政府閉鎖、関税賄賂、COP30…スイスメディアが報じた米国のニュース
スイスの主要メディアが11月6~12日に報じたアメリカ関連ニュースから①米政府機関が再開②スイス企業トップ、トランプ氏に直談判③トランプ不在のCOP30、の3本を要約して紹介します。
≫「スイスメディアが報じた日本のニュース」ニュースレター購読はこちら。直近の配信記事一覧はこちら。
米政府機関が再開
ドナルド・トランプ大統領は「退役軍人の日」の11日、アーリントン国立墓地で演説し「私たちが国を再び開いた」と語りました。「決して閉鎖されるべきではなかった」
下院議会は12日、政府機関の再開と航空旅行および食料補助金の安定化に向け採決。トランプ氏は42日間続いた予算停滞の終焉が共和党にとって「非常に大きな勝利」を意味すると強調しました。スイス・フランス語圏のトリビューン・ド・ジュネーブ紙は、米民主党内では、上院で閉鎖解除に賛成票を投じた党員に対する怒りが高まっている、と伝えています。
ドイツ語圏のターゲス・アンツァイガーは、「民主党は再びドナルド・トランプに屈服した。大きな代償を払うことになるだろう」という見出しの社説を掲載しました。「反対派8人(民主党7人と無所属1人)がトランプ氏の頑固さに屈した。まさに、民主党がトランプ氏による経済混乱から利益を得られたはずのタイミングで」
政治学者のクラウディア・ブリュヴィラー氏はドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)に対し、民主党は「賭けに出て負けた」と語りました。プリュヴィラー氏は、民主党はトランプ政権が政府閉鎖を可能な限り短期間で終わらせたいと考えていたと解説。どの政府も政府閉鎖を回避したい、あるいは仮にそうなったとしても可能な限り短期間で終わらせたいと考えている一方、「トランプ氏の場合はそうではなかった」とブリュヴィラー氏。「今回の政府閉鎖は、トランプ氏がどこまで踏み込む覚悟があるのかを示した」と分析しました。
ターゲス・アンツァイガーは、トランプ氏が就任以来初めて揺さぶられていると指摘。民主党は「トランプ氏の経済混乱」という問題を抱えているという印象が高まった、と報じました。「この勢いは失速した」と続け、「8人の上院議員が立場を明確にするよりも大統領の意向に屈したため、再び大統領の思い通りに事が運ぶだろう。短期的にはこれはアメリカにとってプラスになるだろうが、長期的には民主党を含む多くの人々にとって高くつくことになるだろう」と書きました。(出典:トリビューン・ド・ジュネーブ外部リンク/フランス語、SRF外部リンク、ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)
スイス企業トップ、トランプ氏に直談判
米ブルームバーグ通信が10日、アメリカがスイスに課す相互関税について両国の交渉が合意に近づいていると報じました。合意には。スイスからの輸入品に対する現行39%の関税を15%に引き下げることが含まれていると言います。スイス経済省は「ノーコメント」と述べ、交渉は継続中であるとの立場を示しています。
スイスの大手企業6社のCEOが先週ホワイトハウスを訪れ、二国間貿易協定が両国に大きな利益をもたらすとトランプ氏の説得を試みた、と報じられています。ブルームバーグはこの会合が合意の「起爆剤」になったと位置付けていますが、フランス語圏のスイス公共放送(RTS)は、ビジネスリーダーたちが「たとえ汚職に手を染め、スイスの利益を危険にさらすことになるとしても」外交官に転身する権利があるのか、と疑問を呈しました。
RTSは、スイスの大手企業6社(MSC、ロレックス、マーキュリア、パートナーズ・グループ、MKS、リシュモン)のトップがトランプ大統領に大規模投資を提案し、金のロレックスの時計や推定4万フラン(780万円)相当の「刻印入りの金地金」など、贈り物を贈ったとみられると伝えています。
RTSは、「これらの民間企業のアプローチは、特に汚職疑惑といった疑問や批判を引き起こしている」とする一方、スイス法の下では汚職問題は複雑であると説明します。。例えば、企業がトランプ氏にこれらの贈り物をしたのは、トランプ氏に恩恵を与えてもらうこと自体が目的だったと証明する必要があります。RTSは「現状と今回の件に関する我々の知識を踏まえると、結論を導き出すことは不可能だ」と結論づけました。
政治学者ルドヴィク・イベルク氏は、RTSの取材に「この使節団の演出は、まるで聖書の記述を彷彿とさせる。東方の三博士がイエズスに黄金、乳香、没薬を捧げるというものだ。ここには非常に明確な階層的な権力バランスが見られます」と語りました。
たとえ短期的な結果がプラスになる可能性があったとしても、イベルク氏は長期的な側面を懸念しています。「こうしたカードを切ることは、民主主義の根本的な問題を提起する。6人の代表はいずれも外交代表権を持っておらず、選挙で選ばれた権限も持っていない。大統領執務室で話し合われた譲歩は、残りの交渉に幽霊のようにつきまとうだろう。ギー・パルムラン(経済相)やカリン・ケラー・ズッター(財務相)がこれらの譲歩を撤回するのは困難だろう」(出典:RTS外部リンク/フランス語)
トランプ不在のCOP30
11月10日~11月21日にブラジル・ベレンで開催中の国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)には、190カ国以上が参加しています。参加者は、気候変動対策をいかに活性化させ、石炭、石油、ガスからの排出量をいかに削減するかについて議論したいと考えている。SRFは12日、「しかし、重要な役割を担う人物が一人欠けている。ドナルド・トランプ米大統領だ」と報じました。
大衆紙ブリックドイツ語版は、「トランプ大統領はブラジルで開催されるCOP30の巨大な欠席者となっている」と書きました。「それでいて、ベレンでの交渉には大きな影響を与える可能性が高い。米国のパリ協定離脱は、国際社会を困難な立場に立たせている。そのため、気候保護活動家たちはトランプ大統領に明確な反対のシグナルを送ることを期待している」
ブリックは他方で、気候変動対策に関してアメリカは「分裂国家」だと続けます。トランプ氏への反対意思を示すため、アメリカの州や地方自治体から100人以上の代表者がCOP30に参加しています。
カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、同州がグリーンテクノロジーの分野でいかに先導的であるかを示すためにCOP30に参加したと述べています。カリフォルニア州は、国内外24州・地域から成る「野心的な気候変動目標」に取り組む連合の一員である。
ニューサム知事は米大統領に怯むべきではない、と人々に呼びかけました。「トランプ氏は一時的な存在だ。世界中の人々がそのことを忘れないでほしい」――そんなニューサム氏の言葉を、スイスのニュースポータルWatsonが引用しています。
SRFは、ニューサム氏とその同僚らが米国の公式代表の不足を補うことはできないと結論付けましたが、「気候変動に関して多くの州がトランプ政権とは異なる考え方をしている、という明確なシグナルを発している」と分析しました。(出典:SRF外部リンク、ブリック外部リンク、Watson外部リンク/ドイツ語)
次回の「スイスのメディアが報じた米国のニュース」日本語版は11月20日に配信予定です。
毎週水曜発行の「スイスのメディアが報じた日本のニュース」は、こちら☟のニュースレターで購読できます。
おすすめの記事
「スイスのメディアが報じた日本のニュース」ニュースレター登録
英語からのGoogle翻訳:ムートゥ朋子
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。