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コロナ危機を乗り越えたスイス株は?

Börsenkurs
Keystone / Ennio Leanza

スイス株式市場は今月、ようやく昨年3月の大暴落前の水準を取り戻した。新型コロナウイルスのワクチン開発が追い風となった製薬業界だけではなく、2021年の経済回復を見込んだ買いが景気敏感株を押し上げた。

2021年のスイス株式市場は幸先の良いスタートを切った。スイスのほぼ全ての株式の動きを示すスイス・パフォーマンス・インデックス(SPI)外部リンクは年初来、常に20年始値を上回る水準で推移している。大企業20社の株価を示す主要指数・スイス株式指数(SMI)は昨年末に1万700と、20年初めの水準を回復した。

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2月半ばから株価は急降下し、最初のロックダウンが始まった3月半ばには最安値まで落ち込んだが、「その後の回復スピードは2020年の大きな驚きだった」と、ジュネーブ大学金融研究所のミシェル・ジラルダン教授(金融市場)は振り返る。

再びコロナ流行拡大の脅威が市場を覆った秋には、11月中旬に米ファイザーの開発したワクチンが高い有効性を示したと発表されたことで前向きな見方が広がり、株価反発の引き金となった。

他国の主要株価はどうか。米株式相場は2020年を極めて優秀な成績で終えた。けん引したのはテクノロジー、通信、インターネット企業だ。フェイスブックやアマゾン、ネットフリックスが上場するナスダックは1年で40%以上上昇。日経平均株価は20%、上海株式市場は15%それぞれ値上がりした。

欧州市場も概ね順調に回復したが、ばらつきもあり、多くは危機前水準を取り戻せなかった。

上昇気流を見込む市場

昨年、多くのメディアが実体経済と金融市場のかい離を書き立てた。多くの国の経済がパンデミックで打撃を受けているのに、なぜ株式相場はこうも順調なのか、と疑問を投げかけた。

複合的な要因がその背景にある。フリブール大学マネジメント学部のデュサン・イサコフ教授外部リンクは、3月の株価急落は市場が過剰反応した結果にすぎず、経済が受けた影響は業界によっても大きく異なると説明する。

「パニックが過ぎ去ったあとは、経済の一部はなお順調であることに投資家が気づき、相場の回復につながった」

政府の経済政策や主要中央銀行による金融緩和も大きな役割を果たした。中銀がすぐさま経済下支えに必要なだけの資金を供給する方針を示したことは、とりわけ市場に安心感を与えた。景気の見通しが立たない中でも「金融・マクロ経済的なファンダメンタルズ(基礎的条件)はそう悪くなかった」とイサコフ氏は話す。

注意が必要なのは、株式相場が映すのは実体経済の一部でしかなく、それを代表するものではないということだ。ジラルダン氏は特に「市場は先行きを見据えて動く」と強調する。スイス市場は4~6月期の海外市場で起きた二番底には追随せず、年後半には回復すると予想されていたという。

実際、20年のスイス経済は予想されていたほど落ち込まず、21年も楽観視されている。足元の株式相場が、マクロ経済で発生した明るいニュースを既に織り込んだかどうかはまだ分からない。

上昇率トップはロンザ

SMI構成銘柄のうち2020年の株価上昇率が最も高かったのは、66%を記録した製薬大手ロンザだ。新型コロナのワクチン開発で米モデルナ社と提携したことや、企業の構造改革が貢献した。

総合化学メーカーのシーカは39%上昇、香料化学のジボダンも21%上昇と健闘した。ジボダンは手の消毒ジェルや、イスラエル企業との協業で生産する肉代替製品用香料など多様化を進めている。

SMI以外では薬局グループのツア・ローゼが170%と目覚ましい上昇率を達成した。医薬品の遠隔処方や配達サービスが奏功した。

好調なIT分野のなかでも、在宅勤務の普及に伴いデジタル機器製造のロジテックが97%と大きく伸びた。一方で通信大手のスイスコムはほぼ横ばい。ネット金融取引を手がけるスイスクオートは、取引数量の増加を背景に96%上昇した。

製薬株はおおむね好成績だったが、業界大手のロシュとノバルティスは必ずしもそうではなかった。長年、基礎医薬品やワクチンの生産を放棄してきたため、パンデミックの恩恵に預かれなかった。

人材派遣会社アデコは業績低迷で春に株価が急落したが、上半期で約37%回復し、現在は20年初の水準を取り戻している。景気の先行きが上向くにつれ、人材派遣の需要が高まるとみられている。

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保険は難局

2020年が保険会社にとって良くない1年だったのはうなずける。スイス再保険の株価は年間23%下落。スイス保険やチューリヒ保険もマイナス圏だった。

スイスの2大時計グループ、リシュモンとスウォッチグループは明暗が分かれた。ともに春先は売り上げが大きく落ち込んだが、その後リシュモンは回復し株価は年初比8%高まで回復。一方のスウォッチグループは9%安に終わった。イサコフ氏はリシュモンが中国ネット大手アリババなどと提携し、対面販売に固執しなかったことが決め手になったと説明する。

ジラルダン氏は2020年末に「部分的ローテーション」が発生したと総括する。「それまでは(安定した)ネスレやロシュ、ノバルティス株で確実な相場を張った」。だがワクチン開発が進むと「投資家は景気循環型の株に食指を伸ばした」ため、シーカなどが買われたという。

これらハイリスク・ハイリターンの景気敏感株が買われたのを見ると、投資家は2021年に経済回復を見込んでいるようだ。

(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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