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気候危機で注目 世界気象機関って何?

国連の世界気象機関(WMO)は、昨今の記録的な高気温を「それほど異常ではない」と見る
国連の世界気象機関(WMO)は、昨今の記録的な高気温を「それほど異常ではない」と見る Keystone/AP

記録的な気候変動が世界中で起こるなか、報道でよく名前が出るのが世界気象機関(WMO)だ。swissinfo.chでは、この国連機関がどんな活動をしているのか、なぜ重要視されるのかを調べた。

WMOのオフィスビルはジュネーブの国連欧州本部と世界貿易機関(WTO)本部の間にある。その場所を知る人は少ないが、気候の現状を伝え、現実的な解決策を提案する上で中心的な役割を果たす組織として、メディアにその名が度々登場するようになった。

35℃まで気温が上昇した7月中旬の猛暑日、今年の強烈なエルニーニョ現象に伴う異常気象について記者会見が行われた。質問に答えたのはサマーシャツに身を包んだ2人のWMO高官だった。エルニーニョ(「幼子イエス・キリスト」を意味する)ーー太平洋上に暖かい空気が発生するこの現象が起きることは、WMOは今年5月に予測済みだった。データチャートも憂慮すべき事態を描き出していた。

WMOの世界気候研究プログラムの責任者マイケル・スパロウ氏は記者会見で、7月7日に世界の平均気温が過去最高の17.24℃を記録したことや、北大西洋地域、中米西部、南米太平洋沿岸の極端な温暖化、南極大陸周辺の海氷融解など、全大陸で記録的な現象が報告されたことは、それほど驚くべきことではないと記者に語った。

同氏は「過去20年、30年にわたり科学者たちが言ってきたことを考えれば、予想外のことではない。これからも限度を越え続け、最高気温を更新し続けるだろう」と発言。「科学界は、地球の仕組みに起きていることに遅れを取ってはならない。事態は我々が予測しているよりももっと悪くなりえる」と述べた。

あらゆる気象機関の母体として、また国連の中では間違いなく最も科学的な組織の1つとして、WMOが何を伝え、世界の気象基準、気候変動とその影響に対処する努力をどう主導するかは、ますます重要性を増している。しかし、国連システムの多くがそうであるように、WMOも政治と無縁ではない。

WMOは何をする組織?

気候変動により異常気象の頻度が増すなか、2024年1月までWMOの事務局長を務めるペッテリ・ターラス氏は、特に過去にデータ収集の面で不足があった国々に対し、気象観測システムの拡充を強く求めている。

2022年に発足し、アントニオ・グテーレス国連事務総長が支援するイニシアチブ「全ての人に早期警報システムを外部リンク」の狙いは、サイクロンや洪水、その他の異常気象の発生前段階で住民を確実に保護するための政治的、技術的、財政的取り組みを促進させることだ。

WMOは、このイニシアチブへのさらなる投資を求めてきた。来年1月、ターラス氏に代わって事務局長に就任するセレステ・サウロ氏は「早期警報システムを導入しないというのは、コミュニティや社会、住民が自分の命や暮らし、生活様式を守るのに手を貸さないということ」とswissinfo.chに語った。

「異常気象が起こると、多くの人々は家を離れなければならない。例えば暴風雨では食糧へのアクセスを失うことになる。気候変動への適応という点で、早期警報システムがいかに重要であるかを理解するのは難しいこともある。我々は気象サービスを強化し、社会の構築や人々が気候変動に適応するのを手助けしていかなければならない」

一方、WMOの世界的な観測ネットワーク外部リンクは何千もの地上、空中、海上観測所で構成され、地域予報用のデータを提供する。WMOはまた、気象観測やモニタリングの基準を定めるほか、気象観測の統一とデータ・統計のアクセシビリティー向上、気象学的研究・訓練の調整も行っている。

昨夏、スイスで暑さにより死亡した人の約60%は、人為的な地球温暖化が原因だった。

スイスは通常、豊富な水に恵まれているが、昨今の度重なる干ばつと水需要の高まりで水不足への不安が高まり、規制を求める声が高まっている外部リンク

スイスでは雪崩、洪水、熱波の予測は行われているが、他の国々と異なり、干ばつ警報システムはまだ導入されていない外部リンク

サウロ氏は「この情報を共有し、情報の収集方法に関する基準を導入できれば、気候がなぜ、どのように変化しているのかを突き止めるチャンスが得られる」と語った。

同氏はまた、WMOの他の業務として、各国が気象システムを追跡しやすくなる世界気象衛星観測網や、WMOの世界気象センターの協調システムを通じて作られる予報の共有を挙げる。特に、独自の予報モデルを運営する能力を持たない国々にとって、重要なツールになるという。

組織を率いるのは?

2024年1月、1950年創立の歴史で初めて、女性がWMOのトップに立つ。アルゼンチン国立気象局局長でWMO初代副総裁のサウロ氏が、2期務めたペッテリ・ターラス氏(フィンランド)の後任として事務局長に任命された。

ロシア・スイス国籍のエレナ・マナエンコワ事務局長代理、チャン・ウェンジアン事務次長(中国)、アルバート・マルティス第2副総裁(キュラソー)ら3人の内部候補者と事務局長の座を争った。サウロ氏は選出後、「後発開発途上国、小島しょ国、開発途上国の声を反映し、優先事項の達成に向けて一丸となって取り組む」とAFP通信に語った。

国連機関の女性トップとしては、サウロ氏の数週間前にエイミー・ポープ氏が国際移住機関(IOM)のトップに選出されている。アルゼンチン人のサウロ氏は科学者として、南米のモンスーンの仕組みや農業、早期警報システムに関する気象問題を研究してきた。

同氏はブエノスアイレスからの電話インタビューで、気候変動に関するWMOの科学的知見をより前面に出していくことを後方支援すると語った。「私は政策立案を、例えば気候の物理学といったものと切り離すことはできない。 (WMOでは)技術的な情報をベースにしており、それが長所だ。私たちは意見を形成しているのではない。確かな科学的情報をもとに声明を発表している」

影響力のあるIPCC報告書との関連は?

WMO本部の建物には、科学的権威の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)本部も置かれている。IPCCは、何千本もの査読済み論文に基づき、気候変動がさまざまな自然環境システムや人の生活に与える影響について定期的に科学的評価報告書を発表する責任を負う。

評価報告書は5〜7年周期で発表され、最新版は今年出た。世界、地域、各国の気候政策立案の基礎となるほか、昨年のエジプトでのCOP27など、毎年の気候サミットで重要な文書になる。

また、その専門作業部会は気候変動への適応と気候変動緩和のためにとるべき行動や、さらなる研究が必要となりえる分野について提言する。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の見解によると、現行の気候政策では、今世紀末までに世界の平均気温は2.7℃上昇すると予想される
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の見解によると、現行の気候政策では、今世紀末までに世界の平均気温は2.7℃上昇すると予想される Salvatore Di Nolfi/Keystone

WMOは気候変動対策で何ができるか

2016年のパリ協定では、各国が世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えることを誓ったが、WMOは5月の最新報告で、66%の確率で2027年までに気温上昇が1.5℃を超え、98%の確率でそのうちの少なくとも1年は記録的な暑さになる可能性があると発表した。

IPCCによれば、現在の気候政策では、今世紀末までに世界の平均気温は2.7℃上昇し、地球がこれまでに経験したことのないレベルに達する。科学者たちは、これは文字通り末期を意味すると言う。

この夏、北半球の多くが猛暑警報に見舞われている。サウロ氏は、そうした記録的な気温とその公衆衛生への影響が、行動を促すきっかけになると話す。

「国連気候変動枠組条約で加盟国が宣言したことに比べると、現在の行動はそれとかけ離れている。そこに向かってもいないし、現状も芳しくない。北半球全域でこれだけ高温の状況が広がり、既存のデータを超えた異常気象が起こっているのを見ると、本当に恐ろしい」

「異常気象が先進国を襲う今、そこに住む意思決定者たちが考えを改め、行動を加速させることを願う」とサウロ氏は話す。「だが、これはグローバル企業の問題でもある。その中には影響力も温室効果ガスの排出量も一国家を上回る企業がある。今こそ、彼らが反応すべき時なのだ」

編集:Virginie Mangin、英語からの翻訳:宇田薫

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