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海のプラスチックごみをエネルギー化、スイスの環境保護団体が計画

多くの海洋生物がプラスチックごみを摂取していることが分かっている raceforwater.com

世界の海を漂うプラスチックごみによる海洋汚染の実態を調査していたスイスの環境保護団体「レース・フォー・ウォーター財団」がこのほど、調査結果の概要を公表した。汚染対策として一般的なのは大規模な海洋清掃だが、同団体は「非現実的だ」と指摘。目指すのは、プラスチックごみのエネルギー化だ。

 同団体外部リンクのマルコ・シメオニ代表はローザンヌで3月1日、報道陣を前に「我々は悲惨な状況に直面している」と口を開いた。同氏は「世界経済フォーラム(WEF、本部ジュネーブ)の最近の報告外部リンクにあったように、このまま何の対策も講じなければ、2050年までに海を漂うプラスチックの量は重量換算で魚を上回る」と危機感を募らせる。

 プラスチックの生産量は1964年の1500万トンから2014年の3億1100万トンへと50年で20倍以上に急増。食物連鎖にダメージを引き起こす5兆個以上のプラスチック片が世界の海に浮いていると推測されている。

 同団体は昨年、船で大西洋、太平洋、インド洋をめぐり、汚染の実態を調べる300日間のプロジェクト「レース・フォー・ウォーター・オデッセイ」を実施。大量のプラスチックごみが海流で運ばれ堆積した、五つの「たまり場」と呼ばれる海域で初めて本格的な調査を行い、近隣の島に対する環境汚染の影響も調べた。

 メンバー6人が15カ所の島の海岸を訪れ、標準的な手法でプラスチックのサンプルを採集。サンプルは連邦工科大学ローザンヌ校、フリブールの技術建築高等学校、仏ボルドー大学に送られ、分析された。

 最終的な調査報告書は今夏に発表される予定だが、1日に公表された調査結果の概要によると、プラスチックごみによる海洋汚染は大きさ2.5センチを上回るマクロプラスチック、同5ミリより小さいマイクロプラスチックともに広範囲に及んでいる。

 シメオニ氏は「いくつかの海岸では、ごみの上を歩いているような印象を受ける」と説明した。採集したマクロプラスチックの約8割は、魚やカメがかみ砕いた跡が見られた。

 また、汚染の度合いは地域によって異なる。イースター島(チリ)の海岸の10平方メートルの範囲で見つかったマクロプラスチック(ボトル、キャップ、歯ブラシなど)は26個だったが、ハワイ島(米国)の同規模のエリアでは162個と約6倍の差があった。(動画参照。英語)

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 マイクロプラスチックも同様だ。インド洋に浮かぶロドリゲス島(モーリシャス)の海岸で、約50平方センチメートルの範囲で見つかったマイクロプラスチックは180ミリリットル容器1個分だったのに対し、ハワイ島では容器9個分に上った。

プラスチックごみの回収

 レース・フォー・ウォーターのほかにも、プラスチックごみの海洋汚染を食い止める様々な試みが世界中で進んでいる。

 中でもメディアの注目を集めているのが、環境団体「オーシャン・クリーンアップ」の創設者でオランダ人のボイヤン・スラットさん(21)だ。スラットさんは、V字型の巨大な「浮き」を海面に浮かべ、海流で運ばれてきたプラスチックごみを1カ所に集めて回収する仕組みを考案。実証プロジェクトとして、オランダの23キロ沖の北海に長さ100メートルの浮きを設置する計画だ。

 プロジェクトは数カ月以内に開始する予定で、スラットさんはこのプロジェクトで構想通りプラスチックごみを1カ所に集めて回収、海から除去し、最終的にはリサイクルまでつなげたい考えだ。本格的な実証プロジェクトは今年、長崎県の対馬沖で始める。

 ほかにも、英国の発明家らが「シーバックス」というバキューム船を開発している。太陽光と風力を動力源とし、150トンのプラスチックごみを回収、蓄積できるという。

 だが、シメオニ氏は大規模な海洋クリーン作戦は「非現実的だ」と主張する。

 同氏は「ごみの多くは水中に沈んでいる。マイクロプラスチックは海のあらゆるところに散らばっている上に波で移動するため、集めることはできない。ごみのたまり場は水深1千~5千メートルに及び、機械を使おうにも固定するためのアンカーが届かない。コストがかかり過ぎる上に得られる結果はわずかだ」と言う。

 プラスチックが一度海に流れ出てしまえば手遅れだ。重要なのはその前段階の陸上で、プラスチックごみを出している場所に対して防止策を講じること、さらにすべてのプラスチックごみをリサイクルできる手立てを見つけることだとシメオニ氏は強調する。

プラスチックをエネルギーに

 世界の大都市では、失業者がごみ(ガラス、アルミニウム、鉄、紙、一部の地域ではリサイクル可能なプラスチックボトルなど)を集めて換金している。プラスチックごみでも同じようなことができないのだろうか。(動画参照。仏語、字幕・英語)

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 そこで、レース・フォー・ウォーターは人を雇ってプラスチックを回収し、クリーンな電力に再生させる費用効果の高いビジネスモデルを考案し、匿名の企業と協議しているという。

 同団体によると、この企業は超高温による加水分解(気化)の仕組みを開発中で、摂氏1200~1400度、無酸素でごみを焼却する炉のある試作設備を持つ。プラスチックは超高温の環境下では瞬時に合成ガスに変化する。ガスは主に水素、一酸化炭素、二酸化炭素による化合物で燃えやすく、タービンを動かしたり電気の生成に使ったりできるという。

 「5トン設備で、年間1680トンのプラスチックごみを3500メガワット時のエネルギーに変えることができる。島の2千世帯の電力をまかなうのに十分な量だ」とシメオニ氏は語る。

 さらにこの方法では、あらゆる種類のプラスチックを分別することなく一度に焼却できる上、有毒ガスが発生しないといった利点もあるという。

 この企業は5トン、25トン設備を設計済みで、現在生産段階に入っているという。計画通りに行けば、レース・フォー・ウォーターは今年末にもこの設備を使い、イースター島で試験的なプロジェクトに乗り出す。その後、他の島でも実施し、最終的には汚染源である沿岸部の都市に広げていきたい考えだ。

 だが、実現に向け課題は多い。シメオニ氏は、この複雑な新技術はまだ100%信用しきれないと認める。そしてもう一つの大きな問題は費用だ。

 シメオニ氏は「人々をどうやって集め、意識を高めてもらい、行動を変えるか。簡単なミッションではない。スポンサーや寄付者集めも同様に難航している。ごみや汚染は、あまり人の心を引き付ける話題ではないからだ」と苦慮している。

(英語からの翻訳・宇田薫 編集・スイスインフォ)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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