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ハイジとUBS スイスのイメージにギャップ

Keystone

スイスは4月、経済開発協力機構 ( OECD ) が作成した租税回避地としてタックスへイブンリストに掲載された。一方、8月中旬、UBS銀行の4450人分の顧客情報は米政府に開示されることになった。フランスも、同じように情報開示を要求している。スイスは最近、印象悪化につながる出来事で注目され続けている。

そこで、日本をスイスに紹介する会社の社長、小林義明さん ( 55歳 )、在大阪領事館元総領事夫人のハルテンバッハ・渡辺武子さん ( 65歳 )、在スイス歴33年で通訳者のペーター・文子さん ( 60歳 ) の3人にスイスの今について語ってもらった。

swissinfo.ch : 

スイスはこれまで、イメージの良い国であるという認識でよろしいでしょうか?

小林 : 

イメージを問題にする前に、日本では、スイスをよく知らない人が多い。わたしなど、スイスに居るだけで、資金隠しをしているのではないか、いったい、何をしているのかなどと疑われます。特に、男の場合は、そうです。そういったイメージでなければ、ハイジや乳製品といった、日本の「フジヤマ芸者」のような限られたイメージしかないと思います。

ハルテンバッハ : 

日本人が持っているスイスのイメージは年齢層、関心の度合いなどで差があるのではないでしょうか。スイスを深く知っている人ほど良いイメージを持っていると思います。

ペーター : 

職業柄、仕事で接する日本人は大学の先生などが多いのですが、こうした方々は、スイスの最先端を行く技術を求めてスイスを訪ねて来ます。スイスに対してはその信頼性や高い品質を求めていらっしゃる方々ですので、良い印象を持っていると思います。

小林 : 

そのような、良いイメージが定着しているのは、スイスは世界においてラッキーな国だからだと思います。ところが、若者は、安定した堅い仕事をしたいと思う。アメリカのようにベンチャー企業を起こしたいと思うより、安定した大企業で仕事をしたいと思っている。チャレンジ精神がほかの国と比べたら低い若者が多いですよ。

スイスは隙間産業で成功しているわけですが、それは、誰もやらないところでやってきたということであり、そこがわたしの言うラッキーということなのです。例えば、日本は家電の会社はたくさんありますが、その中で、戦っていかなければならないという世界です。一方、スイスは、隙間産業の中でも、もっと隙間を見つけようということもない。戦ってチャレンジすることはない。ここは戦いがない国です。

swissinfo.ch :

それは豊かだからですか?

小林 :

違います。スイス人は頭がいいからです。よく勉強するし、無いものを発見することができる能力がある。頭の良さというベースの上に、ラッキーが重なって今まで来たのではありませんか。

わたしがこの国が好きなのは、「ラッキーなカントリー」だからです。

ペーター : 

ラッキーというのは違和感があります。これまで、スイスは、自分たちが模索し続け、その結果、隙間産業の道を歩んできたのではないでしょうか。ほかに可能性がなかったし、他国と戦ってもしょうがないという認識があったのではないでしょうか。自然資源は少ないですが、教育制度は素晴らしい資源を培ってきたのです。

わたしは、早くから職業を決めるというスイスの教育制度が好きです。
若者が夢を持てる社会があります。隙間産業で生き残るためのノウハウを持っているのがスイスです。インドや中国が経済面で台頭してきても、小国スイスでしかできないものがあるとすれば、これまで蓄積してきたノウハウを、さらに高度な教育を受けた若者たちが活用することです。

ハルテンバッハ :  

そのノウハウがどこまで続くのか、という疑問はあります。今後は、他国もスイスをまねするようになるかもしれません。スイスの特異性が今後、どこまで通用していくのでしょう。例えば、銀行ですが、守秘義務の行先も見えてきています。そうなってくると、ほかの銀行と違いはあるのか?

小林さんがおっしゃる、頭がいいというのは、必要に迫られたものではありませんか。何もなかったから生み出さなければならなかった。こうした積み重ねの結果です。しかし、今、その精神が何となくおろそかになっているように感じます。

今まで培ってきた努力の上にあるべき今のスイス政府も、一昔前とは違ってきたように思います。

今回のリビアの問題にしても、2人のスイス人を帰国させるために、1機しかないスイスの公用機をトリポリに飛ばしました。その必要があったのでしょうか。 ( 2007年、リビアで故意にエイズを子どもたちに感染させた罪状で死刑判決を受けたブルガリア人看護婦たちの釈放に関与したフランスの外交努力を指し ) フランスのようなパフォーマンスをスイスはまねる必要はないのです。スイスらしいやり方があるのではないでしょうか。公用機ではなく、民間機を使っていれば、世界がスイスを見る見方も変わっていたのではないでしょうか。

この頃のスイスは、大きな国の一部になりたいと思っているような行動があると思います。スイスは小さな国のままでよいと思います。

swissinfo.ch : 

最近は、派手なパフォーマンスを用いた外交をするようになったとして、スイスがなぜ大国の一部となりたいと思っているのでしょうか?

ハルテンバッハ : 

富める国になれば、今度は、世界の大リーグの一員として認められたいと思うようになるのではありませんか。また、スイスがEU ( 欧州連合 ) 加盟国ではないことをカバーするための焦りかとも思います。国連では、人道援助で貢献したりして。そもそも、国内で、言葉が違うだけで、睨 ( にら) みあっているにもかかわらず、国外に対しては人道主義をアピールするという、非常に不可解なものを感じます。

swissinfo.ch : 

今後スイスは、外国に対してどのような点を理解してもらうべきだと思いますか。

ペーター :

今、スイスが叩かれているのは、スイスに対する嫉妬からくるものが多いと思います。一方、スイス人は自分たちの努力でここまで来たのだと思っているでしょう。

いずれにせよスイスには、創造性に富んだモチベーションの高い若者がいます。小さな国でも、こうしたことを維持できる国であり続けると思いますので、心配する必要はないと思います

ハルテンバッハ : 

スイスとして売るべき点は、生活水準の高さです。都市から短時間で行ける郊外には自然が豊かにあります。スイス人は昔から黙々とこうした環境を守ってきたのです。生活水準の高さにスイス人の気質が表れているということは、あまり知られていない部分ではないでしょうか。ただ、連邦制で州個別の意図が働き、国が一丸となってスイスをアピールするという力に欠けていますが。

小林 : 

叩かれることさえスイスは織り込み済みです。スイスは、他国に迎合しない、独立性の高い国です。譲れる部分と譲れない部分を知っている。

スイスがEUの共通通貨であるユーロ圏に入り、フランを捨てた時は大変なことになると思いますが、スイスがスイスフランである限り大丈夫です。いずれにせよ、悪いイメージでこの国を見るべきではないと思いますね。

また今後は、両国のことをよく分かっている、スイス-日本人2世に期待したいと思います。

swissinfo、司会 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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