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オンライン署名収集、コロナ禍で広まるか

人の多く集まる場所での署名集めは、コロナとソーシャルディスタンスの時代ではほぼ不可能だ。オンライン署名収集は技術的には可能だが、スイスではまだ政治的に実用化されていない Keystone

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)で民主主義の実践が難しくなっている。しかし市民が請願を出すには街頭での署名集めが欠かせないことが多い。そこでオンライン署名収集が代替策として注目されている。

このコンテンツは 2020/11/27 09:08

新型コロナで世界が混乱に陥っている。このことが民主的な手続きにおいて何を意味するだろうか?推測できるのは、イニシアチブ(国民発議)、レファレンダム、請願書に必要な署名をオンラインで集めることが今後ますます必要とされることだ。

街頭やイベントでの署名活動ができなくなった今こそ、この代替策が世に浸透してしかるべきだろう。だが実際に使われているのだろうか?答えは否だ。オンライン署名収集は期待されたほど広まっていない。

オンライン署名ツールの真価が10年以上も前から実際に証明されてきたことを考えれば、これは驚くことかもしれない。署名サイトの代表格にはavaaz.org他のサイトへchange.org他のサイトへがある。2007年以降、両プラットフォームに立ち上げられたキャンペーンに署名した利用者数は数百万人にも上る。

それにも関わらず、オンライン署名収集の経験がある国はまだわずかしかない。そうした国の中にはオーストリア、フィンランド、オランダ、ラトビア、デンマークのほか、米国のいくつかの州があるが、スイスは含まれない。

請願書のためのキャンペーンツール

オンライン署名収集で特徴的なのは、主に法的拘束力のない請願、つまり請願書で利用される点だ。だがイニシアチブやレファレンダムのように請願の法的拘束力が強いほど、従来のアナログ手法による署名集めが行われる。

この方程式はコロナ禍であっても崩れることはないだろう。

しかし米国では新型コロナの影響で変化が生じている。米国憲法に直接参政権の導入を目指すプラットフォーム「Strengthen Direct Democracy他のサイトへ」の創設者エヴァン・ラヴィッツ氏によれば、マサチューセッツ州他のサイトへオハイオ州他のサイトへは5月、全米に先駆けて住民発議に必要な署名に電子署名他のサイトへを認めた。またアーカンソー州、モンタナ州、アリゾナ州、コロラド州、オクラホマ州では発議委員会がオンライン署名収集の導入を求めた。

アリゾナ州には独特の制度がある。同州では市民から賛同を得た候補者の名前が投票用紙に記載されるが、市民はオンラインでも候補者に賛同できる。

ラヴィッツ氏はウイルス感染のリスクに触れ、「ここの人たちは皆、オンライン署名収集は人との直接接触を通した署名収集に比べて安全ということを分かっている」と語る。初めはオンライン署名収集に反対だった政治家でさえ、今ではこれを支持しているという。

オンライン署名収集はアジアでも議論の的だ。台湾では住民発議に必要な署名にオンライン署名を認めるべく法整備が検討されている。しかし中国からの不正操作が危惧されることから、今のところ進展していない。

オンライン署名収集の本丸は欧州だ。ここでは欧州連合(EU)の欧州市民イニシアチブ(ECI)が最大の推進力となっている。この制度では少なくとも加盟国7カ国から計100万人の署名を12カ月以内に集めれば立法が提案でき、署名はオンラインでも収集できる。

欧州市民イニシアティブ(ECI)


EU全体では2012年以降、73件のイニシアチブが提案された。現在は11件で署名集めが行われている。大半は署名集めの段階で失敗する。これまで欧州委員会が回答したイニシアチブ、つまり公式に「受託」したイニシアチブは4件しかない。欧州委員会が拒否した有効なイニシアチブは14件。その中で最も有名なイニシアチブが、米国との大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定(TTIP)の破棄を求めた「ストップTTIP」だ。過去最高となる330万人の欧州市民が署名したが、欧州委員会は14年にこれを拒否した。しかし欧州司法裁判所は17年、欧州委員会の決定を無効とする判決を下した。

ブリュッセルでは今年、EUで最も重要な直接民主制の手段であるECIを強化するため、11月16日から20日まで「ECI週間他のサイトへ」が開催された。

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決定打となったブレグジット投票

しかしECIは欧州委員会を拘束するものではない。EU指導部は今もEU市民に直接民主制の手段を委ねることに非常に慎重だ。

「ブレグジットを巡る国民投票の影響で、ブリュッセルでは(直接民主制に対する)一般的な不信感が強まった。住民投票が『寝た子を起こす』のではないかと危惧されている」と、オープンデータの専門家であるスイス人のグザヴィエ・デュトワ他のサイトへ氏は言う。同氏は民主的なオンラインキャンペーンのためのツール開発を10年以上手掛ける。同氏の会社「Fix the Status Quo他のサイトへ」は世界で最もデジタル化が進んだ国の1つであるエストニアの首都タリンに拠点を置く。

ECIに必要な署名が集められるサイトとして唯一承認を受けているのは、EUの公式サイトとデュトワ氏のプラットフォームだけだ。同氏はこれまで、スイスにいながら9件のECIに携わった。

スイスは特別な位置を占める。なぜなら、スイスには国レベルで最も強固な直接民主制がある上、オンライン署名収集が最近まで政府の「電子投票プログラム」の一部として扱われていたからだ。同プログラムの目標は、電子投票をスイスで3番目の公式な投票手段として導入することだ。

しかし連邦内閣事務局は17年、オンライン署名収集の実現化を取りやめた。それは16年に署名サイト「WeCollect他のサイトへ」を立ち上げたダニエル・グラーフ氏にとっては大きな痛手だった。WeCollectは現在、委員会がイニシアチブやレファレンダムに必要な署名を集める際に利用できる単なる「半デジタル」的な手段となっている。「半デジタル」なのは、支持者が自分で署名用紙を印刷し、署名し、委員会に郵送で返送しなければならないからだ。

「連邦政府がオンライン署名収集よりも電子投票を優先することを決定した02年から、すでに方向性は定まっていた。連邦政府はあいにく今もその方針を維持したままだ」とグラーフ氏は肩を落とす。同氏が立ち上げたプラットフォームはその間、直接民主制財団他のサイトへに移転された。

今こそ必要な時

グラーフ氏と共に、財団の理事会メンバーを務めているのがゾフィー・フュルスト氏だ。スイスの民主主義にオンライン署名収集が必要なことがコロナ禍で顕著になったと強調する。「署名集めには人と直接接触することが欠かせないが、現在はそれが難しい。署名集めはここ数カ月で安全性が下がり、手間が増え、コストも上がった」

イニシアチブやレファレンダムはロックダウン(都市封鎖)や行動制限措置の影響で中断されたり、不成立になる直前であったりするとフュルスト氏は言う。その最たる例が電子投票の導入停止を求めたイニシアチブだ。発議委員会は幅広い支持を集めていたが、ロックダウン後の6月に署名集めを中断した。

立ち上げから5年が経過したWeCollectをみれば、オンライン署名収集の需要の高さが分かる。このツールで集められた半デジタルの署名数は、計37件で52万筆弱に上る。

デジタル先進国のタリンに自社を置くシステム開発者のデュトワ氏も、スイスでのオンライン署名収集を支持する。同氏は利点として、コロナ禍でも署名集めができる点を挙げる。また、オンラインを活用すれば、委員会にとって署名集めのコストが低くなるほか、キャンペーンの活動家や支援者が新しいコミュニティーの下でまとまることができるという。

信念を伴わない政治参加

しかし同時にデュトワ氏は懸念も抱いている。スイスの直接民主制において「オフラインでのつながり」は明らかな強みだが、それがオンライン署名収集の登場で損なわれるかもしれないからだ。また「スラックティビズム」が助長される可能性もある。スラックティビズムとは、政治的転換への信念を持たず、表面的かつ義務をほとんど負わない政治参加を指す。

デュトワ氏はまた信頼面にも問題があると考える。オンライン署名収集では署名を集める過程に疑問が持たれやすく、ひいてはその結果にも不信感が生じやすい。「ペンと紙を使った署名集めは誰もが理解している。しかしオンライン署名の信頼性と完全性を保証する暗号化アルゴリズムについて、どれだけの人が知っているだろうか?プロセスが分からないのに結果を信頼できるだろうか?」

それでもスイスはオンライン署名収集を試し、発展させる国として最適だと同氏は確信する。「だが全ての市民の信頼を得るには時間と経験が必要だ」

(独語からの翻訳・鹿嶋田芙美)

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