2011年の福島第一原子力発電所事故以来、大量の汚染水がタンクに保管されている
Keystone / Kimimasa Mayama
ホエイプロテインと活性炭を活用し、放射性水を除染するフィルター膜がスイスで開発された。研究チームは、福島第一原子力発電所事故で発生した汚染水の処理にこの発明を活用できると期待している。
このコンテンツが公開されたのは、
2020/09/29 16:55
スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)は4年前、水からウラン、金、プラチナなどの金属を除去できるフィルター膜を発表した。今月1日に科学誌「環境科学 水研究・技術外部リンク 」に掲載された同大の最新論文では、さらに一歩進んで、フィルター膜で病院の排水から放射性元素を除去する方法を発表した。
室内実験では、フィルター膜がテクネチウム99m、ヨウ素123、ガリウム68など医療分野で使用される放射性核種を、水から効果的に除去できることが示された。わずか1回のろ過ステップで成功率は99.8%に達した。
また放射性ヨウ素131とルテチウム177を含んだ病院排水をサンプルとしてフィルター膜を試験したところ、両要素とも水からほぼ完全に取り除くことができた。
ETHZのラファエレ・メッツェンガ教授(食品・ソフトマテリアル工学)は29日に発表した声明外部リンク で、「この膜を使って廃棄物の量を大幅に減らし、放射性物質をコンパクトで乾燥した固体として保管することが可能になる」と述べた。
「汚染水を大幅に減らす」
ETHZは次の段階として、スイスの大病院と組んで放射性廃液をろ過する事業事業を計画している。
また福島原発事故の現場で浄化作業に携わる日本企業と、汚染水処理にこの技術を活用するべく交渉を始めている。
フィルター膜の共同開発者であるスレーナス・ボリセッティ氏は「私たちの仮説仮定が正しければ、フィルター膜で福島の汚染水を大幅に減らすことができる。放射性水を太平洋に投棄する必要がなくなる」
高放射性元素でいっぱいになったフィルターは、たとえば原発の使用済み燃料棒と同じ場所に固体として保管できる、と同氏は説明した。
ETHZによると、フィルター膜は比較的簡単に製造できる。ホエイプロテインは乳業の廃棄物で、安価で入手しやすい。活性炭成分も簡単に見つかるという。
おすすめの記事
「気候活動家への団結心」見せた判事、類似事件への関与禁止 スイス最高裁
このコンテンツが公開されたのは、
2024/05/01
スイス連邦裁判所(最高裁)は先月26日、チューリヒ地方裁判所の判事の1人に対し、気候活動家に関する裁判への関与を禁じる判決を下した。この判事が過去の裁判で活動家への団結心を見せたとして、考え方に偏りがあると結論付けた。
もっと読む 「気候活動家への団結心」見せた判事、類似事件への関与禁止 スイス最高裁
おすすめの記事
スイス、2023年の実質賃金は0.4%低下
このコンテンツが公開されたのは、
2024/04/26
スイス連邦統計局は25日、2023年の名目賃金は1.7%上昇したと発表した。インフレ(年平均2.1%)に相殺され、実質賃金は0.4%低下した。
もっと読む スイス、2023年の実質賃金は0.4%低下
おすすめの記事
製薬大手ノバルティス、次期会長候補に米製薬BMS出身者選出
このコンテンツが公開されたのは、
2024/04/23
スイスの大手製薬ノバルティスは22日、2025年で任期満了となるヨルク・ラインハルト取締役会長の後任に、ジョバンニ・カフォリオ氏を選出すると発表した。
もっと読む 製薬大手ノバルティス、次期会長候補に米製薬BMS出身者選出
おすすめの記事
スイスで見つかったラムセス2世像破片、エジプトに到着
このコンテンツが公開されたのは、
2024/04/23
エジプト考古省は21日、約30年前に盗まれ国外に流出したラムセス2世像の頭部破片が同国に到着したと発表した。
もっと読む スイスで見つかったラムセス2世像破片、エジプトに到着
おすすめの記事
スイス議会、G7のロシア資産追及チームへの参加を否決
このコンテンツが公開されたのは、
2024/04/19
スイス国民議会(下院)は17日、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)の資産を追及する主要7カ国(G7)の国際作業部会には参加しないことを決めた。
もっと読む スイス議会、G7のロシア資産追及チームへの参加を否決
おすすめの記事
米・イラン、攻撃前に「スイスを通じて」接触
このコンテンツが公開されたのは、
2024/04/17
米政府高官は14日、イランによるイスラエル攻撃の前後に、米国は利益代表国であるスイスを通じてイランと接触していたと述べた。
もっと読む 米・イラン、攻撃前に「スイスを通じて」接触
おすすめの記事
チューリヒ春祭りの雪男、強風で燃えず 歴史上初
このコンテンツが公開されたのは、
2024/04/16
チューリヒの春祭り「セクセロイテン」が15日開かれた。巨大な「雪男」を燃やして夏の天気を占う恒例行事は強風により中止となった。
もっと読む チューリヒ春祭りの雪男、強風で燃えず 歴史上初
おすすめの記事
スイス政府、銀行規制の改革案を発表 UBSの資本要件強化へ
このコンテンツが公開されたのは、
2024/04/10
スイス政府は10日、「大きすぎて潰せない(TBTF)」銀行に関する規制改革案を発表した。UBSと他の「システム上重要な銀行」3行は、破綻時のスイス経済への影響を抑えるためにより厳しい資本要件を課される必要があると述べた。
もっと読む スイス政府、銀行規制の改革案を発表 UBSの資本要件強化へ
おすすめの記事
新種のイカの化石、名前は発音が難しいスイスドイツ語に
このコンテンツが公開されたのは、
2024/04/09
スイス南部ティチーノ州の約2億4200万年前の地層から新種のイカの化石が見つかり、「Chuchichäschtli(クッヒカーシュトリ、スイスドイツ語で『食器棚』)」と名付けられた。
もっと読む 新種のイカの化石、名前は発音が難しいスイスドイツ語に
おすすめの記事
スイスのサマータイム廃止はいつ?
このコンテンツが公開されたのは、
2024/04/03
スイスで夏時間(サマータイム)が始まった。3月31日午前2時にすべての時計の針が1時間ジャンプし、午前3時を指した。だが夏時間制はとうの昔に廃止されるはずではなかったのか?
もっと読む スイスのサマータイム廃止はいつ?
続きを読む
次
前
おすすめの記事
「災害リスクの考え方を包括的に」 国連防災担当の水鳥氏
このコンテンツが公開されたのは、
2020/03/11
東日本大震災が起きて9年。この大災害から得た教訓を「仙台防災枠組み」に活かして防災・減災のための国家の対応力向上を呼びかけ、大惨事の記憶を風化させないように努める国連防災機関(UNDRR)トップである国連事務総長特別代表水鳥真美氏に防災対策の現状や問題点を聞いた。
もっと読む 「災害リスクの考え方を包括的に」 国連防災担当の水鳥氏
おすすめの記事
スイス原発の廃炉に向け、手を差し伸べ合う旧敵
このコンテンツが公開されたのは、
2019/08/13
スイス初の廃炉が現実となる日を待つことなく、その安全をめぐる議論にはすでに終止符が打たれた。数十年にわたる闘いの後、原発経営企業と反原発派は今、同じ目的に向かって歩調を合わせる。
もっと読む スイス原発の廃炉に向け、手を差し伸べ合う旧敵
おすすめの記事
スイスの研究者 災害救助のための感知センサーを開発
このコンテンツが公開されたのは、
2018/05/17
連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)は16日、センサーで生き埋めになった人を見つけ出す電子装置を開発したと発表した。人間のにおいを感知する極小のセンサーで、従来のガスセンサーに比べてコストが安いのが特徴。地震や雪崩が起こった際の捜索・救助活動に役立つという。
もっと読む スイスの研究者 災害救助のための感知センサーを開発
おすすめの記事
知日家のスイス人作家アドルフ・ムシュク氏が85歳 福島原発事故の小説も
このコンテンツが公開されたのは、
2019/05/14
スイス人作家で日本とも関係が深いアドルフ・ムシュク氏が13日、85歳の誕生日を迎えた。1960年代には東京の大学で教鞭をとり、その日本滞在を元にした小説「兎の夏」で文壇デビュー。昨年には原発事故後の福島を舞台にした小説「Heimkehr nach Fukushima(仮題:フクシマへの帰還)」も出している。
もっと読む 知日家のスイス人作家アドルフ・ムシュク氏が85歳 福島原発事故の小説も
おすすめの記事
日本とスイス 対照的な原子力政策
このコンテンツが公開されたのは、
2017/05/16
東京電力福島第一原発事故から6年。スイスは2017年5月21日、原子力に拠らない未来をかけて国民投票を実施する。逆に当の日本は停止していた原子炉の再稼動に動き出している。この逆転現象の背景にあるのが直接民主制だ。
二国のエネルギー政策を取り巻く環境は共通する面が多い。日本とスイスはともに代表民主制を採る。輸出中心の工業立国であり、数十年間核エネルギーが重要な役割を担ってきた。2010年時点で両国とも原子力発電が電力総需要のほぼ3分の1を占めていた。
だが原子力の平和利用は核だけでなく現代社会を分裂させる。日本でもスイスでも、最初の原子力発電所の設立計画が動き出した1950年代、数百万人が危険な技術に反対してデモ行進をした。
もっと読む 日本とスイス 対照的な原子力政策
おすすめの記事
原発事故取材7年 おしどりマコ・ケンさん、チューリヒで初講演
このコンテンツが公開されたのは、
2018/04/09
2011年3月11日の東日本大震災以降、福島第一原発事故の取材を続けている芸人のおしどりマコ・ケンさんが8日、チューリヒ市内で講演し、原発事故から7年経った日本の現状について語った。
もっと読む 原発事故取材7年 おしどりマコ・ケンさん、チューリヒで初講演
おすすめの記事
スイス代表団、エネルギー分野で日本視察
このコンテンツが公開されたのは、
2012/07/27
視察団には連邦エネルギー省エネルギー局(BFE/OFEN)の代表のほか、ヴォー州の州議会議員や連邦工科大学ローザンヌ校(ETHL/EPFL)とチューリヒ校(ETHZ/EPFZ)、連邦技術革新委員会(KTI/CTI)、今…
もっと読む スイス代表団、エネルギー分野で日本視察
おすすめの記事
スイスの核廃棄物、20年後どうするのか
このコンテンツが公開されたのは、
2011/09/06
連邦工科大学ローザンヌ校(ETHL/EPFL)は、核廃棄物を何重かの遮断層を設け地下400メートルから900メートルの地層中に貯蔵する、いわゆる「地層処分」計画を進めている。 スイスでは現在、使用済み核燃料を原発内や中…
もっと読む スイスの核廃棄物、20年後どうするのか
おすすめの記事
福島原発事故、もし「フクシマ」がスイスで起きたら - 1 –
このコンテンツが公開されたのは、
2011/05/10
この1ミリシーベルト ( mSv ) は、外部被曝 のみならず食べ物摂取による内部被曝の場合も厳守される。特に妊婦、胎児、子どもの場合は絶対だ。 ミュリット氏は放射線学の専門家。原発の事故などによる放射線の被害からスイス…
もっと読む 福島原発事故、もし「フクシマ」がスイスで起きたら - 1 –
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。