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世界がスイスの職業訓練制度にもっと注目すべき理由

スイス自慢の職業訓練制度にもコロナ危機

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4月27日に美容室も営業が再開し、実習生も職場に復帰した Keystone / Alexandra Wey

新型コロナ危機はスイスの職業訓練制度にも影響を与えている。若者の約3分の2が受ける職業訓練にも影響が出ている。

スイスには実技と座学を組み合わせたデュアルシステム(二元制)外部リンクの職業訓練制度があり、国内外で高く評価される。技能の高い労働力を生み、スイスが持つ経済的な強さの要因の一つとされている。だがコロナの流行を受け国全体がロックダウン(都市封鎖)となり、職業訓練も深刻な影響を受けている。

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スイスの二兎追い職業訓練制度

このコンテンツが公開されたのは、 スイスではかつて、子供は義務教育を終えた時点で職業訓練に進むか進学するかを選択しなければならなかった。今では事情は異なり、15歳で何を選択しようと、学業にも職業にも後から進路変更が可能だ。

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政府は5月7日、職業訓練に関するタスクフォースを設置した。連邦内閣外部リンクは「企業が廃業しその結果職業訓練の場がなくなることが予想される。また実習を終えた人々が職をみつけるのも難しくなる」と設置背景を説明した。

タスクフォースは今年8月上旬までにできるだけ多くの若者が実習を受けられるようにしたい考えだ。

15日にはタスクフォースでの議論を踏まえ、職業訓練制度の支援プロジェクトへの助成制度外部リンクを立ち上げた。

スイスでは14~15歳でいったん進学か就職かの進路選択をする。だがサポート役である学校が3月中旬から8週間休校となったため、特に実習先を見つけるのが難しくなった。一部の企業はオンライン見学会やビデオチャットによる面接を行ったが、全ての企業が対応できたわけではない。

長期的な影響は?

政府は15日、ロックダウンやその後の学校・経済再開が職業訓練にどのような影響を与えるか、月内に見込みを明らかにすると発表した。今後数年間にわたって波及効果が出る可能性があるとも警告した。

著名教育経済学者のシュテファン・ヴォルター外部リンク氏はコロナ危機により今夏は若者の失業率が大きく増えると予想する。

7日に発表したサミュエル・リュティ氏との共著論文外部リンクでは、コロナ危機の影響が長期化する可能性があると論じた。不況の深刻さによって、2025年までに1万4千~2万3千人分の実習先が不足すると試算した。

最も影響を受けるのは誰だろうか?今夏卒業する生徒はまだ実習先を探している(半数は採用済み)。「学力の足りない若者」は実習先を探すのに時間がかかることが多い。また仕出し業や観光業など、コロナ危機の打撃が大きい業界を志望する人たちも苦戦している。

見習い期間を終えようとしている生徒は、いつもなら新しい実習生に道を譲るため次の職場を探すが、今は先の見えない企業が彼らを手放したがらないかもしれない。ただ既に学校との間で新卒の採用契約を済ませていれば、そういうわけにもいかない。

好悪ないまぜ

スイス最大の職業訓練ポータルサイトYousty.ch外部リンクスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)教育制度講座外部リンクによる共同研究外部リンクは、好悪両方の結果を導いた。

調査した実習先企業によると、今秋始まる新規実習の2.8%がコロナ危機を受けて既に削減された。さらに5.5%を削減する可能性があるという。

一方、「年内はまだ1万4900人分の受け入れ先がある。ロックダウンの開始前に並ぶ多さだ。まだ受け入れ先を見つけられることを意味し、良い兆候だ。さらに一部の企業は若者にチャンスを与えるため、追加の実習枠を設ける考えがあると答えた」という。共同研究の著者らがswissinfo.chのメール取材に答えた。

共同研究は実習卒業生が直面している不確実性も指摘する。実習生の約25%は、実習後もフルタイムで採用される見込みが前よりも減ったと回答した。

諦めないで 

州による違いもある。ジュネーブ州では実習生の数が前年に比べ1000人減った。 一方でバーゼル・シュタット準州では実習契約が前年より44件多く、コロナ危機による実習生の解雇は報告されていない。

地域的な違いの背景には、ドイツ語圏ではフランス語圏・イタリア語圏よりも早い時期に実習契約が結ばれるという傾向がある。 

専門家は実習生たちに、先行きが不透明でも諦めないように忠告する。

Yousty.chのウルス・キャスティ―氏はドイツ語圏の日刊紙NZZ外部リンクで「(学校卒業から就職まで1年空ける)ギャップイヤーを選ぶよりは、実習開始を少し遅らせるか、今より困難な状況になっていたとしても秋に始めるのが良いだろう。ギャップイヤーは労働市場であまり役に立たないからだ」と語った。

新卒の一部の人は「憧れ」業界での実習を諦めなければならないかもしれない。最も人気のある実習先はオフィスワークだが、代替案の検討をキャスティー氏は提案する。 

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スイスのコロナ情報 マスク義務再開はなし

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(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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