スイスの視点を10言語で

「ウィルソン・エドワーズを探しています」 偽スイス人学者に大使館が反撃

Chinese und Bildschirm
Copyright 2021 The Associated Press. All Rights Reserved.

スイスの生物学者を名乗る人物が世界保健機関(WHO)と米国をやり玉にあげ、それを中国メディアが大々的に報じた。だがこの学者は実在しない。

WHOは中国で新型コロナウイルスの発生源を特定するよう米国から圧力をかけられている。だが決定的な証拠は今のところ見つかっておらず、ウイルスが武漢ウイルス研究所から流出したとする論文は科学界で批判されている。

これは中国政府が主張するストーリーで、あらゆるメディアで広まっている。論文は確かに議論が分かれているものが多いが、中国はWHOの見解が政治的に操られていると決めつけ、その背後で米国が糸を引いていると批判する。

こうした中国の見方に味方する人物が登場した。ウィルソン・エドワーズと名乗る生物学者で、WHOに務める知人が調査結果を改ざんするよう米国に圧力をかけられている、とフェイスブックに投稿した。フェイスブックのプロフィールによると、この生物学者はベルン出身のスイス人。WHOに情報源があり、米国が「中国への攻撃」に「執着」していると断言する。この投稿は過去数日間、多くの中国メディアに報じられ、ソーシャルメディアで拡散されている。

だがウィルソン・エドワーズは実在せず、投稿は偽アカウントのものだ。北京のスイス大使館は10日、ツイッターで声明を発表。①ウィルソン・エドワーズという名のスイス人は実在しない②この名前で書かれた生物学の学術出版物も存在しない③このフェイスブックアカウントは数日前に作られたばかりで、「友達」は3人だけ、投稿はこの1件だけであると指摘した。

そのうえで、ツイートでは「ウィルソン・エドワーズを探しています」「もしあなたが実在するなら、お会いしたいものです」と冗談めかした。

外部リンクへ移動

スイス大使館のツイートにはたくさんのコメントが付き、リツイートされた。フォロワーが1100人強の同アカウントからすれば「バズった」と言える規模だ。背景には、ツイッターやフェイスブックが中国では原則閲覧できず、中国市場は中国企業のプラットフォームが独占していることもある。だが大使館ツイートは、いささかセンシティブな問題を取り上げてしまったようだ。

エドワーズなる生物学者が投稿を英語で書いたのには2つの狙いがありそうだ。1つは世界中の人々に読んでもらうこと。そして同時に、中国国内の人々に対しては、WHOの背後にあるものが海外でも批判的にみられているとほのめかすとができる(その点、中立国であるスイスの科学者を名乗っているのもうなずける)。既に疑惑が渦巻いているところで、仮説をそれらしくみせるのは簡単だ。

ちなみに偽アカウントの名前について少し調べてみると、面白いことがわかる。エドワード・O・ウィルソンというよく似た名前の生物学者は実在し、アリ学の専門家だ。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部