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スイスにも迫るエネルギー危機

電気料金が高騰する中、スイスの電力事情も切迫してきている © Keystone / Christian Beutler

この冬、欧州全土で家庭も企業も電気料金と暖房費の大幅な値上げに直面している。スイスでは今のところ値上がりは比較的穏やかだが、中長期的にはより深刻なエネルギー問題を抱えている。

このコンテンツは 2021/11/16 10:30

現在の石油、ガス、電気料金の急騰には複合的な要因がある。各国で新型コロナウィルスのロックダウン(都市封鎖)後に需要が回復したこと、石油・ガス生産国が増産に後ろ向きなこと、石油・ガスの備蓄不足、異常気象(熱波が来るとエアコンの使用が増える)、サプライチェーンの停滞、そして炭素削減計画の広まりにより効率的な化石燃料生産への投資が滞っていること、などがその要因だ。

家庭のエネルギー価格はイタリアで30%、スペインで28%、ギリシャで20%上昇する恐れがある。

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この価格高騰による影響を緩和するため、一部の欧州諸国は低所得世帯への助成金の支給、税制面での介入、電気料金やエネルギー企業収益の上限設定といった手段を講じている。

スイスの状況

今のところ、スイスの家計への影響は比較的落ち着いている。

エネルギー価格高騰への対抗策として、スイスは水力発電と原子力発電を中心に電力生産に力を入れている。それでも石油、ガス、さらに電力も(特に冬の間は)輸入に頼らざるを得ない。

暖房、電気料金の上昇は徐々にスイスでも感じられるようになってきたが、最も影響を受けている欧州諸国ほどひどくはない。スイスの10月の暖房用石油料金は前月比11.2%、前年比50%上昇した。

政府統計によるとガス料金は今年9月から10月にかけて6.7%上昇した。

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スイスは山の多い地形のためガスの輸送が難しく、ガスの消費量は国全体で独ハンブルグと同程度でしかない、とスイスガス産業協会のトーマス・へグリン氏は語る。

ヌーシャテル大学のエネルギー専門家、メディ・ファルス氏によると、暖房に天然ガスを使っている世帯がスイスでは全世帯の約4分の1にとどまる一方、ドイツでは半数に上る。

また、スイスの40%は石油を使っている。スイス燃料企業連盟(スイスオイル)によると、現在の石油の市場価格だけではなく様々な要因が最終価格に影響すると言う。

スイスフラン高もその1つだ。燃料は米ドル建てで取引されるため、フランが高いときはスイスに有利になる。

石油産業は最低でも3カ月の供給分を備蓄しておかなければならないことが法的に義務付けられている一方で、各家庭では、すでに冬に必要な燃料の50%が地下に貯蓄されている、とスイスオイルのウエリ・バマート社長は話す。

連邦電気委員会は平均的なスイスの家庭の来年の電気料金の上昇率は3%にとどまるだろうと予測している。

しかし、どの程度電気料金が値上がりするかは地域によってかなり異なる可能性がある。配電事業者が前もって固定価格で電気を購入済みかどうかで電気料金の上昇率が大きく変わってくるだろう。超過利潤を抑制するために価格の上限を規制できる制度があるにもかかわらず、地方自治体によっては、2022年には前年比20%以上料金が高騰するところも出てくる見込みだ。さらに、州がどれだけの電力を輸入に依存しているか、またその電力をすでに固定価格で購入済みかどうかで料金は大きく変わってくる。

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それでも、配電事業者が分散されているスイスのシステムは他国の中央集中型送配電システムに比べて有利に働くだろう。「フランスには電力公社(EDF)という巨大な電力会社が1社あるだけなので、この電力会社に問題がおこるとフランス全土でトラブルが発生する」とスイス連邦電気委員会のシャンタル・カヴァッツァナ氏は話す。スイスの配電網は地域密着型で、約600の企業が電力を供給している。

スイスは陸の孤島ではない

スイスの産業界もエネルギー危機を肌で感じ始めている。原料や部品を輸入に頼っている企業が多いからだ。コストを消費者に転嫁する企業や、減産や従業員の勤務時間短縮を検討し始めた企業もある。

「世界各地のサプライヤーが電力不足に直面していて、通常通り生産することが難しくなっている」と経済連合エコノミースイス(economiesuisse)のチーフ・エコノミスト、ルドルフ・ミンチ氏は話す。「このため世界中でサプライチェーンの混乱がおこっており、これがスイス経済にも影響している。この問題は去年よりもさらに悪化している」

エコノミースイスの調査で、80%の企業が現在、製品に必要な原材料や主要部品の調達に問題があることが判明した。

セメント、紙パルプ、ガラス、鉄鋼などのエネルギー集約型産業はガスや電力の輸入に大きく依存しており、コストの増加は切実な問題だ。これらの企業は製造業者、建築業者に原材料を供給するほか、リサイクル事業を展開していることもある。スイスの企業はヨーロッパの競合他社と同じように、特にエネルギー供給契約の更新時に問題が起こる。

スイスの配電接続費用は隣国と比べて30%から60%ほど高い、とスイスエネルギー集約型産業協会(IGEB)は嘆く。「スイスの配電費用は中央ヨーロッパでもっとも高い」と同協会のフランク・ルエップ会長は語る。さらに、企業の配電費用に補助金を出している国もあるが、スイスは補助金を出してない、とルエップ氏は話す。

スイスの有権者は6月の国民投票で、二酸化炭素(CO₂)排出に追加課税する新しい法案を否決した。しかし再生可能なエネルギーへの投資強化のための増税案が引き続き議論されている。さらに増税されれば、エネルギー集約型産業は、リサイクル事業も含めてスイスでは採算が取れなくなるかもしれない、とルエップ氏は話す。「この産業をスイスで維持したいのであれば、適切な条件が必要だ。でなければ我々も生き残れない。」

エネルギー危機の可能性

今のところスイスのエネルギー問題は限定的なものだが、すぐにでも状況は悪化し得る、と政府は強く警告する。

企業約3万社に節電を促すパンフレットが10月に送付された。さらにシモネッタ・ソマルーガ環境相は繰り返し、スイスは再生可能エネルギーの生産を増やすべきだと訴えている。

これにはスイスが原子力発電所を段階的に閉鎖することを確約していることも影響している。しかし、廃炉の期限は設けられていないため、数年遅れる可能性が高い。

スイスのエネルギー安全保障上、より差し迫った問題は、欧州連合(EU)の電力市場との統合に進展がないことである。EU本部はスイスに、EU市場に適合できるようさらなる自由化を求めている。

EU各国とスイスの間で交わされている多数の二国間協定に代わる包括的な条約を制定する交渉をスイスが打ち切ったため、状況はさらに悪化している。

エネルギー危機が深刻な影響を及ぼすことを考慮し、政府は10月に最悪のシナリオを想定した対応策の概要を発表した。

第一段階では国民に節電を呼び掛ける。第二段階でスイミングプールやエアコン、エスカレーターの使用を禁止する。第三段階で初めて経済活動に対する電気供給を割当制にする。

2025年までに再生可能エネルギーを増産し、スイスのエネルギー安全保障を強化することを目指す新しい法の承認を国会が急ぐのはこのためだ。代替案としてスイス全土にガス火力発電網を設置することが考えられている。

(英語からの翻訳・谷川絵理花)


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