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風景の中に見る、人間の営みと欲望

スイス東部の町ヴェーゼンで起きた洪水。写真に見るのは、1軒のヴィラが駐車場もろとも深く浸水した様子。金持ちがのどかな暮らしを送っていた家屋に、洪水の水位がまっすぐなラインを引く。虚構に映るのは、物質と化した将来の夢や希望。バーゼル生まれの写真家が、風景を通して見える人の生き方や欲望に光を当てた。

1965年にバーゼルに生まれた写真家トビアス・マデリンさんは、1991年から世界の様々な都市や地方の状況をフィルムに収め続けている。どの場所にも共通するのは、作られた空間が人々の願いやアイデアを表現するものであると同時に、交渉の場でもあるということ。焦点を当てるのは、広場、サッカー場、公営プール、浜辺など人々が集まる空間。さらに、世間からはあまり注目されない空間も観察する。それは例えば都市郊外や、都市と都市の間にある土地だ。写真には、大勢の人々が小さく映ったものや、建物や構造物だけがモチーフのものがある。また、モチーフには人間の手が大幅に加えられた自然もある。こうした自然は資源を搾取され、世界の終わりと言えるほどの汚染に見舞われ、元の姿が想像できないほど人工的に変化している。

カメラはある種の読み取り機として機能する。ストーリーを紡ぐためでも、一見悲劇的な出来事を報道するためでもない。見えるものを調べ、状況を確認し、熟考し、分析するために使われる。表面的には全く見る価値に値しないものに見えても、それが誕生することになったのには何らかの社会的・美的基準があることを写真は伝える。写真は、問いを投げかけるのだ。

マデリンさんは撮影場所の評価をしたり、モラルを問うたりするわけではない。写真に、その風景をめぐるドラマを語らせるのだ。初めはわずかしか見えないが、よく見れば荒廃や傷の跡が強烈に表れてくる風景。それは、心に傷を負った人たちがそのままにしておいたものの、いつかは再建せざるを得ない嵐の跡であったり、資源を搾取したり乱暴に商業化したりするために(文字通り)掘り返された風景だったりする。こうした風景はまさに、超現実的であり、芸術的でもある。

(写真:トビアス・マデリン、文:ナディーヌ・オロネツキー、構成swissinfo.ch)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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