武田薬品、スイスの製薬大手ナイコメッドを買収
武田薬品工業は5月19日、スイスの製薬大手ナイコメッド ( Nycomed ) を98億ユーロ ( 約1兆1400億円 ) で買収したと発表した。
これで武田薬品工業は世界の医薬品売上高で13位から10位に浮上する。また、このM&A ( 合弁・買収 ) は両社にとって理想の組み合わせを形成するという。
お互いの相乗効果
「武田とナイコメッドは理想の組み合わせだ。お互い相乗効果を発揮して市場拡大戦略を推し進めて行きたい」
と、広報担当の永田央子 ( ひさこ) 氏は話した。ナイコメッド側も「取締役会において全会一致て承認された」と、この「組み合わせ」を高く評価した。
ナイコメッドは欧州やロシア、旧ソ連諸国、ブラジル、メキシコ、中国など新興国の市場に強く、今回傘下に入れることで武田薬品はこうした市場での販売力を伸ばすことができる。
「武田は市場を日本、北米、欧州、その他の4地域に分けているが、後者2つの地域をナイコメッドが補充してくれる。そのお蔭で世界の4地域の社員数バランスも大体同じになるだろう」
医薬品そのものでも、ナイコメッドは後発医薬品 (ジェネリック薬) や免疫炎症性疾患分野の研究・開発に強い。中でも「ファーストクラスの薬」と言われる慢性閉塞性肺疾患 ( COPD ) の治療薬「ダクサスDaxas ( 一般名・欧州製品名 ) 」は、将来の成長株。アメリカでも、大量の販売が2、3年以内に予定されている。
ナイコメッドの代表的医薬品、胃潰瘍治療薬「パント・プラゾル ( Pantoprazole ) 」 も2010年に10億フラン ( 927 億フラン) の売上高を計上した。
「とにかく、ナイコメッドの買収は、買収直後から年間売上高を30%強、改善できるもので、いわばナイコメッドは即座に武田に貢献してくれる」
と永田 氏は買収の一つの動機をこう説明する。
企業哲学の共通性
96億ユーロでナイコメッドの株式100%を取得するという買収ではあるが、事業の上では協力関係の側面も強い。では、スイスと日本という文化・社会的な意味での協力も多少あるのだろうか?
これに対し永田氏は
「実は、企業哲学において、ナイコメッドは『can do カルチャー』、つまりやればできるという哲学を持ち、武田薬品の『公正、正直、不屈』という企業哲学のうちの『不屈』に呼応する。それは素晴らしい一致だ」
と話す。
一方、買収後のナイコメッドのチューリヒ本社の構造改革などに関しては
「具体的統合計画はまだ検討中だが、アメリカの武田薬品を率いるフランコ・モーリ氏がチューリヒに行き統合計画を具体的に進めていく。しかし、現時点では、チューリヒの本社を含め、ナイコメッド社の社員の削減などは行われない予定だ」
と言う。
日本・スイスの経済環境では?
ところで、1年半前に経済連携協定 ( FTEPA) を発効させた日本とスイスだが、こうした 2国間の経済環境で、武田薬品の買収はどういった意味を持つのだろうか?
日本貿易振興機構 ( JETRO ) ジュネーブ事務所の渡辺道明所長は
「経済連携協定やその後署名された条約などで、人の移動の自由や租税問題など2国間のビジネス環境は飛躍的に前進した。この流れの中で日本からスイスに来る、ないしは合弁・買収を行う小型企業の話がいくつかある。今回の武田薬品の買収の話は、日本・スイス間のこういった流れを象徴する大型の出来事で大変喜ばしく思っている」
とコメントし、今後もこうした動きが続いていくことを大いに期待したいと話す。
一方、スイス貿易振興会 ( OSEC ) のアジア・太平洋地域担当局長、ヴォルフガング・シャンツェンバッハ氏は今回の買収を
「国内市場の閉塞性から、アジア、ヨーロッパ、アメリカに市場を広げるざるをえない日本企業の必然の動きの一つ。武田はナイコメッドの買収で、欧米市場にさらに展開が期待できる」
と見る。
スイス・日本のビジネス関係で将来期待できる分野は、医薬品、バイオテクノロジー、情報テクノロジー、生命科学分野だと見るシャンツェンバッハ氏にとって、武田薬品の買収は、まさにこの分析に一致したものだ。
さらにシャンツェンバッハ氏は
「東日本震災で日本のビジネスが下降線を辿ると考えるのは間違っている。下半期から日本のビジネスは正常に戻っていくだろう。また、特に現在、日本企業は海外市場の展開にかなり力を入れている」
とも明言する。
創業:1781年
本社:大阪
2010年の売上高:約1兆3000億円
従業員数:約1万9600
医薬品の世界売上高で13位の武田は買収後10位に浮上。
創業:1874年
本社:チューリヒ
2010年の売上高:約3000億円
従業員数:約1万2500人
医薬品の世界売上高で、買収前28位。
( 一部情報提供 マシュー・アレン )
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