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写真家集団マグナム・フォトがとらえたスイス連邦議事堂

議事堂
Alex Majoli/magnum photos

スイス連邦憲法は今年で誕生175周年を迎える。記念事業の一環で、世界を代表する国際写真家集団マグナム・フォトの写真家4人が会期中の連邦議会を異なるアングルで追った。

1848年、欧州各地で起こった革命の大半が失敗に終わると、欧州大陸の歴史は再び後退を始めた。しかし、スイスでは同年9月12日に初の連邦憲法が制定され、近代スイスの礎が築かれた。

4人の作品は、ベルンのコルンハウスフォーラムで開催中の写真展「Session(仮訳:会期)」で展示されている。このうちの1人で写真家のクリスティーナ・デ・ミデル氏は、会場で上映されているドキュメンタリー映画の中で「誕生日に写真を撮るのは自然なことだ」と語った。デ・ミデル氏の過去の作品には、売春をテーマに客である男たちのリアルな姿をとらえたシリーズなどがある。

4人は、連邦議会の日常を新鮮な視点で切り取るフォトプロジェクトに招かれた。昨年の滞在中、数週間にわたり簡単なセキュリティーチェックのみで連邦議事堂に24時間アクセスすることを許された。

デ・ミデル氏にとってこうした待遇は、「この国に存在する透明性や信頼」の表れだ。だが、同氏がまず関心を向けたのは、連邦議事堂ではなく連邦公文書館だった。誕生日の主役である1884年版憲法を真っ先に撮影したのだ。

粗探し

白い手袋をはめた文書係が赤く縁取られた連邦憲法のページをめくる。同氏はそれにマクロレンズを向けた。こうして撮影された1848年憲法は、傷んだ箇所の記録が必要な修理品のようだ。

デ・ミデル氏は、連邦議事堂でも「品質点検」を行った。ここでは床の小さなシミやビロード張りのイスの布の破れ、干からびた観葉植物などを見つけた。

イラン人写真家ニューシャ・タバコリアン氏は、連邦議事堂にほとんどエキゾチックな印象を抱いた。16歳でプロの報道写真家としてイランで写真を撮り始め、1999年、18歳でイラン学生デモを撮影した。

その数年後にはイラク戦争を取材した。普段どう転ぶか分からない現場で仕事をしている同氏は、政治家への信頼は薄いと話す。

タバコリアン氏は、今回のプロジェクトでもうわべの賞賛に走ることなく、この「最も民主的な国」が長い間女性に参政権を認めなかったことへの違和感を掘り下げた。

当初は、女性を再びテーマとすることに抵抗があった。既に他のプロジェクトで、女性ゲリラ戦闘員や隠れて働くイラン人女性歌手たちと行動を共にしてきたからだ。それでも、実際に連邦議事堂という場でこの点を見ることには意義があると考えた。

タバコリアン氏の写真は、女性の強さと疎外というコントラストを描く。いまだ入室を禁じられているかのようにガラス張り部分から議場をのぞき込む女性議員の姿もあれば、柱廊の随所で携帯電話を耳に堂々たる立ち姿を見せる女性たちもいる。

連邦議事堂に飾られた彫刻をコラージュした作品は、ここでもいまだに女性は美しいオブジェとして、一方で男性は戦士や思想家として表現される現状をあぶり出す。

単調という不安

イタリア人写真家アレックス・マジョリ氏も、連邦議事堂の完璧さに反応した。「触るのをためらうほど全てが完璧だった。ただし、飾り過ぎも目に付く」。普段は戦争や難民の苦難をテーマに写真を撮っている。

マジョリ氏はドキュメンタリー映画の中で、連邦議会のような場ではアイデアが浮かびにくいともらす。「毎日同じ場所で同じ人々に会うという状況で、斬新なプロジェクトを思いつくのは簡単ではない」

マジョリ氏の写真は、権力の舞台から分別臭さを抜き取ってしまう。開票作業にすらギャンブラーで賑わうカジノのテーブルのようなドラマ性が生まれ、議事堂の階段には本来そこにない威厳が漂い出す。

ストリートフォトグラファーのアレックス・ウェブ氏は、撮影の大半を議事堂以外の場所で行った。「私にとって民主主義は、議会の中だけでなく街角にも存在する」

同氏は、駅の空間を行き交う人々だけでなく議事堂を出ようとする議員たちにもカメラを向けた。外部と内部を結び付けたかったからだ。

写真展「Session」はベルンのコルンハウスフォーラムで3日まで開かれている。カタログ「Session」(Sturm&Drang出版、2023年)が発売中。

独語からの翻訳・フュレマン直美

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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