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コロナ休校の影響、スイスでは?

学生
スイス・フランス語圏の会社でイベント運営を実習中の訓練生たち。2020年6月 Keystone / Jean-christophe Bott

経済協力開発機構(OECD)が実施した国際教育調査によると、新型コロナウイルス感染拡大に伴う休校への対応で、スイスにはいくつか恵まれていた点があった。また、職業教育が依然重要な地位を占めている。

経済協力開発機構(OECD)は今月8日、世界46カ国の教育制度を比較する「図表でみる教育外部リンク」の2020年版を発表した。今年の焦点は「職業訓練教育の実態」と「新型コロナ危機による教育機会の減少」だ。

新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的流行)の最盛期には世界中で次々と学校が休校になり、リモート学習がその隙間を埋めた。

報告書中のスイスに関する分析(カントリーノート)によると「スイスでは何らかの形で(実質的)休校が行われた期間は、州によるばらつきはあるが、最長で13週間。これに対しOECD加盟国の平均休校期間は14週間だった」。

スイスでは3月16日に全国の学校が一斉に閉鎖された。連邦政府がこういった措置を取るのは、教育管轄権が州にあるスイスでは異例のこと。学校の再開は5月11日以降、低学年から順次行われた。報告書は、休校期間中に春休みが重なったことで影響が和らいだ可能性を指摘する。

失われた授業時間

スイスの昨年の年間平均授業時間は初等義務教育課程(〜12歳)で797時間、前期中等義務教育課程(〜15、16歳)で945時間だった。OECDの調査グループはこの数字を元に、休校で失われた週当たりの授業時間数を前者で約21時間、後者で約25時間と算出した。

図表でみる教育外部リンク」は、OECD加盟37カ国とアルゼンチン、ブラジル、中国、コスタリカ、インド、インドネシア、ロシア、サウジアラビア、南アフリカの教育制度を分析する報告書。

OECDによると、学校再開の決め手は生徒と教師の間に1~2メートルの安全な距離を保てるかどうかが大きく関係していた。

「1クラスの生徒数が少ない国ではソーシャルディスタンシング(社会的距離)を守りやすい。スイスの公立小学校の1クラス当たりの平均児童数は19人で、OECD加盟国平均の21人を下回る」

留学生に大きな影響

報告書は高等教育も取り上げている。スイスの大学ではロックダウン中も研究活動は規模を縮小して続けられていたが、秋学期開始と共に学生たちも戻ってきた。

ただし、今年は留学生の減少もあって学生の構成は例年とは大きく異なる見通しだ。報告書は、パンデミックがスイスの大学にもたらす主な影響の1つに、こうした「国際化」の後退を挙げている。

「スイスの外国人留学生の割合はOECD全体の値を上回る。そのため影響はより深刻だと考えられる」(同報告書)

最新の統計によると、スイスの大学生の約30%を留学生が占める。2019/20年に博士号を取得した学生のうち、留学生の割合はOECD平均が25%なのに対しスイスでは56%にも上る。

職業教育への影響

OECDは、職業教育訓練(VET)も新型コロナ危機で大きな影響を受けたと論じる。企業の休業により実習生の実地訓練にも支障が生じた。スイス政府は5月、パンデミック下で受け入れ先を探す訓練生を支援するための特別タスクフォースを設置した。

報告書は巻頭言の中で、教育と職業の連携確保や雇用・経済の回復にとって職業教育セクターは極めて重要であり「ロックダウン中に経済や社会を支えた職業の多くは職業教育で養成されている」と指摘している。

スイスでは15歳以上の生徒の64%が職業教育コースに進む。残りは大学進学のための普通高校に通うか、訓練受け入れ先が決まらない場合はギャップイヤーを挟む。

スイス式システムの強さ

報告書は「スイスはOECD加盟国の中でも職業訓練制度が充実している」とし、このことが、座学と実習を組み合わせた制度への厚い信頼につながっていると説く。OECDパリ本部の発表によると、スイスでは後期中等教育課程の職業訓練生の約90%が学校と職場を組み合わせたコースに進んでいる。OECD加盟国の平均は34%だ。

「職業教育コース出身者は座学でも良い結果を残している。スイスは普通教育コースよりも職業教育コースの方が後期中等課程修了率が高いという点で、OECD加盟国中でも少数派に属する」(OECD)

(英語からの翻訳・フュレマン直美)

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