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働くには暑すぎる? 世界の猛暑に国連が警告

建設作業員
熱波に見舞われた米テキサス州で涼をとる建設作業員のジャスティノさん AP通信

国連の世界保健機関(WHO)と世界気象機関(WMO)が22日に発表した共同報告書によると、猛暑に苦しむ人の数は世界人口の半分に及ぶ。特に途上国で貧困が深刻化する恐れがあるとして、各国に早急・具体的な猛暑対策を呼び掛けた。

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「猛暑は公衆衛生上の危機だ」。WHO(本部・ジュネーブ)のリュディガー・クレヒ環境・気候変動・保健局長は21日の記者会見でこう述べた。「すでに世界中で数十億人の労働者の健康と生活を脅かしている」

報告書は、2024年が史上最も暑い年となり、世界平均気温が産業革命以前の水準より1.45℃上昇したとするWMO(本部・ジュネーブ)の発表を受けて執筆された。今夏は中東で気温が50℃を超え、ヨーロッパ全域でも40℃を超える日が続き、壊滅的な森林火災が発生した。

報告書は「気候変動は、環境熱ストレスに関連する健康問題の深刻さが増し、その直接的、間接的な悪影響が地理的に広がることを示唆している」と警告した。 

「最も深刻な職業上の危険」

熱波は入院患者数や死亡者数の急増が注目されるが、職場では慢性的な脅威が日々発生している。報告書によると、農業や建設業、漁業の従事者数百万人が危険な環境での労働を強いられている。

熱ストレスによる健康への影響としては脱水症状、腎臓疾患、神経機能障害などがあり、重症の場合は死に至るケースもある。症状の見落としや誤診も多く、治療が遅れることもある。報告書によると、高温環境で頻繁に働く人々は「さらなる生理的負担に加え、健康被害のリスクも増大している」。

記者会見で、ILOのジョアキン・ピンタド・ヌネス労働安全部門責任者は、問題の深刻さを強調した。「炎天下での労働は、今日の労働環境において最も深刻な職業上の危険の一つと言える」。24億人以上の労働者が暑すぎる環境で働かざるをえず、年間負傷者2200万人以上、死者1万9000人をもたらしているという。

温暖化の影響を比較したグラフィック
swissinfo.ch

経済損失は数十億ドル規模 

問題は健康にとどまらない。気温の上昇に伴い、生産性も低下する。報告書は、「暑さ指数(湿球黒球温度=WBGT)が20℃を超えると、労働者の生産性は1℃上昇するごとに2~3%低下する」と分析した。WBGTは直射日光下での熱ストレスを指標化したもので、気温のほかに湿度、風、太陽の角度、雲量も考慮される。

WHOのクレヒ氏は、労働者の体幹体温を38℃以下に保つことが望ましいと述べた。だが記者会見に出席した専門家らは、労働組合の求める普遍的な最高安全温度の設定は否定した。湿度や作業量、地域の状況によってリスクのレベルは大きく異なるためだという。

経済への影響も大きい。肉体労働に依存する経済においては、職場における熱中症が「個人の生活だけでなく家計収入にも影響を与え、貧困削減を危うくする可能性がある」と報告書は指摘する。

裕福な人々ならば猛暑を避けたり、屋内で仕事をしたりすることも不可能ではない。だが発展途上国の低所得地域では難しく、報告書が指摘するように「炎天下を避けたり身体活動を減らしたりすることで健康リスクは軽減されるかもしれないが、健康で生産的な生活を送れなくなる」 

労働者は健康を危険にさらすか、生計を危険にさらすかという、残酷な二択を迫られる。このことが不平等を深刻化させ、貧困削減の進展を後退させる恐れがある。

警報では意味がない

多くの国の政府は現在、猛暑健康警報を発している。だが報告書は、これらは一般の人々を対象にしたものであり、いずれにしても働き続けなければならない人々を救えるわけではないと指摘した。

「こうしたアプローチは、経済活動の停止を防ぐためにある程度の生産性を維持しなければならない労働者にとっては、あまり意味がないことが多い」 

WHOとWMOは、雇用主、労働組合、労働者、地方自治体が協働し、職場における猛暑対策を策定するよう呼びかける。具体的にはシフトの組み直し、日陰での休憩時間の確保、防護服の提供、扇風機やウェアラブルセンサーなどの冷却技術の導入などを挙げた。

人口の大半がインフォーマルセクターで働いているアフリカでは公的保護が行き届かないため、意識向上は国家計画と同じくらい重要だと指摘した。

クレヒ氏は、猛暑対策をもはや単なる不快感として片付けることはできないと強調した。「単に暑い日が増えるだけでなく、気温も上昇している。マドリードで午後3時に建設作業員を見かけるというのは、変えるべき状況だ」

報告書では、訓練不足という問題も明記した。「これらの疾患のほとんどの治療法はよく知られているものの、誤診されたり、認識されなかったりすることが多く、患者の健康に深刻な悪影響を及ぼす可能性がある」 

世界的な開発課題 

WHO・WMOの報告書は、熱中症を▽貧困の撲滅▽健康の増進▽働きがいのある人間らしい仕事▽気候変動対策――という4つの国連持続可能な開発目標(SDGs)に関連付ける。猛暑対策は暑い日に労働者を守るというだけでなく、経済全体とグローバルサプライチェーンを守ることにもつながると強調する。

報告書は、対策においては「現実的な実現可能性、経済的実現可能性、環境の持続可能性」のバランスを取るべきだとくぎを刺す。対策を採らなければ、地球温暖化に伴い健康と生産性のコストはともに増大するとみる。

ヌネス氏は率直に、大胆かつ協調的な行動を求めた。「気候変動は労働の世界を変えつつある。行動に猶予はない」

編集:Virginie Mangin、英語からのGoogle翻訳:ムートゥ朋子

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