあるからだ。

swissinfo.ch:特使として訪問するのに、安保理の承認はそもそも必要なのか。

ブルゲナー:必要ない。新型コロナのパンデミックが発生していなければ、とっくに現地に赴いている。東南アジアのほぼすべての国が、現在2週間の自主隔離を義務付けている。それに、ヤンゴンの空港は閉鎖されており、外国人が利用できるのは救難機くらいで、国連は2週間に1度、クアラルンプールから飛ぶことしかできない。

2018年6月17日、ミャンマー西部の難民キャンプを訪問したクリスティン・シュラーナー・ブルゲナー氏 Keystone / Nyunt Win

swissinfo.ch:現地へ行くことがなぜそれほど大事なのか。

ブルゲナー:ビデオチャットでは話せず、2人だけになって頭を突き合わせて話さなければならない事柄があるからだ。軍との電話は必ず録音される。そのため、一部分だけ切り取って、別のコンテクストで悪用される恐れがある。だが、個人的に会って話し合うと、交渉に出向く途上やその直後など、絶対に外には漏らしてはならないような事柄を小声でささやいてくれる瞬間が必ずある。

swissinfo.ch:では、司令官たちの面目を保てる解決策とはどんなものか。

ブルゲナー:詳しいことは言えないが、適切な人々と話し合うことが大事だ。軍は今後も存在していく。問題はただ、誰が軍を率いるかということだ。今の時点でも解決策はある。私はそう確信している。また軍内部にも、このままでは軍が四面楚歌になると徐々に気付き始めた人々がいる。

写真を掲げアウンサンスーチー氏の釈放を要求するデモ隊 Keystone

swissinfo.ch:あなたはこの3年間で数十回ミャンマーを訪問しており、長年の友好関係にあるアウンサンスーチー氏とも、軍の代表とも現地で面会している。このクーデターはあなたにとってどの程度意外だったのか。

ブルゲナー:私は、クーデターが起こるかもしれないと、安保理に対しても繰り返し警告していた。ほとんどの人は、何を大げさな、と思っていたようだ。国際社会は軍の凶行をアウンサンスーチー氏の責任だと批判したが、それはフェアではない。あの状況では何もなし得なかった。軍が常に拒否権を行使し、ほぼすべての決定を凍結できるような状況で、いったいどんな風に政治を行えると言うのか。同氏はいつしかすべての人に背を向け、さまざまな抵抗を受けながらも、自分を犠牲にして守ろうとした国の発展に専念するようになった。そして今また拘束の身となった。何とも絶望的だ…。

swissinfo.ch:アウンサンスーチー氏の状況について何か分かっているのか。

ブルゲナー:分からない。クーデター以降、連絡が取れない。だが、弁護士とは連絡を取っている。つい最近のビデオでは、健康でしっかりしているように見えたということだ。そう聞いて、少し安心した。アウンサンスーチー氏もまだ諦めていないという証しだ。

(独語からの翻訳・小山千早)

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