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コロナワクチンの不公平なアクセス 世界で緊張高まる?

女性
ケニア・ナイロビで、新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種を受ける年配の女性。多くの発展途上国は、いまだにワクチンの到着を待っている Keystone / Daniel Irungu

ワクチンの公平な分配を訴える声が、世界保健当局の間で高まっている。ジュネーブの専門家は「ワクチン・ナショナリズムが地政学的な緊張を悪化させる」と警告する。

世界保健機関(WHO)は世界保健デー外部リンクの7日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受けた国内・国際間の不平等拡大に対し、行動を起こすよう求めた。焦点は、ワクチンやその他医薬品への世界的なアクセスだ。

一部の高所得国では人口の広範囲にワクチン投与が済んでいるが、多くの貧困国には未だ全くない。WHOのテドロス事務局長はこうした状況を「経済的にも疫学的にも敗北」した「道徳的怒り」だと強く非難した。

ジュネーブ国際開発高等研究所(IHEID)の国際保健専門家ミシェル・カザツキン氏はスイス公共放送(仏語、RTS)に「ワクチン・ナショナリズムは地政学的な緊張を悪化させる」と語った。同氏は、世界保健総会(WHA)が立ち上げた独立委員会のメンバーで、世界各国のパンデミック対応を検証している。同氏は、中国やロシア、インドが低所得国にワクチンを輸出する一方で、豊かな国々がワクチンを囲い込むことを批判する。

ワクチンの公平な分配を目指す国際的枠組み「COVAX(コバックス)」は、まさにそのような不均衡を是正するべく始まった。だがカザツキン氏は、米国が最初に参加を拒否し、他の欧州諸国もワクチンを自国用に購入し始めたため、出鼻をくじかれたと話す。

しかし同氏は、現在の問題はワクチン生産における「ボトルネックだ」と指摘する。世界でワクチン不足が叫ばれるが、生産施設の建設には数カ月かかることもあるため、迅速な解決策はないという。

「私たちは過去の教訓から何も学んでいない。それは明らかだ」

またカザツキン氏は、パンデミックに対応するための西側諸国の戦略が欠如していたと指摘。特に、過去のパンデミックで重要性が証明された初期対応のスピードと、集中的にそれを実行する姿勢が欠けていたという。

同氏は「私たちは明らかに緊急事態に直面し、プレッシャーの中にいる。各国が内向きになり、自国民の幸福を優先している。国境を越え、世界規模での全体像を見ようとしない」と語った。

ワクチンへの公平なアクセスについては、5月24日~6月1日にジュネーブで開かれる第74回WHAで、議論が行われるとみられる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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