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欧州で30年、難民認定手続き迅速化の努力

北マケドニアとの国境で難民をチェックするギリシャの警官
北マケドニアとの国境で難民をチェックするギリシャの警官 Keystone / Nikos Arvanitidis

スイスは1年半前、難民申請をより速やかに処理できる新たな難民認定制度を導入した。手続きを迅速化しようとする動きは欧州の長年にわたる「うねり」だと移民政策の専門家は指摘する。

スイスの新しい難民認定制度が昨年3月に施行された。難民申請者の社会への統合あるいは本国送還をより速やかに行うため、申請者の選別を改善し、手続きを迅速化する。しかし、施行以来、申請理由や申請者の健康状態が十分に立証されていない、不服申し立て期間が短すぎる、選別の結果、迅速手続きに送られるケースが多すぎる、などの批判が広がっている。

連邦移民局は、調整は行ったが、新制度は上手く機能しているとの見解だ。

≫新制度の仕組みとそれに対する批判についてもっと知りたい方はこちら

難民申請の審査に推進力を与えようとする考えは目新しいものではない。大半の欧州諸国は長年、手続きの迅速化に努めてきた。手続きの迅速化は、欧州連合(EU)で交渉中の難民・移民の受け入れに関する新協定外部リンクの目的の1つだ。しかし、この方針の効果には議論の余地があると指摘するのは、仏パリ政治学院の欧州・比較政治学研究センターで研究部長を務めるヴィルジニー・ギロドン外部リンクさんだ。

swissinfo.ch:スイスは、難民認定手続きを迅速化するために新たな難民申請処理システムを導入した。他の欧州諸国も同様の対応をしてきたのか?

仏パリ政治学院の欧州・比較政治学研究センターで研究部長を務めるヴィルジニー・ギロドンさん
仏パリ政治学院の欧州・比較政治学研究センターで研究部長を務めるヴィルジニー・ギロドンさん Virginie Guiraudon

ヴィルジニー・ギロドン:手続き迅速化のうねりは非常に長い間続いてきた。1990年のダブリン協定調印以前から欧州では手続きの迅速化が話題にのぼっていた。フランスでは、2015年に制度改革が実施され、17年にエマニュエル・マクロン大統領が選出されると、再び法改正された。迅速化された手続きと「通常」の手続きという複数のルートを作るという考えに変わりはない。「安全な国」や「明らかに根拠のない申請」があるという考えは、最初のダブリン協定にすでに見られる。だから、欧州諸国が手続きの迅速化に努めて30年になることを強調したい。

しかし、この選別によって、本当に速やかに本国に送還できるわけではない。難民申請が却下されるタイミングは早くなったかもしれない。しかし、本国送還を実施できるよう、本国から渡航文書を取得することはどの国にとっても難しい。

swissinfo.ch:他の欧州諸国でも、手続きの迅速化を目的とした制度改革は、専門家や難民申請者の擁護団体から批判されているのか?

ギロドン:批判されている。また、定性的研究によって、これらの批判の妥当性は確かめられている。実際、二重に逆効果だ。審査に掛けられる時間が短くなると、申請者の話は、申請内容を審査する係官の期待に沿うよう画一化される。そして、係官もまた申請者が「箱」にはまるかどうかを決めるために「近道」を使うようになる。迅速化とは、申請者の話を詳細に調査したり、補足情報を探そうとしたりしないことであり、申請者側でも係官側でも手続きが画一化されることだ。

swissinfo.ch:手続きの迅速化は、EUで交渉中の難民・移民の受け入れに関する新協定でも目的の1つなのか?

ギロドン:そのとおりだ。難民申請者を登録し、指紋を採取し、本国送還をめざす迅速な手続きか、難民申請を出すために欧州のある国に移送するための手続きかに進ませる、という考えだ。新協定には、本国送還はわずか数カ月の間に速やかに行わなければならないと明記されている。しかし、どうすればそれができるのかは分からない。また、申請を個別に審査するのではなく、国籍によって申請者を選別すると規定する。難民申請がさまざまな国でほとんど認定されなかった国籍を持つ人は、国境での迅速な手続きに送られることになる。しかしながら、認定率は毎年変化する上、難民の認定基準は国によって異なるだけに、この選別は極めて複雑なように思う。

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国籍で人々を選別することはいずれにしても非常に問題だ。例えば、反体制派の人々や、独裁政権ではないかもしれないが、特定の人々が母国を離れざるを得ないような国で増加傾向にあるジェンダーによる迫害が懸念される。

また、国境でのこれらの手続きによって、状況はどのように改善されるのだろうか。例えば、ギリシャには、地位が明確にされないまま何年も前から国境にいる人々がいる。欧州の他の国に移送されるわけでもなく、本国に送還されるわけでもないため、国境の難民キャンプに留まっている。

swissinfo.ch:新協定によって、欧州の国境に大規模な難民キャンプが形成されることを懸念しているか?

ギロドン:新協定が解決しなければならないのはまさにその問題だ。しかし、数百ページにおよぶ協定文書はお役所言葉の極みだ。協定文書の提案する内容が、どのように処理待ちの人々の問題を解決するのかが見えない。十分な数の欧州諸国が難民の移送に同意しなければならないだろうし、本国送還の手立てを見つけなければならないだろう。今は、自国民の帰還に同意する国もあれば、消極的な国もあるからだ。

swissinfo.ch:新協定をめぐって、難民申請の審査を欧州の国境に移そうとする動きはあるのか?

ギロドン:今年末までEU議長国を務めるドイツは、登録センターを欧州域外に、さらに南下して、地中海の対岸に置くというより強硬な考えを主張する。

swissinfo.ch:新協定交渉において、スイスはどのような役割を果たすことができるか?

ギロドン:スイスは欧州難民認定制度の創設国の1つだ。当初から議論に参加し、1990年代以降、難民に関する多くの政府間会議を開催してきた。EU加盟国でなくとも、スイスは主要なアクターであり、国際シンクタンクや国際移住機関(IOM)にも熱心に取り組んでいる。スイスが目下の交渉に直接参加していなくても、スイスの利益と理念は非常によく体現されている。

(仏語からの翻訳・江藤真理)

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