懲役刑を言い渡されても気づかない スイスの略式命令

バーゼルにある刑務所の一室 Keystone / Georgios Kefalas

ある女性が懲役刑の有罪判決を言い渡された。だがフランス語しか話せない女性は、ドイツ語で書かれた判決文を理解できず、期日までに不服申し立てができなかった。この事件は、スイスの刑事司法制度が抱える矛盾の一つだ。

このコンテンツは 2020/06/03 10:00

スイスでは、検察官が直接、最長6カ月の禁固刑および罰金刑または科料を科すことができる。判決は書面で出され、判決理由は示されない。スイスの刑事事件の90~98%はこの裁判所での公判を経ない「略式命令」で刑罰が決まる。

刑事訴訟法の立法過程では、検察が判決を下せるのは権力の分立に違反する、との懸念が出ていた。だが連邦議員の過半数は、被告には不服申し立ての権利があるため、略式命令は単なる「判決の提案」に過ぎないと考えていた。

理解できない判決文

だが「判決の提案」を理解できないまま、不服申し立て期限が過ぎてしまった場合はどうなるのか?バーゼル・シュタット準州で最近起きた実例がある。フランス語話者の女性に、同州検察官は身分証の偽造と違法入国の罪で45日間の実刑を略式命令で言い渡した。この「判決」には10日間の不服申し立て期間が与えられていた。

一切の審理なく略式命令書を手渡されたため、女性は文書の内容をすぐには理解できなかった。女性の不服申し立ては手遅れだった。この事案は、略式命令による判決が抱える問題を浮き彫りにした。手続きは安上がりだが、司法の目が入らない略式裁判は過ちを起こしやすく、検察官に過大な権限を与えることにつながる。

裁判を経ずに投獄

この略式命令をめぐる事案は上級裁判所にまで送られ、バーゼル・シュタット準州の上級裁判所は昨年9月、検察の略式命令に法的拘束力があるとの判決を出した。ただ、この女性は結果的に連邦裁判所(最高裁)に救われることになる。連邦裁は今月8日翻訳支援がなかったことを理由に、州上級裁の昨年9月の判決を棄却。このため、女性は当初の略式命令に対し、不服を申し立てることができる。

このような事案があっても、問題を抱える略式命令自体のルールが変わったわけではない。スイスではいまだに、自分が裁判の当事者になることなく投獄される可能性がある。

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