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今、なぜ若者は暴動を起こすのか?

チューリヒ市は、若者の不満が爆発する中心地になっている Keystone

9月10日土曜日、違法に湖岸でのパーティーを組織したチューリヒの若者たち約1000人が建物の屋根に上るなどエスカレートし警察が出動。

1週間後の17日土曜日は、「自由を表現するために集合」のメッセージをSMSで受けた若者たちがすでに警察との衝突を考え鉄棒などを持参しチューリヒ駅周辺に集まった。

 これは、最終的に催涙ガスやゴム弾が使用される暴動に発展。100人近い若者が拘束されることになった。また9月25日土曜日にも、バーゼルで若者数十人が建築現場の資材を燃やす騒動があった。

 

 こうした新しい暴力の現象を、バーゼルの社会学者ウエリ・メーダー氏は、社会的不平等が一つの原因だと指摘する。メーダー氏は、バーゼル大学で社会学を教えているが、主に社会的不平等に起因する暴力などを専門にしている。

swissinfo.ch : この夏ロンドンであった暴動のように、スイスでも社会的不平等を根に持つ若者による暴力行為が起こり始めているのではないでしょうか?チューリヒの暴動もこの社会的不平等に原因があるのではないでしょうか?

メーダー : 確かにスイスでも社会的不平等による不満が爆発しようとしている。しかし、直接民主制、労働環境での融和政策、対話やコンセンサスを重視する政治姿勢などのスイスの制度や伝統があるにもかかわらず、チューリヒでこのような暴力行為が起こるのは、やはり驚きだ。

スイスでは、社会的不平等は60年代には減少した。しかし70年代以降、特に80年代の終わりに再び顕著になってきた。この不平等が、最近の若者と警察の衝突の直接の原因ではないが、一つの要因ではある。

多くの若者が将来に展望を持てない。すべてが自動化されていて良い結果や成績だけがその人物の評価になる。こうした社会に意味が見い出せないと感じている。軽犯罪を犯した若者を調査すると、「歯車の一部になるのはいやだ」という答えがしばしばかえってくる。

長い間、労働と(そこから生み出される)資本は同じ価値を持っていた。ところが今日、「資本の方がより重要になっている」と若者は見ている。

swissinfo.ch : しかし若者の中にも、資本やお金に惹かれている人も多いのではないでしょうか?

メーダー : いつの時代でも、時代に逆行する人はいるものだ。1968年でも、全員が(社会に批判の目を向けた)68年的な人物ばかりではなかった。

swissinfo.ch : 80年代に起きた暴動に比べ、今日のものはイデオロギーや政治的主張がないものだと言う人もいますが・・・

メーダー : イデオロギーを持たないということも一つの意味ある姿勢だ。一番酒を飲めるは誰かといった競争をやること自体、消費社会が生み出した態度であり、さらにこの快楽主義は、働くことだけが価値を持つ両親の世代に対する一つの反抗にあたる。

つまり、政治的メッセージがないこと自体が、彼らにとってのメッセージなのだ。そしてその点を真剣に受け止める必要がある。

swissinfo.ch : チューリヒでは、公的な場所が制限されていると市民が感じているとの報告を市の関係者が行っていますが、その点をどう思いますか。

メーダー : 私も実際、公的な場が狭くなっていると感じる。交通が恐ろしく公共の場を占領している。

たとえ、若者に対しスポーツや文化関係の行事を週末などに用意する努力はしていても、それで十分なのか、それともほかの方法が必要なのか分からない。恐らく、若者自身が、自分たちで責任を持って管理し、自分たちの主張も行える空間が必要なのではないだろうか。

swissinfo.ch : ところで破壊行為や暴力そのものをどう考えますか?

メーダー : メディアは破壊行為を大げさに報道しすぎる。バーゼルでダボス会議に反対するデモが行われたときのことを思い出す。デモは平和的に行われた。車は1台もつぶされなかった。UBS銀行の窓がたった一つ壊された。それをメディアはこの窓が壊されたことだけを書きたてた。

スイスでは、公共の場での暴力行為は非常に少ない。従って、なぜこんなに穏やかなスイスで急にこのような暴動が起こっているのかを考える必要がある。

例えば、こんな経験がある。私はバーゼルのサッカーチーム「ムッテンツクルフェ(Muttenzkurve)」のサポーターたちを(調査の目的で)大学に招待した。来るのは数人だろうと部屋を一つだけ予約していたら、何と700人も来てくれた。そこで大学の階段式の大講堂に移動しなければならなかった。そして彼らは、進んで多くの質問に答えてくれた。

刑事事件の青少年被疑者に関わったこともあった。まず彼らに話を聞きたいと検事に提案したところ、検事は誰も応じないだろうと答えた。書類を読む限り、大犯罪人のような感じを受けた。ところが、全員が私に話したいと言ってきた上、実際話してみると書類の内容とはかなり違う人物たちだった。こんな青年たちを犯罪者に仕立て上げてはならない。

まだある。サッカーのバーゼル・チューリヒ戦で、フーリガンたちに対する非公開審査が行われたときだ。被告人たちは私を傍聴人に選んだ。ここで驚いたのは、裁判長の態度だった。裁判長は被告人の話を最後まで聞かず途中何度も言葉をさえぎるように質問する。それが任務だと思っていて、悪気でやっていない場合もあるのだが、青年たちが絶えず言葉をさえぎられていらいらするのは当然だ。社会学では、こうした状況を「いら立ちがいら立ちを助長する」と呼んでいる・・・

チューリヒ市が後援する「開かれた若者支援所(OJA)」によれば「今日たとえどんなに小さなイベントを企画するにしても、コンセプトを細かく明記した申請書を6カ月前に提出しなくてはならない。従って、急に思いついた柔軟性のあるイベントはできない」という。

市当局はこうした公共の場でのイベントに対し、新しい対策を立てる必要性を感じている。それは、売春の問題、若者たちのイベントなども総合的に捉える対策になる。

一方、チューリヒ警察の広報担当官レト・カサノヴァ氏は、「自由な公共の場がもっと欲しいと主張する若者たちとは対話を行っていく必要がある。しかし残念ながら、こうした対話を必要とする若者にきちんと向き合える人物が今までいなかった。今後この点を改善していく必要がある」と語る。

( 仏語からの翻訳・編集、里信邦子 )

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