スイスの視点を10言語で

スイス製暗号機で通信傍受されていた国々

Cipher machine
この暗号機は1952年に発売された。ドイツ語圏の日刊紙NZZは、スイスの暗号機が多く輸出されたのはそれからしばらく経った1997~2019年だったと突き止めた Keystone / Ennio Leanza

危機が起こるたび、そのスイス製の暗号機は「信頼できる」と誤認され多くの国が購入した――スイス・ドイツ語圏の日刊紙NZZは、1997~2019年にスイス経済省が発行した輸出許可証を詳細に調べ、こんな結論を導き出した。

この期間、スイス連邦経済省経済管轄局(SECO)は計4万件の一般・軍需品に輸出許可を出した。NZZ外部リンクによると、うち2600件は「通信の秘密の保護を可能にする製品」だった。輸出先は148カ国、輸出額は5千億フラン(約56兆円)。ただ許可を得た商品が全て輸出されたとは限らない。

これらの輸出品の大半は暗号機だった、とSECOはNZZの取材に答えた。NZZが業界関係者に取材したところ、輸出企業として3社のスイス企業の名が浮かび上がった。そのうちの1社はツークに本社を置くクリプト株式会社。2月中旬、米独のスパイ活動に関与したとして世の中の注目を浴びた企業だ。

おすすめの記事
crypto logo

おすすめの記事

スイスの暗号化企業、CIAのスパイ活動に関与

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの通信暗号化企業クリプト(本社・ツーク)が半世紀近くスパイ活動を行っていたとの疑惑で、スイス政府が調査に着手したことが明らかになった。

もっと読む スイスの暗号化企業、CIAのスパイ活動に関与

クリプト社の技術を買い求めた国々の名をみると、「新しい危機が起こるたびに、盗聴される恐れはないと誤認されていた暗号機の注文が殺到した」(NZZ)ことが分かる。だが実際は、暗号機には不正が仕込まれ、米情報機関はふんぞり返って盗聴することができた。

NZZは調査の対象期間を4つに分けて分析した。

1997~2000年:1999年春のベネズエラのチャベス政権誕生から6カ月後、SECOはクリプト社暗号機1890万フラン相当の輸出を許可した。米国は反チャベス運動の挫折に一役買った。

2001~08年:米国(1440万フラン)とリビア(約1千万フラン)がクリプト社の大口顧客となった。2001年9月11日に米同時多発テロが発生。米国は事件発生の前に暗号機入手に関心を示していたが、リビアからの注文は事件の発生後に急増した。

2009~13年:民主化運動「アラブの春」が勃発。この期間は北アフリカやアラビア半島からの注文が多かった。2011年のバーレーン騒乱が起きた後、SECOはペルシア湾岸諸国向けの暗号機計1950万フランの輸出を許可した。13年には暴動の起きなかったモロッコ(1340万フラン)やヨルダン(1660万フラン)への輸出許可が下された。

2014~19年:直近5年間はシリア戦争やテロ組織「イスラム国」に関連する国に対して最も多くの輸出許可が出された。特に多かったのはサウジアラビア向けの輸出だ。NZZは、スイスの暗号技術の輸出が18年以降に急減したことも突き止めた。

おすすめの記事
スイス政府がクリプト社を告訴 米独スパイ問題で

おすすめの記事

スイス政府がクリプト社を告訴 米独スパイ問題で

このコンテンツが公開されたのは、 米独の情報機関がスイスの暗号機器メーカー、クリプト社を秘密裏に長年所有し、同社のデバイスを使って世界各国の機密情報を収集していたとされる問題で、スイス連邦経済省経済管轄局(SECO)はクリプト社を刑事告訴した。ドイツ語圏の日曜紙ゾンタークス・ツァイトゥングが報じた。

もっと読む スイス政府がクリプト社を告訴 米独スパイ問題で

(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部