
アンドロイド、カワウソ、TENGA…スイスのメディアが報じた日本のニュース

スイスの主要報道機関が先週(6月10日~15日)伝えた日本関連のニュースから、①アンドロイドへのハラスメント研究②カワウソカフェの背後に密輸③日本製アダルトグッズの成功、の3件を要約して紹介します。日本メディアではあまり報じられていない日本の研究に、スイスの視点でスポットを当てています。
「スイスのメディアが報じた日本のニュース」ニュースレター登録はこちら
アンドロイドへのハラスメント研究
人工知能(AI)を備えたロボットが人間社会に浸透するなか、人間がロボットにハラスメントを働くことはあるのか?そんな疑問を解くための日本の研究を、ドイツ語圏スイスの大手紙NZZが取り上げました。
「日本ではマナーが非常に重視されていることは広く知られており、ロボットに対する適切な礼儀作法の問題が日本で最初に提起されたのは偶然ではないだろう」。記事は日本をこう位置付けながら、人間酷似型ロボット (アンドロイド)開発の世界的権威である石黒浩・大阪大学教授らの研究外部リンクを紹介しました。
研究では、アンドロイドと自由に会話できる3年間の展示中、多くの来場者は美人女性をイメージした自律型対話アンドロイド「エリカ外部リンク」に友好的に接したものの、「ハラスメント」に相当する接触も26回観察されました。「望まない口説き」「無礼なふるまい」「外見に関するコメント」「不適切な接触」があったといいます。
記事は「機械に失礼な態度を取ったり口説いたりしていいのか?」と疑問を呈した後、「この4つは一般的なハラスメントなのか?それとも日本特有か?」と続けます。何が礼儀違反とされるかは文化ごとに異なり、「ロボットに対するエチケット」という発想そのものが無意味とされる文化もあると説明。
そのなかで「日本には道具を大切にする伝統があり、使用時だけでなく、廃棄時にも一定の敬意をもって扱われる」ことから上記のエリカや、ソニーの犬型ロボット「Aibo」にも「親切で丁寧な扱いを求める気持ち」が生じると解説しました。
石黒氏らはさらに、こうしたハラスメントにどう対処すべきかも研究しているといいます。その結果としてロボットは不適切な行動への対応を学ぶことができ、記事は「これは間違いなく、ロボットが人間社会に溶け込むためのさらなる一歩となるだろう」と結びました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
カワウソカフェの背後に密輸
猫カフェをはじめ、動物と触れ合える商業施設が日本には数多くあり、中にはカワウソを鑑賞したり撫でたりできる「エキゾチックアニマルカフェ(EAC) 」も。イタリア語圏のスイス公共放送(RSI)は、こうしたカワウソを展示するカフェが、絶滅危惧種であるコツメカワウソ(Aonyx cinereus)の保護に資するどころか危機にさらしていると警鐘を鳴らしています。
記事が取り上げたのは、京都大学野生動物研究センターの藤原摩耶子特定准教授らがタイの研究者と共同で実施した研究外部リンクです。①動物園・水族館②カワウソカフェ②空港税関で押収されたカワウソ計81匹の遺伝子を分析したところ、③はタイ南部の密漁多発地域の野生カワウソと共通することが明らかになりました。
研究を受け、記事は「1990年代後半以降、日本へのカワウソの合法的な輸入は報告されていないため、現在流通しているコツメカワウソは、飼育下で生まれたものも含めて、違法に持ち込まれた個体に由来している」と解説しています。
また「カワウソカフェのオーナーの多くは、自身の商売がカワウソに与える影響を理解しておらず、こうしたやり方が野生動物の保護にまったく貢献していないことにも気づいていない」と指摘。ニホンカワウソが2012年に絶滅したことを挙げ、「現在のカワウソブームは、過去の過ちを繰り返すことになるのか?」と疑問を投げかけました。(出典:RSI外部リンク/イタリア語)
日本製アダルトグッズの成功
創業20周年を迎えたアダルトグッズメーカー、TENGA(東京都中央)。世界70カ国に展開しスイスでも知名度があるTENGAの創業者、松本光一社長(58)に、フランス語圏の日刊紙24heuresがZoomで取材しました。
記事は、松本市はTENGAを「文化現象の地位にまで押し上げた」と紹介。20~49歳独身男性の34.1%が恋愛未経験である日本で、TENGAは「男性の性欲コントロール方法に革命をもたらした」と伝えました。
TENGAが成功した背景として、「ジェンダーステレオタイプやポルノ業界が押し付ける規範を打ち破った」ことを挙げています。従来のアダルトショップに典型的な下品さを排除し、エレガンスやデザイン、シンプルさを重視。その結果「日本では発売当初から大手小売店で販売されている」と説明しています。
車両整備士だった松本氏は何か新しいモノづくりのアイデアを探していたところ、あるアダルトグッズ店でインスピレーションを得たと言います。貯金1000万円をはたいて開発に乗り出し、発売当初から大きな成功を収めました。マーケティングにも工夫を凝らした結果、「日本では男性の8割、20~30歳代では9割がこのブランドを知っており、その成功は世界中に広がっている」。
スイスではオンラインストア「KissKiss」がTENGA専用ページを設けています。サイトディレクターのマルク・ヴィソ氏は取材に「競合他社が魅力的な価格でTENGAを模倣し始めた」ため、発売当初ほど売れ行きが伸びないとこぼしました。スイスへの本格上陸について、松本氏は欧州進出は既に検討中とだけ回答。スイスについては「アルプスの少女ハイジ」のイメージしかない、と打ち明けました。
(出典:24heures外部リンク/フランス語)
【スイスで報道されたその他のトピック】
中国空母2隻が日本EEZに進入外部リンク(6/10)
日野自動車・三菱ふそうトラック・バスが経営統合(6/10)
仏マリンランド、シャチの日本への移送許可を政府に要請外部リンク(6/10)
私の愛する日本 スイス人映画監督ラファエル・ハラリ外部リンク(6/10)
Switch2、発売4日で350万台 新記録外部リンク(6/11)
【ポッドキャスト】ザンクト・ガレンの日本人帽子職人外部リンク(6/11)
中国軍機が危険飛行 日中間で非難応酬外部リンク(6/12)
コメ価格倍増 警鐘鳴らす農家外部リンク(6/12)
【ドキュメンタリー】日本の味覚外部リンク(6/12)
「自撮りおばあちゃん」西本喜美子さん死去外部リンク(6/12)
文化とイノベーションを融合させた大阪・関西万博外部リンク(6/12)
スイス南部ポルツァで葵・フーバー・河野さん展覧会外部リンク(6/14)
芸術家イケムラレイコさんインタビュー外部リンク(6/14)
話題になったスイスのニュース
先週、最も注目されたスイスのニュースは「ユーロスター、スイスと英国結ぶ直通列車運行へ」(記事/日本語)でした。他に「カナダの森林火災によりスイスで大気汚染警報発令」(記事/英語)、「スイス東部でハイキング中に女性が転落死」(記事/英語)も良く読まれました。
週刊「スイスで報じられた日本のニュース」に関する簡単なアンケートにご協力をお願いします。
いただいたご意見はコンテンツの改善に活用します。所要時間は5分未満です。すべて匿名で回答いただけます。
次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は6月23日(月)に掲載予定です。これまで配信したアーカイブ記事はこちら。
ニュースレターの登録はこちらから(無料)
校閲:大野瑠衣子

JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。